表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

Episode.015 俺の国って外交で勝ったんだよな?

 いよいよゼロニス外交官の帰都共に、イッツターン商会の商会長カネスキーたち一行が、王都に到着した。

 奴隷の獣人少女たちも、幌馬車に分散して後に続いて到着した。

 今回は非道な行いが無いことをアピールするが如く、首輪や手枷足枷は外された状態で、運ばれてきたようだ。


 俺は獣人少女たちが再開する、感動の場面シーンに立ち会うことも出来ずにいた。

 なにしろ彼女たちの幸せを真に実現させるためには、これから始まる通商連合との外交戦争に勝たねばならないからだ。


 俺たちが事前に用意していた、作戦は以下の通りである。

 ●先制攻撃として“玉座の間”にて謁見を行い、王様権威で相手を威圧する。

  ↓

 ●シャラクの読心魔法により、相手の弱みを握る。

  ↓

 ●エチゴーヤ商会の供述調書により、イッツターン商会の犯罪を暴く。

  ↓

 ●通商連合の謝罪と賠償ならびに獣人奴隷の家族の開放。


 手持ちの手札から、この作戦でイケると高を括っていた。

 しかしながら、実際に作戦に入ると欠陥だらけの作戦だったことを思い知らされるのであった。


 先ずは俺は古めかしいが威厳のある、王家に伝わる伝統的な祭服に着がえて待ち構えた。

 謁見の場所は“玉座の間”で執り行う事とした。


 俺がゆったりと玉座に向かうと、イッツターン商会の商会長カネスキーたち一行は式典用の豪華な衣装を身に纏い、恭しく跪いていた。

 その挨拶の口上からも、場慣れしている感じが伺えた。

 それに対して俺と言ったら、国王を名乗るにはやはり若すぎるためか、どうにも貫禄に欠けるようであった。


(う――む。やっぱり服に着られてる感が、ハンパない感じで自覚するよなぁ)


 どうやら、作戦の第一弾は失敗に終わったようであった。

 引き続き作戦の第二弾を発動すべく、シャラクに視線を送った。


ピキ――ン

(シャラクよ。なにか弱みや情報は掴めたか?)


ピキ――ン

(ラウール様、申し訳ないのじゃ。恐らくは魔法阻害の魔道具を、複数身に付けている様ですのぅ……まったく思考が読めませぬのじゃ)


 早くも作戦の第二弾も、失敗に終わったようであった。

 俺はゼロニス外交官に、ブロックサインを送った。


 ゼロニス外交官は、エチゴーヤ商会の供述調書を取り出すと内容を読み上げた。

「……以上の供述から、イッツターン商会の犯罪は明白である」


 俺はイッツターン商会の商会長カネスキーに対して、弁明の機会を与えた。


「なるほど……エチゴーヤ商会の悪事は、火を見るよりも明らかですなぁ。ただし当商会に関して依頼されたのは、あくまで伐採された木材の仕入れと運搬のみで、獣人に関してはそもそも報告にも挙がっておりませんでしたぞ。それに国王陛下がご存知ないのも無理が無いことではございますが、こうした()()()()()()()は商慣習としては良くあることなのでございます」

 カネスキーは事も無げに弁明して見せた。


「それでは獣人奴隷については、どの様に考えているのか?」

 俺は重ねて問いただした。


「当商会も取引先を悪し様に言うのは憚られますが、獣人を拉致したのも、奴隷として売却したのも全て覇権帝国の意向でございます。それを多少強引に抱き合わせ販売にされては、エチゴーヤ商会も断り切れなかったのでしょうなぁ……」

 カネスキーはエチゴーヤ商会を擁護するほどの余裕を見せている。


(これは一筋縄では解決しそうにないな)


 俺は今回の外交戦争に対して、敗北感を味わいつつあった。

 当初は通商連合の非をつまびらかにして見せる場とする筈であったのだが、今やイッツターン商会の悪事すら問えるかどうかも疑わしい。


(あの獣人の少女たちの家族を、取り戻してあげることすら叶わないとは……)


 すると隣から、スッと一歩前に進み出る者がいた。

 それは聖女服に身を包んだ、クリスティーナであった。


 クリスティーナは、澄んだ声で高らかに謳い上げるように語り始めた。

「汝、迷える子羊たちよ。神は全てを見通されていますよ。いま内に抱える罪を告解すれば、神は汝に対しても慈悲をお与えになるでしょう」


「神聖教に帰依されている者には申し訳ないが、我々通商連合の者はみな、商売の神しか信じないのですよ」

 カネスキーは言い返した。


 すると閉ざされた天井から、穏やかな光が舞い降りて来たかと思うと、イッツターン商会の面々を覆い尽くすように降り注いだ。

 その光の中にはチラチラと、宗教画で見るような天使が何体も見え隠れしている。

 それはまさに、奇跡としか呼びようのない光景であった。


「さぁ、迷える子羊たちよ。懺悔するのです」

 クリスティーナの澄んだ声は、目の前で恐れおののく咎人たちに静かに届く。


 一人の家令と思しき人物がやおら立ち上がり、天井を見据えながら怒声をあげた。

「こんな茶番劇に付き合うのは御免だ。われらが信奉するのは商売の神のみ。お布施をすれば全てが許される神だ。われらの罪は既に贖われている。異教の神に告解することなど一つとしてないぞ!」


 すると見る見る内に、顔が青ざめて驚愕に膝がガクガクと震え出したかと思うと、跪き頭を抱えて蹲ってしまった。

 我々には、穏やかな光が降り注ぐ光景に変化はない。


(いったい彼はあの光の中で、何を見たのだろうか?)


