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水青のクイド  作者: 亜空間会話(以下略)
第一章「クイドが来る」
10/28

10話「死贄・10」

 どうぞ。

 おっとり刀で到着した二庫の面々は、しかし、ひどくのんびりとやってきたように思えた。テープで封鎖された現場では、鑑識がいそがしく証拠を集めて回っている。


「また見せしめですか……二連続で学生を」

「平和ボケしてるガキどもにヤキ入れようって魂胆かもな」


「効果的とは思えませんが」

「そう思うか? 平和だったぶん、震えあがってると思うがな」


 二庫の面々は、あくまで城田が知ったフィアーサインのことについて知らないか、とぼけるつもりでいるようであった。


「ありがてぇのは、すぐそこに監視カメラがついてるとこだ。犯行の瞬間はとうぜん写ってるものとして、犯人も写ってるかもしれねぇな」

「やつらにしては、ずいぶん杜撰な犯行ですが」


「被害者はいきなり駆け出したって話だったからな……何かしら、間に合わせなきゃならん事情があったのかもしれん」

「なるほど。興味深い情報ですね」


 立脇は、あくまで冷静だった。


「どうもクサいな、これが狙ってやったことだとは思えねぇ」

「それは同意見です。身元も偽装されていないうえ、現場はともかく、あまり目立たない場所に遺体を配置している」


 これまでのKOTT案件は、執拗にこだわった配置と周到に準備された犯行が特徴的だった。しかしながら、一連の事件とまったく同じ能力を使用しているはずのこの殺人は、そのどちらにも当てはまらない。突発的な犯行であり、犯人が計画したものでないことは傍目にも明らかだろう。


 そう考えた城田は、戻った覆面パトカーの車内で、端末に着信があるのに気付いた。


「……もしもし?」

『城田か。そっちに二庫のやつらはいるか』


「ええ」

『黙って戻ってこい』


 それだけ言って通話を切った増山は、ひどく重い声をしていた。


「悪い、先に対策室に戻ってるぜ」

「我々は、もう少しここに残ります」


 今度は妨害に遭うこともなく、手早く対策室に戻った城田は、大友からの着信も複数件あることに気付いた。


「なんだいったい……しかも出ねえのか。メッセージでも飛ばせばいいものを」


 端末をポケットにねじ込み、城田は対策室のドアを開ける。


「城田、さっそくだがこいつを見てくれ」

「……配置換えの表ですか。どこでこんなものを」


「川崎、小山内、田辺、戸原だったな。全員だ」

「に、二庫の協力者……って、なんで!」


 名簿には、「KOTT案件」にかかわる人物の名前がそのままに書かれていた。


 一般人に紛れた認定怪人には、対策書の協力者として情報収集を担うものがいる。多くの場合、その情報は秘匿されるものだが、何らかの特殊な手続きを使用する場合は、申請が通りやすくなるようにと対策書の一員に組み入れられることがある。


「四種類も本人確認書類が入り混じってたのは……」

「彼らが二庫の協力者だったからだな。調べたところ戸原は前科持ちだ、対策員ってことにしないと審査を通らない書類がいくつもあったんだろう」


「あんの野郎ども、こんな……!」

「仕組みや動機は理解できるがな……それに、川崎と戸原はいまだに遺体が出てない。もしかすると、だが」


 増山の言わんとするところに気付いた城田は、戦慄した。


「遺体の偽装は、こいつらを正式な対策員にするため……だと」

「かもしれん、って段階の話だ。だが、まったく身元のわからん遺体に身分証をシャッフルして持たせれば、一連の事件として捜査することになる。社会的には死んだ人物が、新しい身分を得て活躍する。それがKOTT案件の正体――というのが、俺の推測だ」


 ところでだ、と増山は視線を落としたまま言う。


「怪人のプロファイリングもやるんだったな。斥力だとか物体操作だとかってのは、俺が知る限り「突発的なすさまじい激情」から発生するもんだったと思うが」

「……前科持ちの戸原が、なんらかの理由で協力者を殺してしまった。身分を知られることのない人間をひとりしか用意していない段階だったために、小山内だけは本人だと発覚してしまった、と……」


「おそらくだが、「田辺」は危険地区あたりで誘拐してきたんだろう。最初の事件を起こす前に、偽装できない事件が起こってしまった」

「激情……。だから、柚原のやつは……」


 高等学校に入学したばかりの青臭い少年が、刑事に扮して暗躍する怪人を見て何を言ったのか――それはきっと、冷静さを欠いて焦っている怪人の能力を、最大まで引き出してしまうものだったのだろう。


「この証拠は」

「いま提出してきた。人権停止手続きが済むころだ」


 アナウンスが、二人を呼び出した。


『増山警部、城田警部補。書長がお呼びです』

「……ようやくだな」




 エレベーターで向かった書長室は、いつものごとくひどく豪奢な調度に彩られていた。業務用とは思えぬほど高級なデスクに座る大上翔一書長は、入室した二人を見るなり言う。


「怪人対策書禍都支部二庫の対策員が、業務の合間に殺人を行っていたことが判明した。これにより、立脇対策員・戸原警部両名の人権を停止。速やかな殺処分を命じる」

「大上書長、あんた二庫には詳しいだろ……知らなかったとでも言うつもりか?」


「戦力の増強を業務命令とした覚えはない。戦力の補充は申請ののち行うものだ。彼ら各個人の判断で行った班編成や殺人行為は、私の認知するところではない」

「とぼけやがって……!」


 能面のように無表情を貫く大上は「君たちのやることは決まっている」と告げた。


「そのために必要な権限は私が与えている。使命感を満たすための力を失うつもりなら、好きにすればいい。君がやるべきことは何か、理解しているはずだが」

「ああ、分かってる。分かってるぜ……怪人を殺すんだろ。それが俺の仕事だ」


「左遷されてやってきたこの部署から、さらに落とされる危険性を考えない度胸は買おう。だが、暴力に正当性がなければ君もまた裁かれるのだ。それを忘れるな」

「失礼します、書長」


 増山が強引に話を打ち切り、二人は退室した。


 ひとり取り残された大上は、小さく笑う。


「まったく……。近隣の二大怪人が禍都に攻め込んでこない理由は、「城田警部補」の存在あってのものだというのに。「アグニ」、そして「ナバリオオタチ」……指定悪鍋都市のストッパーが、そう簡単にいなくなられては困る」


 急発進するパトロールカーを見下ろしながら、大上はほくそ笑んだ。


「二号計画は失敗に終わったか。やや難易度は高くなるが……三号、四号を具申せねばならない」


 そして、彼は窓の外にそれを見た。


「――青い、魚……?」

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