その1
申し訳ないです。ちょいちょい再開します
北條千奈津は「L.O.S.T」…月鏡の頭の中にこの言葉が何度も浮かぶ。その言葉を否定しようにも状況証拠が山程出てくる中、月鏡はどうすべきなのか悩んでいた。一人部屋の中で悶々とする中、月鏡はあることを思い出した。
「確かこの辺にあったはず…」
月鏡は自身の名刺入れからこれまでもらった名刺を取り出すと、一枚一枚丁寧に机に並べ始めた。そしてある名刺を発見する。そこに書かれていたのは『東帝スポーツ芸能部記者 斑鳩ツバサ』の名前だった。真一文字と接触した新聞記者だ。もしかしたら彼女なら何か分かるかもしれない。一縷の望みから月鏡は名刺に書かれたアドレスへメールを書いてみる。
『先日の件で改めてお話したいのですが、ご都合はいかがでしょうか?』
簡単な挨拶文を添えて斑鳩記者へ送信した。返信がもらえるかは未知数だが、僅かながら希望を持っておく。すると月鏡の中で安堵したのか、急に眠気が襲ってきた。悩みは尽きないが、自分にも仕事はある。まずは体を休めよう。そう言い聞かせて月鏡は静かに眠りについた。
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翌日、月鏡は仕事に向かう途中でかつての職場であるキングスカンパニーの東京支社の近くを通ってみた。東京支社のあったビルの入居リストを何気なく見てみると、やはりキングスカンパニーの文字は消えている。不祥事によるグループ解体と大幅な事業の縮小による煽りは避けられなかったようだ。
世知辛い現実に月鏡は溜め息を付くと、ふと支社の向かいにある公園に目をやった。公園は以前のままの姿を残しているが、その脇にあったカフェは跡形も無くなっていた。月鏡にとっては神仏無の起こしたテロによって体に障害を負うことになった因縁の場所だ。数年経った今も此処に来ると、あの時の光景がフラッシュバックする。
「…やっぱり駄目だ。もう行こう」
月鏡は蘇った記憶のせいで吐き気を催してしまった。一刻も早く此処から立ち去る必要がある。月鏡が大急ぎで東京支社のあったビルから仕事へ向かおうとすると、不意に背後から声を掛けられた。
「月鏡?もしかして月鏡なのか?」
突然名前を呼ばれて驚いた月鏡が振り返ると、そこにはかつての上司である小張が立っていた。しかし小張の方はどうも私服らしく、かなりラフな格好をしている。月鏡は思わず生唾を飲み込んだ。
「課長…?何故此処に?」
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。しかし…まさか此処でお前と再会するとはな」
フッと小張が自嘲気味に笑う。それは此方のセリフだと言おうとした月鏡よりも先に小張は右手を差し出してきた。
「仕事に行くところで申し訳ない。少しだけ時間はあるか?ちょっとお茶しないか?」
「??どういうことです?もう俺とは赤の他人のはず…」
「…まあ、そう言わないでくれ。私もお前に言わなくてはいけないことがあるんだ」
小張は神妙な顔つきで月鏡をじっと見据えた。今更何を話すと言うのだろう。疑惑とクエスチョンマークを浮かべた月鏡だったが、何かしら思うところもあり小張の誘いを承諾することにした。




