その6
北條とショーグンは繋がっていた。今まで散々想像していたことではあるが、それでも何とか北條のことを信じていた。だがいざ目の前でその姿を見せられると、嫌でも事実を認めるしかない。
完全武装したショーグンの配下は月鏡に銃口を向けると、両手を挙げるように促す。丸腰の月鏡は黙って従うしかなかった。そんな月鏡は北條に対してショックと失望の眼差しを向ける。一方で視線に気づいているのか北條は月鏡から目を逸らすように俯いていた。
「千奈津さん…貴女は、貴女は「L.O.S.T」なのか…?!」
月鏡の叫びに北條、そして神仏無がピクッと反応した。反応を見る限り、やはり二人は「L.O.S.T」を知っている。月鏡が再び口を開こうとしたとき、神仏無が被せてきた。その口調は驚いているように感じられた。
「何故貴様が「L.O.S.T」を知っている?」
「……訳あって色々と知ることになった。「lone offender special troor」、所謂「単独犯に対する特別部隊」…。その略称が「L.O.S.T」だ」
「ほう…よく調べたな」
月鏡の言葉を聞いた神仏無の表情が明らかに強張ってきた。何か触れたくないものでもあるのだろうか。しかし神仏無の様子に構うことなく、月鏡は更に続ける。
「本来の目的は政府または警視庁によってマークされた重要犯罪人となりうる人物を監視または諜報すること、そして必要に応じては暗殺も辞さないこと」
「………続けろ」
「だが、その実態は大きく異なる。潜在的な重要犯罪人ではなく、現政府あるいは国家権力に不利益となりうる人物、企業、団体全てが対象となる超法規的な暗殺部隊。そしてその存在を暴こうとした者さえも容赦なく消す………!!」
そう言いかけて月鏡は唇を噛んだ。力いっぱい噛み締めたせいで血が滲む。月鏡の発言に満足したのか神仏無が拍手を始めた。月鏡に銃口を向けている配下たちは神仏無の行動を不思議に思ったのか慌てて振り返る。
「お見事だ。「L.O.S.T」を理解してくれたようだな」
「ショーグン……あんたの真の目的は何だ?以前テロを起こすことで、この国のパワーバランスを変えるとか言ってたが、本当は違うんだろ??」
「………」
月鏡の叫びに神仏無は口を閉ざす。だが月鏡にとっては図星のように感じられた。すると神仏無は北條を呼ぶと何かを手渡した。
「フゥ……そろそろ時間のようだな。……だが!!既に公安と警察の連中が東京タワー内部と周辺を固めてきているらしい。どうやらこの中にスパイがいるみたいだな」
神仏無の発言を受けて北條を除く配下たちが慌ててお互いに顔を見合せ始める。なるほど、と月鏡は少し腑に落ちた。道理でクリスマスだと言うのに人が妙に少なかった訳だ。既にスパイからの情報を受けて東京タワー周辺に包囲網を敷いていたのだ。
すると北條は神仏無から受け取ったものを見て手早く弄ると、配下の一人へ向けて突然発砲した。北條の衝撃的な行動に神仏無を除くその場の全員が固まる。一方で銃撃を受けた配下は腹から血らしきものを流して苦しんでいた。
「ち、血迷ったのか!?いきなり撃つなんて!」
「どういうつもりだ!?」
「ショ、ショーグン!これは一体……?」
狭いデッキの中で動揺が一気に広がった。当然ながら他の配下たちは一斉に神仏無へ詰め寄る。だが神仏無というと少しも慌てることなく、北條に撃たれた配下の元へ行くと、配下が被っていた防塵用のガスマスクを引っ剥がした。マスクの下には月鏡の見覚えのある人物がいた。
「ゲームオーバーだ、オーオク。貴様がスパイであることを俺が見破れないとでも思ったか?」
オーオク、こと槍田。小張が言っていた公安のスパイ。今回のテロの情報を小張や真一文字に流していたのは彼女だった。だが北條に撃たれた彼女は腹を押さえて虫の息のようだった。苦しげに神仏無を睨み付けている。
「千奈津……ソイツを消せ」
神仏無から非情な言葉が出る。月鏡はハッとして北條に目をやった。北條は槍田の元へ向かうと、他の人間に見えないように通路の角の方へもがく彼女を引きずっていく。
「千奈津さん!!やめてくれ!」
月鏡の叫び虚しく、角の向こう側から発砲音と共にマズルフラッシュが月鏡の目に飛び込んできた。トドメを刺した?かつての同僚に?
「終わったわ」
まるで感情のないロボットのような虚ろな顔をした北條が拳銃を手に、神仏無の元へと戻ってきた。




