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Episode.025 俺の国って戦争に勝利出来たのか?

 いよいよ敵、帝国軍からの攻撃が本格化してきた。

 狭い橋頭保を確保すると、両脇から攻撃を仕掛ける王国軍と互角の戦闘を繰り広げている。

 更にパラネイが意見具申していた通り、本陣には魔法師軍団と攻城兵器とで遠距離攻撃を続けてくる。

 それに対して、シャラクは本陣の周囲に防御魔法を展開して、敵の攻撃を悉く封じ込めていた。


 山麓に配した敵軍の橋頭保には、早くも塹壕が工兵によって作られていて、南北両側から攻め立てる王国軍の攻撃を凌ぎだした。

 戦況の打開を試みた、第一軍団長のラソーゲが大声で檄を飛ばす。

「第一軍は柵から相手の前衛部隊に対して、突撃を敢行する。第二軍は敵工兵を中心に攻撃を仕掛けて、敵の陣地を壊滅させよ。一同、我に続け!」


 第一軍を中心とした王国軍は、敵帝国軍の前衛部隊に突撃を敢行して、敵部隊の一画を切り崩すことに成功した。

 狭い橋頭保内は、敵味方入り交じっての大混戦となっていった。

 両軍の兵の犠牲は、かなりの数に上り始めた。

 ラソーゲも自ら愛馬を駆って敵兵と切り結ぶが、混戦の中では、なかなか決定打を決めきれずにいた。

 現状の打開には、未だに戦果に欠ける思いが募っていた。

 それでも第二軍はその間隙を突き、敵陣地の破壊と工兵を多数切り伏せることに成功した。


 しかし帝国軍の兵は、後方から続々と新規投入されてくる。

「そろそろ潮時か……」 

 ラソーゲは独り言ちると、全軍に柵内への引き上げを命じた。

 局地戦としては、勝利を収めたと言っても過言では無かったが、後方から投入されてくる帝国軍が速やかに橋頭保の陣地の構築を始めると、再び戦線は膠着状態に陥っていく。

 

「あと何回突撃を繰り返せば、敵の前進を食い止められるのか!」

 ラソーゲは吐き捨てるように、毒づいていた。


 第三、第四軍を率いるパテックは、第一軍の突撃を見遣ると、自軍の攻勢を一層強めるように指示を出した。

 すると高所である峠に陣取った敵後方の魔法師軍団や攻城戦部隊から、本陣に向けて直接攻撃が始まり出した。

 本陣でも一応は防御魔法で防いでいるものの、帝国軍からの遠距離攻撃は次第に激しさを増していく。

 敵と一番近くに布陣し、後方にはイースター砦を備えているにも拘らず、なかなか有効な攻撃手段が見いだせずにいた。


「ラウール陛下……何卒ご無事で……」

 パテックもまた、自らが囮となって敵の正面に陣を敷いている、国王陛下の安否を気にしつつ、ただ目の前の敵を攻撃する以外の術を見い出せずにいるのであった。


 前線での攻撃が激化し始めると、やがて山麓から本陣に向けて、遠距離での魔法攻撃が襲い出した。

 獣人の伏兵を撤退に追いやった、雷撃魔法サンダーボルトである。

 シャラクは直ぐさま、本陣全体を天蓋で覆うように防御結界魔法を敷いた。

 降り注ぐ電撃魔法サンダーボルトは、防御結界に着弾した瞬間に霧散していく。


 敵の攻撃魔法は、火球や石弾を放つ火矢魔法ファイア・アロー石弾魔法ストーン・バレットのような、物理系遠距離魔法に切り替えてきた。

 また、本来は攻城兵器である巨大なクロスボウや、投石器なども使い始めている。

 シャラクの防御結界は、そうした物理攻撃ですら弾き返していた。


 たまに防御結界をすり抜けてくる攻城武器は、カレンが悉くを一刀両断に切り落としていった。


 激しい遠距離攻撃は、絶え間なく長時間続いている。

 さすがのシャラクにも徐々にではあるが、疲労の色が見え始めていた。


 橋頭保には更に後方から工兵が投入され、湿地帯に浮き橋や盛り土などで、前衛部隊に新たに配備された重装歩兵が、徐々に本陣に迫りつつあった。


「俺にも攻撃魔法が使えたらなぁ!」

 悔しさを吐き捨てるように呟いていた。


「ラウール様は、攻撃魔法も使えますぞ」

 シャラクは必死に防御魔法を維持しながら、そんな事を言い始めた。


「シャラクよ。今なんて言った?」

 俺には寝耳に水の一言であった。


「本来は先王との契約で、20歳誕生日のサプライズ・プレゼントとする約束でしたのじゃ」


「いや確かに、あと少しで20歳を迎えるけど。このままでは俺、20歳になる前に死んじゃうから!」

 俺は必死に訴えていた。


「先王はラウール様が魔法を使えないのは、ご自身が()()()使()()()()()()()()っていう思い込みが 強く影響してると考えておいででのぅ。そこで儂の読心魔法を使って、睡眠時の無意識下で魔法を毎日伝授しておったのじゃ。いわば睡眠学習かのぅ」


