表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品(ホラー)

帰ってきた猫

作者: keikato

 我が家の座敷の床の間には一幅の掛け軸が掛かっているのだが、これが夜になると、たまに白いモヤを発生させることがある。

 その掛け軸は先祖代々伝わる家宝の山水画で、それには霧がかかった川岸に浮かぶ一艘の小舟が描かれていて、その小舟に乗った蓑傘姿の漁師が川面に竹の棹を立てている。

 私が幼少の頃。

 子供は夜、床の間の掛け軸には近づいてはいけないと、父から幾度となく強く戒められた。

 掛け軸が発する白いモヤに包まれると、身体の小さなものは描かれた絵の中に迷い込んでしまう。そうなると自力では帰り道を探せない。助け出してやれるのは、次にモヤが発生する夜まで待たねばならないのだという。


 そして最近。

 座敷に用があって入った際、私のあとについてきた飼猫が、その夜たまたま床の間に発生していた白いモヤの中に入ってしまった。

 私の不注意である。

 そのあとのことは父から聞いていたとおりだった。

 飼猫はモヤに包まれて消えてしまった。


 翌朝。

 飼猫は掛け軸の中の漁師の膝で丸くなっていた。

 その後。

 毎朝、飼猫のことが心配で掛け軸を見るのだが、飼猫はずっと漁師の膝の上にいた。

 もうこちらへ帰る気はないようだ。

 一カ月ほどが経った。

 その日。

 座敷から飼猫の鳴き声が聞こえた。

 襖を開けてやると、飼猫がひとつ背伸びをしてから出てきた。夜の間に掛け軸からモヤが発生し、飼猫はどうやら運よくそれに乗じ、帰り道を見つけて帰ってきたらしい。

 帰ってきた飼猫はずいぶん肥えていた。

 掛け軸の中では毎日、釣れたばかりの魚をいただいていたようである。

 オレは飼猫に言ってやった。

「こっちじゃ毎日、魚ばかり食わせられんからな」

 ニャアー。

 飼猫がオレを見上げて甘えた声で鳴き、それから足にすり寄ってきた。

 こいつ、オレのそばがやはり一番いいらしい。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猫かわいい("⌒∇⌒") その掛け軸良いですね。あったらほしいやつ‼ 最初は帰り方が解らなかっただけだと思いますの。太って帰ってくるなんてかわいすぎます(T_T*)、魚って結構、油多い…
[良い点] 気持ちがほっこりするお話でした(*´ー`*) 惚気のようなラスト一文が可愛いです。出来事自体は不思議で怖いですが、幸せなあたたかいホラーでした。読ませていただき有り難うございました♪
[良い点] いいですね~。名のある絵師の作品だったのでしょうね。果心居士かな? ( *´艸`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