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Episode.021 俺の国って戦争に勝利できるのか?

 軍務会議室での議論は、自然と白熱を帯びてきた。

 ただし斥候部隊の派遣だけは、俺の独断で直ぐに出発させた。

 情報戦に関しては、古今例外なくスピードと正確さが求められるからだ。


 軍略に関しては大きく分けて、三つの提案がなされている。

 第一案は、俺の意向を汲んだ軍務大臣のパテックの案で、大至急に五千の兵の大半を、イースター砦に集結させる案だ。


 これには第一軍団長のラソーゲが、猛烈に反論していた。

「敵の兵数は、三万ですぞ!兵五千で砦に籠ったところで、死守できるかどうか?ましてや敵が兵一万を砦の抑えとして配備されたら、ガラ空きとなった王都は、王城諸共に敵二万の軍勢に蹂躙されることは、火を見るより明らかですぞ」


「それではラソーゲは、どう考えているんだ?」

 俺は第一軍団長の軍略を求めた。


「先ずはイースター砦は早急に破却して、敵にも使えないように致します。その後は王都全域の門を固く閉じて、兵五千で防御に徹します。敵も兵三万を抱えていては、補給も長くは続きますまい。機を見ては討って出て、敵の補給物資を優先に叩きます。然らば敵も消耗戦を嫌い講和を求めてくるでしょう。あとは講和条件で出来るだけ時間を稼いで、敵の疲弊をじっと待てばよいのです」

 これが第二案であった。


 しかし、この案にも反対する者がいた。

 参謀政務付き武官のフランコであった。

「戦争はその様な希望的観測で、事態が進むハズがございません。敵が無傷で王都まで迫れるものなら、直ぐに通商連合からも物資を仕入れて補給路を複数確保することは自明の理です。それに我が王都の防壁では敵の大軍を退けるだけの頑強さが在りません。時間と共に一画、また一画と崩されて、王都の民間人の犠牲は計り知れません」


「それではフランコは、どういう軍略を考えているんだ?」

 俺は参謀政務付き武官の軍略を求めた。


「恐れながら申し上げます。こちらは幸運にも、早期に敵の侵攻に気が付きました。そこで敵が山脈の間道を抜けて疲れ切ったところを、麓に布陣して迎え撃つ。間道の幅は決して広くは在りません。正面戦力だけなら、兵五百対五百の拮抗した戦線を維持できます。しかも近くにはイースター砦が有るため、疲弊した戦力を砦で休ませることも十分に可能です」

 これが第三案であった。


 この案には、パテックが異議を申し立てた。

「しかし……同数の兵力で膠着状態になっては、数で劣る我が王国の兵力が徐々に損なわれていくのは必定ですぞ。それに地理的にも敵が高位を占めて、低地で迎え撃つ味方は常に劣勢のまま戦闘を継続せざるを得ない。これは余りにも無謀な賭けに出た戦略としか言いようがない」


 ……と、この様な議論が繰り返されているのであった。


 しかしこの軍略の場において、執事のシャラクは一言も口を開かずにいた。

ピキ――ン

(シャラクよ。なにか手立ては無いのか?お前だって、魔法のエキスパートなんだろ?なにかドデカい魔法で、敵を一掃するとか出来ないのか?)


ピキ――ン

(ラウール様、申し訳無いのじゃ。儂はもう金輪際、人を殺める魔法は使わんと心に誓っておりますのじゃ……それは先代の王に仕える際の条件なのですじゃ)


ピキ――ン

(シャラクよ、今は誰に仕えているんだ?それにお前がやらなければ、一般の民衆もせっかく助けた獣人たちの命だって守れないんだぞ!)


 何時まで経っても、最後の念話に対する返答が伝わることは無かった。

 俺は無性に腹が立ってきた……。

「どうしてみんなと協力できないんだぁ――っ!」


シィ―――――――ン……


 俺の一言で会議室が、一気に静まり返ってしまった。


(しまった!遣らかしてしまった……せっかく議論が白熱していたのに……)