「それで毎日毎日、耳元の囁きで目覚めていたというのか!」

 あの業火に焼かれる、火の海の悪夢も。

 あの夥しい岩石に下敷きとなるあの悪夢も。

 あの深海に成す術もなく、沈んでいく悪夢も。

 あの強風に吹き飛ばされ、竜巻に天高く巻き上げられ墜落する悪夢も。

 あの可愛い娘に告白するも、往復ビンタを喰らって大地に打ちひしがれる悪夢も。

 俺はそんな理由で毎日、悪夢にうなされていた事実に、ただただ唖然とさせられていた。


「もっとも全部の魔法を伝授した訳ではないがのぅ。それでも多少の遠距離攻撃なら出来るじゃろうて」


「じゃあ、例えばどんな魔法が使えるんだ?」

 俺は自信なさげに、訊いてみた。


「そうですのぅ。儂が習得した魔法では、極大魔法と……まぁ地味な魔法は教えてはおりませんですじゃ。取り敢えず、敵から打ってくる石弾魔法ストーン・バレットでも、打ち返してみてはどうじゃろうのぅ」

 シャラクは、俺とカレンを見詰めながら言った


石弾魔法ストーン・バレットか……俺にも使えるかな?」


「ラウール様の魔法能力は未知数ですのじゃ。保証できる訳ありませんのぅ」


「フッ、気に入らんなぁ」


「ラウール様なら、きっと上手く使えると思うとるのじゃ」


「ありがとう。信じよう」


(あとは、この俺にも魔法の素養があるかだな。シャラクよ、俺を導いてくれ……)


「まずはこの位の大きさの土塊でも、金属球でも良いのでイメージで物質化していくのじゃ」

 シャラクは両の掌を、肩口に広げてみせた。


「ボーリング玉くらいだな」

 俺はシャラクの身振りを真似て、両手の間に物質を想像しながら創造していく。


(ボーリング玉?はて、何のことやら……)


 せっかく作るなら、固い金属球が良いんではないか?と思った。

 しばらくイメージを念じていると、両の掌の間に幻影が実体化するように、金属球が空中に生成されていく。


 するとシャラクは驚愕の表情で、俺の作った金属球を見詰めていた。

「ラウール様。儂も長い間に亘り、魔法を見てきましたが、ここまで硬質な完全な真球を目にするのは、初めてですのじゃ」


「それよりシャラク!これから、この球をどうすれば良いんだ?」

 俺は見詰める金属球から、目線を外せずに言った。


「次はその球に、前に進むイメージを注ぎ込みますのですじゃ。そして最後は敵に狙いを定めて、一気に魔法を爆発させるように発動しますのじゃ。すると進行方向の敵兵数名を倒すぐらいの威力には、なるはずですがのぅ」


 俺のイメージでは、金属球はタングステン製だ。

 タングステンの分子構造なんて、知る訳が無いのだが。

 打ち出すイメージはせっかく両腕を前にしているので、両腕を徐々に帯電させていき、量の腕の間にプラズマを発生させて、金属球と共に押し出すイメージを込め続けている。

 つまり正に、超電磁砲レールガンだ。


(タングステン?レールガン?はて、何のことやら……)


 俺は魔力が十分に……いや両腕が十分に帯電するイメージが確信に変わると、敵の前線部隊を狙って一気にプラズマを放った。

「いけ!超電磁砲レールガン


 俺が具現化した金属球を射出した。

 

(しまった!反動で上に逸れた)


 本来、魔法攻撃に反動などはない。

 どんなに強力な魔法を放とうとも、通常なら反動の無い謎システムだ。

 しかし今、俺は確かに衝撃波の反動を受けて、後ろに身体が大きくブレた。


 射出された金属球が、一瞬のうちに敵軍の頭上を通り過ぎるのを目にすると、遅れて耳を劈く大音響が轟き渡った。

 

ドドォ――――――ン!


 ソニックブームだ。

 俺が放った金属球が、音速を超えた証だ。

 前方に目を遣ると、当たって《《いない》》帝国兵が、吹き飛ばされるように宙を舞う。

金属球が通過した後には、瞬間だけ遅れて次々と、帝国兵が倒れていく。


 電磁砲レールガンの初速は、マッハ6を優に超える。

 衝撃波も相乗効果で、強まっていくと聞いたことがある。

 俺が放った金属球は、峠の間道を沿うように通過すると、遥か上空に舞い上がっていく。

 はるか上空に舞い上がった金属球は、やがてキラッと煌めいた。

 その直後に真っ赤な光が、頭上に広がった。


「火球になってしまった……」

 俺は上空を見遣ると、独り言ちていた。

 やがて……。


ババァ――――――ン!


 遅れて頭上から、大音響が鳴り響いた。

 それを耳にした王都民の義勇兵は、一様に身を潜めていた塹壕から地上に現れると、その上空の火球を見詰めていた。

 

 誰ともなく、あちらこちらから声が漏れ出てきた。

「我らの国王様が、神の奇跡を天にお示しになられたぞ」

「正にあれは神の啓示だ。ラウール国王は神に選ばれし御方に違いない」

「この戦争は、神がロレーヌ王国の味方をしているに違いない」

「この戦争は、神の恩寵を受けた聖戦だ!」


 様々な声が口を吐くと、やがてそれは俺を讃えるシュプレヒコールとなっていった。

「ラウール国王、万歳!われらロレーヌ王国に栄光あれ!」


 六万を超えるシュプレヒコールは、いつ終わることなく大声量で続いている。

遥か前方を見ると、敵の帝国兵は先を競うように撤退していく。

 最早、帝国兵には軍令など一切届かなかった。


 まるで映像を逆再生で映すように、敵の軍勢は麓から峠へと、下から上に殺到する様子が手に取るように分かった。



(俺の国って戦争に勝利出来たのか?)

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