その4
真一文字からの質問に斑鳩記者は無言で頷く。動画を続けると爆破音の直後、現場が騒然とした為かカメラのブレが更にひどくなる。すると不意に斑鳩記者が動画を一時停止した。
「此処です!此処をよく見てください」
斑鳩記者が興奮気味に一時停止した動画のある箇所を指差す。真一文字と月鏡がそこを凝視すると、河川敷の一角に椅子に座っている人影が小さく映っていた。人影は何か釣り竿のような長い棒状のものを持っているようだ。
「これは只の釣人ではないですか?河川敷だし、少し人気のない場所で釣りする人がいてもおかしくはないはずです」
「私もそう思いました。でも次を見てください」
そういうと斑鳩記者が動画をコマ送りで再生する。すると先程の人影が釣人とは思えないような奇妙な動きを見せ始めた。爆破音の後で人影は長い棒状のものを素早く仕舞い込み、座った姿勢のまま河川敷に植えられた防風林の影に移動を始めたのである。人影の異様な動きに月鏡の中で当時の記憶がフラッシュバックした。
あの時ホテルからローと一緒に脱出したものの互いに満身創痍の状況だった。朧気な記憶の中で鮮明に残っているのはこの動画に映る謎の人影。確かあれの正体は…。
「スナイパーライフルと車椅子…」
月鏡がポツリと呟いた。その言葉に真一文字と斑鳩記者は思わず「あっ」と同時に声を上げる。すると動画は直後に終了した。斑鳩記者によると撮影中に野次馬の一人とぶつかり、カメラを落としてしまったのだという。その野次馬は謝罪もせずにそそくさと逃走したらしい。
「高いカメラだったのでレンズが割れてないかだけ心配でした。幸い外側が少し欠けたが付いただけでレンズもデータも無事で良かったんですけど、ちょっとひどいです。でも野次馬の顔だけは正確に覚えてますけどね。いつか弁償してもらいます」
「それは災難でしたね。ただ今思い出された月鏡さんの記憶とこの動画の内容はどうやら一致するみたいだ。ですよね、月鏡さん?」
「…ええ。曖昧なところはありますが、この人影については俺の記憶にいた場所と一致します」
「ふむ…なるほど」
真一文字は少し考え込んだ。斑鳩記者はもう一度先程の動画を巻き戻している。確かにあの時見た記憶は間違いないはずだ。でも疑問が幾つもある。何故動画の人物は月鏡とローを助けたのか。何故あの場所に武器を持って待機していたのか。そもそも動画の人物は何者なのか。本当に「L.O.S.T」なのか。或いは神仏無の手の者だったのではないか。
三者三様に考えた後、全員で顔を見合わせると一つの推論がまとめることにした。
「現時点でこの動画の人物が「L.O.S.T」かどうかは分かりません。しかし決して無視できるものでもない。それは…追われていた月鏡さんを助けたのがこの人物だからです。我々の味方なのかも不明ですが、此処で姿を現した以上月鏡さんらが襲われていた情報を知った上で周到に待機していたようにも見えます」
「でも当時俺が襲われているのを知っていたのは一緒にいたアレックスさんと襲撃を仕組んだ神仏無くらいですよ?」
「他にはいないということですか?例えば会社の人間とかホテルの従業員とか…」
「ええ。あとは…ええと。あの時直前に連絡を取っていた人間くらいかと」
「「それは誰ですか?!」」
斑鳩記者と真一文字が食い気味に月鏡に詰め寄った。二人の迫力に月鏡は必死に当時の記憶を辿る。
「ええと、ええと…………!!!」
「どうしました?」
「…思い出しました。ち、千奈津さん……」
思わぬ人物が浮上したことに月鏡の額から脂汗が流れ出してきた。




