その11
キングスカンパニーの崩壊、そして関連グループの解体はトップニュースとして瞬く間に世界中に拡散された。そして各地で株価の大暴落が起き、市場は大混乱に陥ることになった。特に本社のあるアメリカでは世界恐慌以来、最悪の事態にまで発展していたらしい。
「……やれやれ。まさかキングスカンパニーが一夜にして潰れるとは…どういう訳なのか君も予測できなかったのか?」
キングスカンパニーを報じる新聞各紙を見ながら一人神仏無はアジトでボヤいていた。時折横目でチラリと直立不動で固まっている女性に視線を送っている。女性は三十路でセミロングの黒髪と泣きぼくろが特徴的で如何にも仕事ができる感じを醸し出していた。しかしながら女性はどことなく余裕なさげに震えている。
「誠に申し訳ございません、ショーグン。キングスカンパニーの他のメンバーにもある程度周知していたのですが、今回の一件は株主総会で一気に暴露された模様でして…」
「言い訳は結構だオーオク。で、公安のスパイはどうした?」
「は。用済みと判断して刺客を送ったのですが、いずれも返り討ちにされた模様でして…」
「……公安のスパイごときにそんな真似ができるとは思えんが?」
オーオクと呼ばれた女性の報告に神仏無が眉をひそめる。オーオクは深呼吸して緊張をほぐすと、神仏無に再び報告を続けた。
「刺客を仕留めたのは…公安のスパイではありません。恐らくもっと手練の…」
「「L.O.S.T」だな」
オーオクの発言に被せるように神仏無が呟いた。そして読んでいる新聞紙をグシャグシャに丸めると、屑カゴへ放り投げた。明らかに不機嫌そうな神仏無の様子にオーオクはますます固まる。神仏無はオーオクに構うことなく、一人呟いた。
「……今回のキングスカンパニーの崩壊でサザンカからも連絡が途絶えた。恐らく「L.O.S.T」とは無関係と思われるが、何かしらの手が及んだと見ていいだろう。しかしサザンカほどの手練がやられた以上、我々も他人事ではなさそうだ」
神仏無は深く溜め息を付くと、ロージューとタイローを急ぎ呼ぶようオーオクへ命じた。オーオクは慌てて二人に連絡すると、ものの数十分ほどでロージューとタイローが神仏無の元へやって来た。二人共、大急ぎで来たのか随分と息を切らしている。
「ショ、ショーグン…はあ、はあ…お、お待たせしました…」
「い、いかがなされましたか…?」
「すまんな、二人共。由々しき事態が起きたのは知っているな?どうやら我々もウカウカしていられないようだ」
「と、申されますと?」
「……時は来たようだ。『バクフ』最大にして最後のテロを実行に移す。時期は『ウロボロスの終末』事件が起きた日と同じクリスマス。本当の恐怖を奴等に植え付ける」
不気味に笑いながら淡々と語る神仏無にその場にいた全員が凍りついた。するとオーオクが何かに気づき、一人その場を外した。アジトの影に隠れると電話を取り出し、相手を確認する。オーオクは軽く舌打ちすると電話の相手に掛け直した。
「…はい。小張課長、どうされました?……はい、怪我が大したことなくて良かったですね。…ええ、私の方はお気になさらないでください。……えっ……?」
「………槍田君、やはり君はショーグンの……」
「それ以上の詮索は無用です課長。命が惜しければもう関わらないでください。それに次は部下としてではなく、敵として会うことになるでしょう」
「待ってくれ、君はまだ間に合う…ショーグンを…止め…」
電話の相手の言葉を待つことなく、オーオクはブツッと通話を切った。
第三章は此処までです。