 するとパテックは俺の方に恭しくお辞儀をし、改めて会議室の面々を見遣ると静かに口を開いた。

「ラウール陛下の仰る通りだ。唯でさえ数の上で劣勢な我が王国が、意見を対立させている時ではない」


「パテック殿、軍務大臣の重職にある貴殿に向かって、暴言を発してしまい申し訳なかった」

 第一軍団長のラソーゲが、深々と頭を下げた。


「私も第一軍団長のラソーゲ殿に対して、お詫び申し上げたい。それに全ての案が駄目な訳ではない。今こそ軍略の知恵を合わせて、良い作戦を構築しなければなりません」

 参謀政務付き武官のフランコも頭を垂れている。


「是非とも今回の作戦に、われら獣人族も共闘させてくれまいか?獣人だけが守られてばかりでは、名誉に関わるでのう。もしも敵をこの東の間道で攻撃するなら、獣人だけなら山岳を駆け上り、両側の峰から間道に向けて攻撃も出来ますぞ」

 老狼人族のツインピークスが、徐に会議での発言に加わった。


「おぉ!それはかたじけない。これで敵の高所からの攻撃にも対抗手段が見えてきましたな」

 軍務大臣のパテックも涙を滲ませながら、頷いている。


 俺はこの軍務会議室に入って、初めて王国軍が一枚岩になりつつあることを実感していた。

「戦争に勝利する国の王に、俺はなる!」

 この会議室に、俺の声が響き渡った。


(なんとかして、この流れを確実にさせる方策は無いだろうか?)


 俺は作戦地図を、ジッと見詰めていた。 


「敵軍は東の山間の坂道を駆け下るように、我が王国領に侵入してくるだろう。やはり敵を足止めさせるのはココしかない」

 俺は間道を抜けた先を指し示した。

 そして更にそこの正面を指し示して、続けて言った。

「ここに敵の足止めをする広範囲な罠を用意する。そして更にその正面に俺が囮となって、近衛兵団と共に本陣を構える」


 途端に会議室が騒めき出した。

「そ、そんな近衛兵団だけでは僅かに百名余り……それでは余りにも無謀に過ぎますぞ!」

「罠と言っても……急ぎ柵を設けても、敵軍の圧力で一気に踏み倒されてしまいますぞ!」


 するとシャラクが、ようやくやれやれっとボヤキながら発言した。

「ラウール様が最前線に立たれると言われては、儂もお側を離れる訳にはいきませんのぅ。それで罠というのは、この辺りに広大な湿地帯を作るというのはどうですかな?」


「そうだな。そこで身動きが取れなくなった敵兵を、側面から攻撃を仕掛ければ、勝算も上がりそうだな」

 俺は相槌を打ってみせた。


 更に会議室が騒めき出した。

「執事のシャラク殿は、いったいどの様にして、そのような罠を用意されるというのか?」

「水魔法を用いても、これだけの広大な土地を湿地帯にするなど、何か月掛かるか……?」


「ラウール殿下のお側には、アタシも常に付き従わなくちゃね。この()帝国最()の『真紅の戦乙女』と謳われた、ラ・マーセラが忠誠を誓ったのですからね」

 背後には、扉が開かれてあの真っ赤な騎士服に身を包んだカレンが、クリスティーナと共に立っていた。


「か、カレン……本当に無事だったんだな。よかった、本当によかった……」

 俺は立ち上がると、涙が溢れてきて、知らずとカレンの両肩を抱き締めていた。


 会議室はもはや、驚愕に包まれていた。

「カレン殿があの伝説の……ラ・マーセラだったというのか!」

「真紅の戦乙女といったら、敵一万の中を単騎駆けした……!」

「彼女が通った後には、ペンペン草すら残らなかったと言う!」


 俺は二人に改めて訊いた。

「開戦までの準備に、どれくらい掛かる?」


「そうじゃのぅ。三日も有れば完成しそうじゃ」

「そうねぇ。三日も有れば体調も万全に戻るわ」

 相変わらず、その声は見事に被っていた。


 俺は続けざまに指示を出していった。

「ラソーゲは第一軍団を率いて、至急イースター砦に向かえ!」

「ハハッ。身命を賭して任にあたりまする」


「パテックは残りの軍を率いて、シャラクと共に罠の構築と、軍の陣地の構築に掛かれ!」

「ラウール陛下の仰せのままに」


「ツインピークス殿は、獣人たちを纏めて貰えるか?」

「もちろんじゃ。獣人と人間の共存のためにじゃな」


「フランコは参謀政務付き武官と共に、ツインピークス殿への軍備および物資の提供を相談の上で提供するように。あとは王都民に対して戦時戒厳令の布告と、いざという場合に備えて避難計画を早急に立てて、周知を万全にすることだな」

「御意!」


一同は最敬礼をしつつ、軍務会議室を慌ただしく飛び出して行った。



(俺の国って戦争に勝利できるのか?)

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