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水青のクイド  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章「クイドが来る」
17/28

17話「しろくしろくしろ・4」

 どうぞ。

「先生、なんでここに呼び出すんだよ」

「横で説明した方が分かりやすいでしょ」


 監察医の文月は、そう言って笑った。言っていることは間違いない事実なのだが、城田はここに来るのが好きではなかった。しばらく付きまとう独特の匂いが、どうしても鼻に差し込んでくる。顔をしかめながら、城田は文月の説明を待った。


「結論から言うとね、クイドの被害者じゃないね。サンプル取ったんだけどさ、これ。見て分かるでしょ、だいぶ変な状態だよ」

「なんだよこの、……脂肪の色じゃねえな」


 四角く切り取られたサンプルを見ると、白い筋膜と黄色い皮下脂肪のあいだに、印象の違う白い塊がぽつぽつと入り込んでいる。


「成分はただの蝋だね。増山さんもずいぶん慧眼だよ」

「この街でやってるベテランだからな。そんで、なんでこんなことになってるんだ?」


「皮膚の下、皮下脂肪と筋肉の中間くらいにトンネルが空きまくってるね。結論を出すのは早いけど、寄生虫かなあ。この蝋は代謝物かフンだと思う」

「げぇ……クソが顔にまで染み出てんのか? 最悪だぜ」


 おさらいになるんだけどね、と文月は指を立てる。


「欠落体は概念的なエネルギーを吸い尽くす。化学的エネルギーっていうのは、要するにほかの物質と結びついたり離れたりする力だからさ、ご遺体は特殊な炉じゃないと燃えなくなっちゃうわけ」

「さんざん聞かされたから、二度と聞きたくねえくらいだぜ」


 そっか、と続けた。


「ところが、この変化に関しては科学で説明できちゃう。皮膚の下にいる虫が、トンネルを補強したりフンをしたりすることで、組織の外にまで染み出てきてるんだね。そうそう、サインなんだけど偽装だ」

「あの黒いのは? フィアーサインには絶対付くんだろ?」


 煤だね、と文月は笑う。


「そこらにあった焦げたものを適当に押し付けたのかな。エネルギーが吸い尽くされて変色した細胞が残す反応が、人体におけるフィアーサインの黒変なんだけど、こっちは原理もなにもあったものじゃないね」

「傷じゃねえのか」


「ごめん言い忘れてたね、トンネル……寄生虫くんの出口はあの傷だった。ただ、壁の補強を偽装するほど頭が回らなかったみたいでね」

「すると、トンネルの形は判明してんだな?」


 文月は、傷口の写真を加工したものを示した。


「横幅一センチ、縦に三ミリくらいの穴が、奥までずっと蝋で補強されてるね。虫体の大きさもそれと同じくらいだろうね。長さは最低でも十センチを想定してる」

「先にメシ食っててよかったな。それでも吐きそうだけどよ」


 それで、と城田は続ける。


「じゃあ、これは怪人の仕業じゃあねえのか」

「それはどうかなあ。こんな乱暴なことする寄生虫っていないよ」


「腹下すとか聞くけどな」

「うーん、あれは本来の宿主じゃないからって反応なんだけどね。まあ、この際覚えていってよ説明するから」


 聞きたくねえよという城田を放って、文月は説明を始めた。


「卵が体内に入って、孵って虫になるか。それとも虫が入ってくるか。まあ二択なんだけど、生き物だから卵産むんだよね」

「だよなあ。そのまんま増えるのか?」


「シラミだとそうだね。生活圏内がひとつに定まってるから、体毛と皮膚のあたりでずっと世代を繰り返せるんだけどさ……こういう体内にもぐり込むタイプは、いくつもの別々の期間を経て成長するんだ。それぞれの期間を、それぞれ別の生き物と過ごす」

「無茶言うなよ、どうやって移動すんだ」


 食べられるんだよ、とごく当然のように言う。


「もぐもぐ噛み砕いたら、食べられた生き物は粉々になるでしょ。体内に潜んでた虫は、胃袋の中で活動開始すればいいわけ」

「活動開始して、ここは違うってんで暴れて腹下すわけか?」


「大雑把に言えばね。で、大人になった虫は住んでる生き物の体内で死ぬし、卵は排泄物と一緒に出す。基本、外には出ない」

「ハリガネムシだったか、あれは特殊なわけか」


 外に出るメリットがないからね、と文月はうなずく。


「ぜんぜん違う場所にいるものをわざわざ産卵場所に連れてくわけだから、外に出ることイコールで産卵で、つまり死ぬことなんだね」

「そいつは、この被害者には当てはまらねえのか?」


「科学的に解明できるところはぜんぶ言っちゃったんだけどさ、ちょっとね。この虫が何を栄養にしてたか、それがぜんぜんわかんないの」

「まあ、何食えばケツから蝋が出てくるんだって話だよな」


 そこの反応は置いといて、と首をかしげる。


「サナダムシダイエットだなんて馬鹿げた話もあったし、アブラムシがついた新芽はかなり派手にしおれる。虫体の大きさが十センチ程度なら十匹近く、もしも一匹だけだったとしたら三十センチから一メートルくらいまで考えなきゃいけない。そんな大きな虫が栄養を吸ってるのに、ちょっと痩せただけだし卵も確認できなかった。これはヘンだよ」

「やっぱりこの街で起こる事件は、ってことか」


「健康診断結果も机の上にあったらしくてさ、日付が五日前。時期的にはもう瘦せたあとなんだけど、どこにも異常が出てないんだよね。これだけわけわかんないことが体内に起きてるのにノーマーク。おかしいでしょ?」

「皮膚の質感がどうとかも書いてないなら、明らかに変だな」


 体調不良を訴えていた様子もなく、自分でも健康だと思っていたふしがある。


「食べた量より多いフンは出てこないからさ。全身からにじみ出て、指紋も変わるくらい代謝物が出てるなら、とんでもない量の何かを食べてたはずなんだよね。でも、体調に影響はない。ここから先は、科学じゃないってこと」

「えらく諦めがいいな」


「いろいろ知ってるとね、分からないことはあるんだなっていうのが分かってくるのね。諦めざるを得ない未知。そういうのが怪人なわけ」

「なるほどな……ちょうど、証拠からそのあたりが割れたみたいだぜ」


 城田は、急いで対策室に戻った。

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