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Episode.024 俺の国って別格の魔術師ばっかり?

 敵の進軍の報を受けて、俺は近衛騎士団を中心とした兵千名を率いて王城を発った。

 後には義勇兵の一団も続いて、進発する予定だ。

 前線の防御柵の設営も、本陣周りの塹壕なども準備は整っていると聞く。


 俺は愛馬に跨っている。

 乗馬には自信があったが、今は愛馬には鉄鋼と革を編み込んだ馬装を施しており、自らも王家伝統の鎧を着込んでいる。

 いろいろな意味で、滑らかに乗りこなしているとは言い難い。

 それでも様になって見えるとしたら、愛馬が賢いからに違いない。


 すると並ぶように、カレンが馬首を揃えてきた。

「殿下はもう少し肩の力を抜いたほうが、楽に乗りこなせるわよ」

 カレンは王国軍の鎧ではなく、自前の伝説の真紅の鎧を身に纏っていた。

 馬装も真紅なのだから、目立つことこの上ない。


「カレンこそ病み上がりなんだから、絶対に無理するなよ。唯でさえ目立ち捲ってるんだからな」

 カレンはにこやかに笑いながら、頷いて見せた。


 やがて目的の本陣予定地が見えてきた。

 既に本陣には夥しい数の、わがロレーヌ王国の王国旗がはためいていた。


(うん。これなら囮としても申し分ないな)


 本陣には軍務大臣のパテックとシャラクが、出迎えに来ていた。


「なかなか良い陣構えに仕上がっているじゃないか」

 俺は率直な感想を二人に伝えた。


「勿体なき、お言葉有難き幸せにございます。私はこれから第3、第4軍の指揮にイースター砦へと向かいます」

 パテックは敬礼をすると、直ぐに騎乗してイースター砦に向かって駆け出して行った。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 本陣の椅子に腰掛けると、愛刀『ムラサキ』を手に、遥か前方を見据える。

 因みにこの椅子も、王家伝来の『戦場の椅子』と呼ばれている。

 龍の革と伝わる強靭で完全防水である革仕立て覆われており、金属部分には王家に纏わる装飾が施されている。

 しかも金属部分も中空になっており、折りたためるため持ち運びも自在な豪華なパイプ椅子って言ったところだ。


(パイプ椅子?はて、何のことやら……)


 右側には今まで見たこともない大きな魔晶石を封じた、立派な杖を持つシャラクが立っている。

 服装もいつもの執事服ではなく、見るからに高級そうなローブを身に纏っている。

 どこから見ても、立派な宮廷魔道師に見える。

 その視線は、俺と同じく遠く遥か彼方の敵軍に向けられている。


「間もなく現れますぞ。ラウール様には傷一つ付けぬので、安心なされよ」


 卓越した魔法使いは、遠くの人の気配や魔力をも感じ取ると聞く。

 きっと敵の進軍度合いも、手の内の如く感じ取っているのだろう。


「そうね。軍勢特有の気配が高まっているわ。間もなく峠の向こうから敵兵の姿が見えるんじゃないかしら」

 左側からは真紅の鎧を纏ったカレンが、その豪奢な剣を携えて、仁王立ちしている。


 やがて夥しい軍隊特有の足音、鎧や盾が擦れる音、更には軍馬の蹄の音が地鳴りのように響き渡り出した。


 敵の軍勢が間道の麓まで降り掛かると、両峰から獣人の伏兵による弓矢が一斉に放たれた。

 敵の前衛部隊は、不意の後方頭上からの攻撃に慌てふためいて、その進軍速度は一気に遅くなっていく。

 放たれた矢は、弦から放たれた勢いと自由落下で威力を増して、敵の前衛部隊を崩し始めた。


 しかし、敵は歴戦の帝国兵である。

 空かさず重装歩兵が、重厚な盾を天蓋のように覆いながら、前線部隊の支援に動き始めた。

 盾で作られた天蓋の下を、軽装歩兵の一隊が駆け抜けてくる。

 

 すると今度は大振りの岩が、頭上から降り注ぎ始めた。

 さすがの重装歩兵も、高高度からの自由落下の岩石には成す術もなく打ち据えられていく。

 重装歩兵の援護を受けて前進してきた、軽装歩兵中心の前衛部隊は今度は前方に広がる広範囲の湿地と柵に阻まれ、前進が完全に止まる。

 そこを両脇から、王国軍四千が攻撃を仕掛けていく。


 前衛の数百の兵士を倒したところで、勝利を確信しかけたのであるが、そこからが帝国軍の真の精強さを目の当たりにすることとなった。

 敵は峠に魔法師軍団を配して、魔法攻撃を仕掛けてきたのだ。


 先ずは山の頂に陣取る、獣人たちが狙われた。

 天空にはいつの間にか雷雲が立ち込めて、獣人が潜伏する山頂付近に雷撃魔法サンダーボルトが幾重にも落とされていく。


 俺は慌てて、シャラクに尋ねた。

「あの霊撃魔法サンダーボルトを食い止めることは出来ないか?」


 するとシャラクは雷雲を凝視していたが、やがて頭を振りつつ答えた。

「敵にも凄腕の魔法師が複数おるようですじゃ。あの雷雲を晴らすことも、敵の魔法師を攻撃することも……」

 そこでシャラクは、言葉を途切らせてしまった。


(そう言えば、シャラクは攻撃魔法は一切使いたくないと言ってたな)


