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冬の花火  作者: 田中浩一
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3

*この投稿はフィクションです。


3


クリスマスの、物日(ものび)と言われる、花屋の忙しい一日を終えて、楠本美奈子、大迫夕凪(おおさこゆうな)と緑川太郎は、昨日から、臨時アルバイトとしてきていた、三人の女性たち、それぞれに、ささやかな花束を渡して、感謝した。


シャッターを降ろして、三人は、裏口から、階段を上がり二階の部屋に行く。

「どうも、おつかれっした!あとは、来年あたまの、デパートの初売りディスプレイのお仕事まで、ノンストップでぇすっ。頑張りましょう!とにかく、クリスマスおめでとう!」

乾杯っと、三人がヱビスビールを、缶のまま、口をつける。

「店長、メリークリスマスですよ。おめでとうは、新年です」大迫夕凪が、疲れた顔に笑顔を作って、楠本美奈子に言う。

「ぎゃははっ、だぁね、だぁね」また、志村けん、だ。

「ディーンも、疲れたっしょ?」店長の声かけに、

「いえ、まだまだ、24時間、戦えますよ」

えーっ凄いねー!っと、二人の女性は、手を叩いて、笑った。当の本人は、当たり前のことだと言わんばかりに、平然としていた。

「ディーンはさ、若いからかな、あたしらとは、笑いのツボが違うみたいだね」楠本美奈子は、緑川太郎のわき腹を、つつきながら、呑んでは笑い、笑っては呑んでいた。すぐに、コンビニの袋から、二本目を出して、プルトップを、弾く。

明日も仕事なんだけどなぁ、と、心配しても始まらないけど、どれだけ呑んでも、翌日、二日酔いになってる店長を、大迫夕凪は、見たことがなかった。

「明日も、よろしく!解散っ」号令一下、お開きとなった。


大迫夕凪は、緑川太郎と並んで帰り道を歩いていた。寒くはなかったし、月夜で明るかった。

緑川太郎は、ベスパに似た、ベスパもどきのバイクを押して、付き合ってくれていた。

花屋から、20分くらい歩いて、加治木役場を過ぎて、踏み切りをわたると、二股の、細い左の道に進んで、少し歩けば、左側に二階建てのアパートがある。

そこの、階段を上がって、すぐの部屋が、緑川太郎の棲み家だ。

「お疲れさまでした。気をつけて。お休みなさい。また、明日」

12月に入って、毎日聞く、別れのあいさつ。明日になれば、また、おはようございます、から始まるのだ。

大迫夕凪は、そんな毎日が幸せだった。


5分ほどで、我が家に着いた。もう、11時を回っていたが、母が起きていてくれた。

「母さん、先に寝てていいって言ってるのに」

「はいはい、寝ますよ。夕凪も、お疲れさんね。そうだ、お父さんの、心臓のドナーが見つかったって。来年の1月12日に、手術するってよ」

「えっ、ホントに、良かった!その日、休みもらえるよう、言うね。やったね!母さん」二人は手を取り合って、喜んだ。最高のクリスマスプレゼントだった。

大迫夕凪が、お風呂に入ってる間に、母は、寝てしまっていた。それでも、明日の朝には、早起きして、大迫夕凪を起こしてくれるのだ。

父が、入院してから、最近、古いアルバムを見るようになった、母。今夜も見ていたらしい。

白黒の、母と、カラーになってからの自分との写真。父は、そのどちらも、カメラマンだからか、写ってることは少なかった。

パラパラと何気なく、前の方をめくってみた。その中の一枚に目が止まる。

男の人と並んでいる、にこやかな笑顔の若かりし母。ひょっとして、この男の人って、お父さん?

白黒で古い写真ゆえ、よくわからなかったが、

「似てる、緑川君に」

七三分けの、緑川太郎に、瓜二つだった。


つづく

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