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水青のクイド  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章「クイドが来る」
23/28

23話「しろくしろくしろ・10」

 どうぞ。

 はじめは人通りの少なかった食堂「さば」前の通りには、続々と人が集まっていた。


「こいつら、まさか全員……!?」

「この数だと、かなり危険かもしれません」


 すでに臨戦態勢に入っているアルマは、冷静に分析した。


「そんなに強くは見えねえがな」

「だからですよ……どこから倒せばいいのか、わからないんです」


 二十、三十と増え続ける若者たちは、誰もが剣呑な視線を送っている。自分たちが何をすべきかはすでに把握しており、動き出すのを待っているだけの状態、といったところだろう。


「カスミさま、やつは?」

「天音の家を打ち壊そうとしている大罪人です」


「目ぇ覚ませお前ら、バケモンにされて殺されて、カネだけむしられて……それで満足なのか! 何も残らねえんだぞ!」

「残るって、何が? あんたが死んで、あんたの周りには何かが残るのか?」


 困窮した若者たちがすがる先には、いったい何があるのか――城田は、考えもしなかった。


「隣人のために命を投げ出す覚悟。それが天音の家に招かれたものがはじめに身につける心です。人だったものを殺し続ける荒んだ日常を送っているあなたには、きっとわからないのでしょうね」


 白い怪人に銃を向けた城田は、両手を広げてそれをかばう若者たちを見た。


「どけ。並みの銃じゃねえ」

「カスミさまを守らなければ、天音の家がなくなってしまう」


「アルマ、なんとかならねえか?」

「拘束してもしなくても、相手の有利には変わりませんね……」


 倫理の盾が使えないとなれば、相手は容赦なく寄生虫を抜いて自らを強化するコストに変えるだろう。しかし、射線も取れない状態で一般市民と思しき人々を傷つけ続けるのは、対策書にとっても許されない行為である。


「指定悪鍋都市にいる刑事なんて、ずっと負け続けているということじゃありませんか……情けない。今ここで、最後に負けてもらいましょう」


 さっと左右にはけた若者を置き去りに、怪人は前進する。アルマの繰り出した拘束を難なく引き裂き、白いマネキンのような敵は、見た目に似つかわしい作業的な動きで錫杖を振り上げた。


 衝撃音――四つ続く銃声。


「城田さん。こんな距離で撃ったら危ないよ」

「チャンスだと思ったのにな……!」


 白い怪人と城田のあいだに、巨大な槍が挟まっていた。手を伸ばしてその槍をつかんでいるのは、水色の怪人だった。Xの字をふたつ縦に重ねてカギを付けたような、眼球が存在しない顔。ひどく痩せこけた体に化石のような装飾をまとう、どこか魚の化石めいた印象……そして、それ以上に強い恐怖をまき散らす、声の微笑と余裕。


 禍都(マガツ)でも最悪の怪人「水青のクイド」が、そこにいた。


「対策員がひとり増えたところで、私たちには……」

「違うよ。僕は怪人」


 接近の機会をうかがっていた青年のひとりが、急にクイドの左側から伸びた包帯に捕らえられた。


「元気だね。でも、魂がすかすかだ」

「あがっ、ががぐぐ」


 がくがくと震えながら、青年は真っ白くなって死んだ。


「な、なにを……!?」

「食事」


 何人かが怪人の姿に変わって襲いかかるが、ふたり三人と巨大な槍に叩き潰されて肉片になり、最後のひとりは包帯で命を吸い取られて同じように死んだ。


「もうちょっと美味しそうな人いない?」

「何を言っている!? 私の愛する者たちを……!」


 クイドは、首をかしげた。


「けがらわしいやつほど、言い訳だけは綺麗なんだね」

「私の理想を、怪人ごときが理解したつもりか!」


「小さくて汚くて、バカみたいだよ。お山の大将になってぜいたくして、自分だけが気持ちよくなっていたいなんてさ」

「こっ、この……!!」


 魂や命を直接捕食するクイドには、副次的にサイコメトリー能力がある。彼がのぞき見た若者たちの記憶は、この怪人の幻を信奉して感謝を述べるものばかりだった。


「ずいぶん言うじゃねえか、クイド」

「助けるなんて言いながらエサにして、エサにほめてもらいながらお金ももらうなんて。気持ち悪いなぁ……そう思わない? 城田さん」


「ガキのくせに、……いや、ガキだからか? ばっさり言いやがって」

「私は、人間を愛している……お前たちにはそれがわからないんだ!」


 振るう錫杖はたやすく受け流され、助けようとする者もいない。


「あなたたち! どうか助けてください!」

「で、でも……」


 実力差、相手の言い分への納得、そして何より大きな死への恐怖。いくつもの要素が、彼らの足を止めてしまっている。瞬殺された者たちのむごたらしい死体は、彼らのすぐ横に転がっている。


 生きながら命だけを失った青年の、いまだ死を信じられぬといったありさまのうつろな疑問の表情。巨大な槍の形が焼き付けられ、それ以外の形がほとんど分からないほどにめちゃめちゃになり果てた肉塊の水たまり。恐怖と絶叫を残した表情のまま固まっている、いくらか怪人態の解けた亡骸。ゾッとするほどリアルな死が、彼らの真隣にある……一歩でも動けばこうなるかもしれないという恐怖が、彼らを捕らえて離さなかった。


「私も食べるつもりですか……怪人め!」

「いらないよ、こんなまずそうな魂なんて。それよりもさ」


 ゆらり、とクイドは振り向いた。


「命がいっぱいだね。こんなに集めてくれるなんて」

「おいやめろッ、やめろ! こいつらは――」


「僕の街で、余計なことしてたよね。禁止してたのに」

「やめろォ――ッ!!」


 駅前での活動禁止というルールは、クイドが定めた狩場を荒らすな、という意味を持つ。捕食者の狩場を荒らしたものは、当然その口に入ることになる。


 ほんの一瞬、人とは思われぬ絶叫が響き渡り、そして静かになった。すさまじい大音響とともに地割れが走り、フィアーサインが死骸たちを半分ほど飲み込む。


「あ、ああ……天音の家が、」

「やめなよ、言い訳するの。褒められたいなら、認定怪人になればよかったのに」


 巨大な槍がその胴体を貫いて、ほとんど原型をとどめないほどに破壊した。


「人間よりダサくて、怪人より汚い。お前みたいなまずそうな命とか魂とか、食べる価値ないよ」

「ぐぁ、っうう……」


 なまめかしいマネキンのようだった肢体は、血濡れたぐしゃぐしゃの人体に戻っていく。


「やだ、いや……助けて、だれか……」

「誰も助けてないでしょ」


 振るった槍によって首から上が爆散し、そこにはどぼどぼと血を垂れ流す断面だけが残っていた。

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