 仕方なく、近衛兵団の新任団長のパラネイに獣人部隊の撤収を指示した。

 パラネイは犬笛を使って、部隊の撤収合図を送っていた。

 どうやら獣人に等間隔で犬笛を持たせて、最前線まで合図を送れるように工夫したらしい。


(そう言えばパテックが、獣人との式典の際に天幕で戦場と式場を区分けしたのも、パラネイの的確な状況判断によるところが大きいと評していたな。まさに参謀に相応しい人材だ)


 俺はパラネイの動きや指揮ぶりも、気にするようになっていた。

 やがて副官から耳打ちされるとパラネイは、俺のところに報告にやって来た。

「ただいま獣人の伏兵部隊からの返信が在り、負傷者は出たものの兵の損失はないとのこと。これより撤収する旨の連絡が届きました」


「分かった。パラネイはそのまま、本軍付きの参謀としてここに残れ。近衛兵団の指揮権は副官に移譲せよ」


「御意!」

 パラネイは深々とお辞儀をすると、副官に様々な指示を耳打ちしていた。


(敵の進軍圧力は止められたが、与えた被害は敵軍からみたら、微々たるものだろう)


 俺はパラネイに、この後の軍略について問うた。


「恐れながら申し上げます。敵は頭上の攻撃を退けることに成功いたしました。今後は大軍の圧力を以って攻め込んで来ます。また帝国軍の後方からは遠距離攻撃で、魔法や攻城兵器で本陣を攻撃することが十分に考えられます。囮としての役割は既に果たされた以上、本陣を速やかに敵の攻撃圏外まで、後退することを進言致します」

 パラネイは深々と頭を下げて、奏上した。


「儂がラウール様には、傷一つ付けさせないと申しておるのじゃ!」

 シャラクが毅然と言い放った。


「まぁ敵が接近したところで、アタシより先には一歩も進ませないけどね」

 カレンも不敵な笑みを浮かべながら、競うように言い放った。


 俺はまた深い思考に沈んでいた。

 確かに本陣を引くべき場面かも知れないが、シャラクとカレンの戦場での実力は未知数だ。

 守り抜くと言ったら、きっと守り抜くに違いない。

 しかし敵軍に決定的な打撃を与える、切り札を失っていることも確かだ。


「フ――ッ。俺が魔法とか使えたら良かったんだけどなぁ」

 俺は知らずと独り言ちていた。

 すると……。


「ラウール様は、既に魔法を身に付けてますのじゃ」

「ラウール殿下は、魔法をいつも使ってるじゃない」

 両側から、似たような発言が飛び出した。


 取り敢えず、右側にいるシャラクに訊いてみた。

「俺は昔から()()()魔法使いに教わって来たけど、一向に魔法は使えなかったぞ」

 

「ラウール様とは、念話で話しておりましたな?」


「ああ、だがアレはシャラクの読心魔法テレパスだろ?」


()()先入観が、ラウール様の魔法の妨げになっておりましたのじゃ。考えてもみなされ、儂が念話をいくら使っても一方通行で、会話など成立する訳が在りませんのじゃ」


 俺は余りの事実を信じられずに、カレンにも訊いてみた。

「ラウール殿下との木剣の練習の折りに、いつも身体強化の魔法を使ってたじゃない。そうでなければ、身体強化魔法フィジカル・エンチャントの達人のアタシと互角に打ち合える訳が無いじゃない」


「ところで、俺の身体強化魔法フィジカル・エンチャントってどのくらい強化されてたの?」


「そうねぇ。大体20%増って感じかしらね」


(そっか。今までザ○と戦っていたのが、新型のグ○と戦わなければなら無くなった様なものか)


「ちなみにカレンは、身体強化ってどのくらいアップしてたの?」


 途端にカレンが口籠ってしまったが、ボソッと呟くように言った。

「あ、アタシ?まぁ……大体300%増くらいかしらね……」

 カレンは慌てて、フォローするように言った。

「で、でも帝国兵の精鋭でも10%増くらいなのよっ。それにいくら身体強化魔法フィジカル・エンチャントを使っても、身体が鍛えられてなければ、反動で筋肉がズタズタになってしまうわ」


(ん?待てよ。身体強化に堪えれる筋肉を付けると、更にパワーアップして基礎的な身体能力が上がってるはずだから、その300%増の身体能力になってるはず。そして更にその魔法に堪えれる筋肉を付けると……)


 俺は途中で、思考放棄することにした。



(俺の国って別格の魔術師ばっかり?)

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