 先程までは余裕の笑みすら湛えていた、カネスキーの表情も徐々に青ざめていく。

 いや、カネスキーだけではない。

 イッツターン商会の面々の全てが、同じ様な状況に陥っていた。


 やがて、カネスキーから震えた声が“王座の間”に響き渡った。

「こ、告解する!すべて告解するから……どうかお許し下さい……」


 俺はゼロニス外交官に対して、カネスキーから供述調書を作成するように命じた。


ピキ――ン

(シャラクよ。カネスキーたちは魔法阻害の魔道具を、複数身に付けているじゃなかったのか?)


ピキ――ン

(今も魔道具は正常に発動しておりますが……聖魔法、特に聖女が使うと言われる『奇跡』は未だに不思議な現象なのですじゃ)


 やがて穏やかな光が辺り一面に広がったかと思うと、天井に向かって消えていった。

 俺もクリスティーナが、こんな聖魔法を使えるなんて全く知らなかった。


「クリスティーナは、今の聖魔法を使っても大丈夫だったのかい?」

 愛しい婚約者のことが急に心配になって、思わず声を掛けていた。


 クリスティーナは最初はキョトンとした表情だったが、俺の本心からの心配が届いたのか?慈愛の微笑を浮かべながら言った。

「聖女は神の代執行者なのですわ。古き神話の時代より、勇者と聖女は魔王による厄災を退けます。その力こそが神の御業。成すべき時に顕現するもの。わたしには何の負担もありませんのよ」


 すると俺の手を両手で包むように、抱いてこう言った。

「わたしは旦那様に大切に想われて、とても幸せですわ」


カラーンコローン♪カラーンコローン♪カラーンコローン♪

 とても幻聴とは思えない様な、祝福の鐘が脳内に響き渡っていた。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 その後、イッツターン商会のカネスキーたちは、自ら告解したいと迫るため、ゼロニス外交官の他の司法行政官に対して、各々から供述調書を作成するように命じた。

 それぞれは取調室に誘導されても、大人しく従っていた。

 ただ一人、暴言を吐いていたイッツターン商会の家令だけは重篤の様子で、急ぎ医務室へと運ばれた。


 そうして俺が初の外交戦争は、謎の内に終わりを告げた。

 外交官のゼロニスからは、後は任せて欲しいと力強い言葉を貰った。


「外交戦争に勝てる国の王に、俺はなる!」

 俺は勝利宣言を高らかに謳うと、事後処理をゼロニスらに任せた。

 いつもの五人は、遣り切った感を漂わせながら“玉座の間”を、後にするのであった。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 王都の人々は、王城を照らす聖なる光を見詰めていた。


「今日はラウール国王様が、通商連合のお偉いさんと会談をもっているらしい」


「神が我がロレーヌ王国を祝福しているに違いない」


「神聖な光だ。暖かな穏やかな光だ」


 人々は感謝の念を抱きつつ、王城に対して静かに祈るのであった。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



「お兄様、このまま別棟に住んでる、獣人の少女たちに会いに行きましょうよ」

 サーシャが明るい声で提案した。


「俺たちは、“王座の間”で着ていた服装のまんまだぞ」

 俺は自ら着ている、大仰な服装を見遣りながら言った。


「だから良いんじゃない。絵本の中の主人公たちみたいでしょ?」

 サーシャは、その赤い瞳でウィンクしてみせた。


「そうだな。このままみんなで様子を見に行ってみるかぁ!」

 俺たちは足早に、離れに在る屋敷に向かった。


 離れの屋敷は、特に装飾の類は無いが、清潔で必要な家具類も備え付けられている。

 必要な衣類や食事の類は、毎日届けさせている。

 扉を開くと、笑顔の少女たちが迎えてくれた。

 きっと再開に涙したのだろう。何人かの娘は目を真っ赤に腫らしたり、未だに涙ぐんでいる者もいる。


 少女たちはその種族ごとに、グループに分かれていた。

 兎人とじんに、狸人りじんに、猫人びょうじんに……栗鼠人りすじんかな?

 結構広さのある屋敷なのだが、所狭しと寄り添い合っている。

 また、よく会話を聞いていると、部族ごとに話す言葉もまちまちであるようだ。


 すると獣人たちの中から、兎人とじん族の少女と数人の獣人娘たちが、シャラクを見つけると駆け寄っていく。

「ウルル、会えたの、サララ、また一緒」


 シャラクはウルルの頭を優しく撫でながら言った。

「良かったのぅ。じきに家族とも会えるやも知れんから、良い子にして待つんじゃぞ」

 

 数多くの獣人族の少女たちから一斉に声が掛けられた。

「ありがとう!正義の、お爺ちゃん」

 

 あのシャラクの瞳が、潤んだように見えた。 


 すると狸人りじん族の少女たちも、俺の方に近づいて来た。

「ありがと、です」

 それだけ伝えると、みんなのところに駆け戻っていった。

 俺には、その一言だけで十分報われた。



(俺の国って外交で勝ったんだよな?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