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ショーグン・ブレイクダウン  作者: 43番
第一章 2045年
4/46

その4

 ローを連れて東京支社に戻った月鏡と北條は支社のメンバーにローを紹介し、そのまま今後の業務に関する打ち合わせに入った。打ち合わせの後ローは月鏡たちと別れる形となり、大阪にある日本支部の本社から来ていたドローン開発部門の長と小張課長がローを応対する流れとなった。


 そもそも月鏡と北條はパワードスーツの営業販売担当の為、ローの携わるドローン開発業務と直接関連があるわけではないからである。



「だったらドローン開発の連中に迎えに行かせれば良かったのに」



 ローと別れた後、月鏡が支社近くにあるカフェの中で北條に愚痴った。北條も月鏡に同調しながら注文したホットコーヒーに口をつける。



「…お偉いさん方は私たちが暇だとおもったんでしょうね。ろくに営業成績も上げてないし」


「でもそれは本社の経営方針の転換によるシワ寄せのせいじゃないですか。元々は福祉関係メインだったのに気づいたら大幅な規模縮小を食らって、しかも此方のフォローもないなんて」


「本社のことを愚痴っても仕方ないよ。大体今キングスカンパニーの名前を聞いたらほとんどの人はドローンやAIをイメージするくらい浸透しているしね。福祉だけじゃ本社の業績が上がらなかったのも事実だし」


「でも…」


「営業成績が上がらないのは私たちの問題でもある。問題のすり替えはよくないよ」



 北條に諭され、月鏡は溜め息をついた。ガッカリしている月鏡を見て北條が質問を投げ掛けてきた。



「ところでユーシュー君は元々自衛官だったんだよね?」


「え、ええそうです。ほんの数年間でしたけど海上自衛隊に所属してました」


「へー、何で今の会社に入ったの?」


「…まあ、単に俺自身の問題です。元々打ち込めるものがなくて自衛官になれば何か変わる!と思って頑張ったんですけど、結局何も変わらなくて…親父とある程度勤めたら別の仕事に就くようにと約束してたので自衛官を辞めたんです。キングスカンパニーに入ったのは日本でも名の知れた大企業ですし、東京支社はまだ出来て日が浅いから入りやすいかなと思ったんですよ」


「意外だな。ユーシュー君は真面目だから何か色々やってるイメージだったんだけど」


「…色々ってなんですか?」


「悪い意味じゃないから安心して」



 北條がイタズラっぽく笑った。月鏡は北條に奢ってもらったホットコーヒーに口をつけてカフェの窓の外を眺める。



「…千奈津さん、俺はこの仕事向いてますかね?」


「何!?辞めるの!?」


「いやいや!単純に悩んでるだけです。何か、なあなあで生きている気がしてこのまま続けてよいものかと」


「もし辞めるのなら早い内がいいかもよ。ユーシュー君はまだ潰しがききそうだし」


「でも…結局同じことを繰り返すんじゃないかって…」



 溜め息をつく月鏡の手を北條が握った。月鏡は驚いて北條の顔を見る。



「ユーシュー君、君はまだ恵まれているよ。私を見てごらん」



 北條が車椅子を動かして月鏡の席へと寄せた。北條は自身の両足を月鏡に見せる。



「私は昔事故に遭って両足を失くした。でも後悔はしていない。こんな私でも出来ることはあるはずだと思って生きているからね。それにこの足のお陰で会う人の人間性がよく分かるようになった。大抵の人はこの足を見て身構えるからね」


「あっ…」



 月鏡は北條との初対面を思い出していた。あのとき月鏡もまた北條に対して身構えていた。そのことを考えると月鏡は自分がとてもチッポケな人間に思えてきて恥ずかしくなってきた。



「慰める訳じゃないけど、私と比べてユーシュー君にはまだ可能性が大いにあるってことだよ。だからこそ君は後悔してほしくない」


「千奈津さん…」


「ま、湿っぽい話はここまで。午後の打ち合わせがあるから、もう少ししたら準備に戻ろう」


「はい!」


「いや、もう少しだけ待ってもらえるか?」



 月鏡が北條に挨拶したとき、割り込む声が横から聞こえた。慌てて声の方向へ二人が振り向くと、ローが立っていた。



「あ、アレックスさん…?」


「ドローン開発部門の方と一緒じゃないんですか?」


「確かに今の私はドローン開発部門の主任研究員だ。しかし本来はAIメインの研究チームにいたからドローン開発は門外漢なんだ。だから日本支部の連中と話していてもちっとも面白くない」


「そ、そうなんですか」


「それは私たちと居ても同じでは?」



 北條の言葉にローが首を横に振った。ローはホットコーヒーらしきカップを手に空いている椅子に腰掛け、月鏡と北條の方に体を向けるようにした。



「どういう訳だか、君らの方が私と波長が合う」


「そうでしょうか??」


「ま、少しゆっくりさせてくれ。日本に着いてすぐにビジネスの話になったから疲れてるんだ」


「お察しします」


「失礼ながら君らの話を少しだけ聞かせてもらった。ユーシューは元ネイビーだったんだな。中々意外な過去だ」


「ネイビーと言えるほど大それたことはやってないですよ」


「私もかつて海兵隊や海軍に憧れたことがあった。ま、体が弱かったから諦めた経緯があるがね」



 ローが月鏡に笑い掛けながらコーヒーを口につける。ほんの少しだが、向こうから心を開いてくれているらしい。



「アレックスさんは元々AI研究をしていたと伺ってましたが、どうしてドローン開発部門として日本へ来たんですか?」


「それを聞くのか?」


「えっ…あ、ああー、すみません!大変失礼しました」



 月鏡はローの中の地雷を踏んでしまったと思い込み慌てて謝罪する。しかしローは苦笑しつつ、自身が日本支部に出向してきた経緯を二人に話し出した。

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