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水青のクイド  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章「クイドが来る」
20/28

20話「しろくしろくしろ・7」

 どうぞ。

 昼食は済ませてきたと断ると、桑原は残念そうな顔になる。さすがに申し訳なく思った城田は、こちらでも話を聞くことにした。


「いやしかし、表の看板を見ましたが……これだけ値段を抑えて、なおかつメシを済ませてても入りそうな匂いがするでしょう。調理している方の腕前が伺えますよ」

「ありがとうございます。「天音の家」のこと以外に、何か?」


「被害者のことを聞こうと思ったんですが、どうもね。誰も詳しくご存知じゃないようで」

「大牧ゼンジさん、って方なんですけど。どうでしょうか」


 知りません、と桑原は言った。つとめて無関係を装う表情は、明らかなウソが見える。他人に無関心で会話もひどく少なかったはずの青年を知っている……それも、単なる調理スタッフのひとりが。きわめて不審だと判断した城田は、しかし追及をそこでとどめた。


「ちょっとだけ厨房を見せていただいても?」

「大したものはありませんけど」


 和洋中にそれ以外も対応しているらしく、カウンター越しにのぞき込むだけでも整然としたカオスが見て取れる。


「食材もいろいろ……面白いですね」

「あの、なんですかその黒いの」


 パスタや乾物の入った円筒のひとつに、奇妙なものが入っていた。


「これですか? カドツマです」

「パスタとかには見えませんがね。なんなんです」


 珍しい種です、と桑原は微笑む。ひし形をした黒い種子は、まるで工業製品のように整っている。


「日本でも最南端あたりでしか採れない、すごく珍しい植物の種で……アンルトル酸ヘニジウムの含有量がいちばん多いんです」

「そのなんとかジウムは、健康にいいんですか?」


「疲労回復にとてもいいんですよ。砕いて使うんですけど、これが入ったメニューは飛ぶように売れます」

「なるほど、そりゃすごい」


 毎日来ていたここで怪人が接触した可能性がある、と城田は説明し、監視カメラの映像記録を受け取った。




 車を走らせながら、城田は後続車両に目をやった。


「気付いてるか?」

「はい。食堂を出てすぐのタイミングから、赤いライトバンが」


 何者かが城田たちの車を尾行してきている。真崎から禍都に向かう道で、途中からは露骨に車間距離を詰めていた。


「仕掛ける準備だな。いつ来てもいいように、臨戦態勢で頼む」

「わかりました」


 瞬間、桜の来ている服がパンツスーツから明治の女学生風の衣装に変わる。怪人対策書所属・対策員「桜アルマ」の戦闘形態である。その姿を見たのかどうかは定かでないが、赤いライトバンが急激にスピードを上げる。


「〈ワタシハリガミ〉!」


 ゴールテープのように張り巡らされた細い紙数百本が、緩衝材のようにライトバンの勢いを鈍らせた。


「なんだこれは!?」

「対策書のパトカーにぶつけようたぁ、無茶なこと考えるじゃねえか」


「相手は人間だ、やれ!」

「っつうことは、てめえは怪人か」


 ライトバンから降りてきた五人の男、運転手をのぞいた四名がその姿を変えた。虫や獣の特徴をわずかに宿し、蝋のような表面の質感だけを同じくした無個性な怪人である。


「頼んだぜ、アルマ」

「害度は鬼級以下でしょうか」


 手に出現した紙がしゅるしゅると刀剣の形を描き出し、本物としか思えぬ威圧感を放つ。飛びかかった狼怪人は、一瞬で叩きのめされて地に伏した。


「こ、こいつ……」

「どこからでもどうぞ。最初から、どこにも勝ち目はありません」


 概量害度――いわゆるランク付け制度は、怪人だけでなく対策員の強さにも適用されている。怪人になりたての彼らはギリギリで「不明=狐級」に認定されればよい方であり、最低の人級から、ひとつ上がって虎級になれるかどうかというタイミングだろう。


 じりじりと距離を詰める桜に、ネズミ怪人はじりじりと後ずさる。日本でも最悪の指定悪鍋都市にいる、現役の対策員の強さを完全に見誤った。どちらも人間だと思っていただけに、それなりに強かった狼怪人が倒されるなどとは思ってもみなかったのだ。


「く、くそぉ! ならそっちの刑事だ!」

「あ? 何言ってやがる」


 回り込んで殴りかかろうとしたシカ怪人は、立て続けに五発もの弾丸を受けて人の姿に戻ってしまった。


「がぅ、っぐう」

「使えねぇもん持つわけねえだろうが、馬鹿か?」


「て、撤収だ! 撤収!」

「〈ワタシハリガミ〉」


 逃げようとした五人組は、すぐさま捕らえられた。


「どうやら「天音の家」を探られるとマズいらしいな。ビンゴだったわけだ」

「お導きくださいっ、カスミさま……!」


 ライトバンに縛り付けられた運転手がそう言った瞬間に、男たちがぶるぶると震え出した。首元や肩口、喉からそれぞれの怪人態に似た色のビニールテープのようなものが抜け出ていく。


「これが虫か! アルマ、なんとか……!」

「ダメです、掴めません! クリガミに追わせます」


 ぱくぱくと酸欠の金魚のように虚ろな目で震える男たちは、気が触れたように奇妙な言葉を繰り返していた。そして、大牧の遺体と同じように肌が急速に蝋化していく。


「白い、白い冠」「冠の、白い」「白い」「しろ、い、かんむり」

「こ、こいつら全員に寄生虫が……!?」


 フィアーサインは浮かび上がらず、そのまま全員が死亡したことが、到着した救急車の中で判明した。




 対策書に戻った城田と桜は、情報をまとめていた。


「天音の家に怪人がいようが、今のところ証拠もクソもねえ状態なのにな……」

「何をしたかバレたと思ってるか、本拠地とか怪人本人と直接接触した可能性が強いとみていいと思います」


「でもなきゃあ、仕掛けてこねえもんなあ」

「あのNPOに怪人がいて、後ろ暗いこともしてる……でしょうか」


 若者の貧困に手を差し伸べるNPOと言えば聞こえもよく、怪人などまったく関係なさそうに思える。しかし、実際にはごく近しいところに怪人が潜んでおり、追及するものを抹殺せんと襲撃を仕掛けてきた。そして、怪人たちは一様に同じ死に方をした。インカムなどを仕込んでいた形跡はまったくないため、かなりの遠距離で通信・行使できる超能力だということになる。


「そういや、大牧は認定証を持ってなかったから調べなかったが……あいつらの色が抜けていくように見えたよな」

「欠落体の仕業じゃないなら、別の理由が?」


「記憶や認知は、怪人化と深く関係してるっつう話を聞いたことがある……」

「――あの虫は、記憶だけじゃなくて怪人因子まで……!?」


 敵の正体は見えぬまま、恐怖だけが膨らんでいった。

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