その2
町外れの倉庫街はまだ日が沈んで時間も経っていないはずなのに人気がなく、不気味に静まり返っていた。まるで廃墟のような場所に月鏡は思わず身構える。倉庫の外壁である古びたレンガが一層廃墟感を醸し出しているように思う。真一文字と月鏡を乗せた車はゆっくりと指定の場所へと進む。
「本当に此処なんですか?」
「時間と場所は念入りに聞いていたので間違いはないはずです。後は向こうの出方次第ですが…」
真一文字のハンドルを握る手に力が入る。月鏡は目的地に近づくにつれて緊張からか汗が滲み出てきた。果たして件の新聞記者というのは味方なのか、それとも敵なのか。徐々に二人の口数が少なくなる。
「どうやら此処のようです」
真一文字が車のスピードを緩め、とある倉庫の前に着くと停止した。月鏡は辺りを見回すが、待ち人らしき人影はなく、廃墟のような倉庫が延々と連なる光景だけが広がっている。真一文字は腕時計の時間を気にしているのか辺りの光景よりも時計とにらめっこしていた。
「遅刻か、もしくは…」
「罠、でしょうか?」
「可能性は否定できません。月鏡さん、万が一の時にはダッシュボードの中の物を使ってください」
真一文字から言われて月鏡が徐にダッシュボードを開くと、中には小型の自動拳銃が入っていた。月鏡は思わず生唾を飲む。どう転ぶのかはわからないが、かなり危ない橋を渡っているのは間違いない。
「ん?あの光は…」
真一文字が何かに気づいたのか前方に一点集中する。真一文字の視線の先にあったのは小さな黄色い光だった。小さな光はゆっくりと点滅をしている。何かを訴えるように繰り返される点滅を確認した真一文字は車を静かに発進させた。
「どうしたんですか?」
「合図が来ました。どうやら彼処で落ち合うようです」
先の点滅はモールス信号だったらしい。車の発進後も点滅は続き、徐々に光が大きくなってくる。光が近づくにつれて月鏡の緊張も高まってきた。月鏡はダッシュボードの中の自動拳銃に目をやるが、慌てて前方の光に目を向ける。光の出所を確認すると、背後に人影らしきものが見えてきた。光の正体は人影の持つ懐中電灯のようだ。
「あの人ですか?」
「恐らく…」
真一文字と月鏡は小声で確認し合う。この人物が独自に「L.O.S.T」を追っているという新聞記者なのか。人影の前まで来ると真一文字の車はゆっくり停止した。人影は紺色のロングコートに身を包んでおり、目深にフードを被っているせいで表情をうかがい知ることができない。真一文字は車の窓を開けると顔を覗かせた。
「合言葉は?」
「ショーグン・ブレイクダウン」
人影からの質問に真一文字が答える。しかし…「ショーグン」??月鏡の脳裏に疑問符が浮かんだ。が、それよりもまずは目の前の人物である。真一文字が先に車から降りた。真一文字の顔を確認すると目の前の人物はフードを静かに取る。すると茶色い長い髪が下りてくる。人物の正体は女性のようだった。予想外のことに月鏡は驚きを隠せない。そんな月鏡を他所に真一文字と女性は話を始めている。
「はじめまして。私はこういう者です」
女性は真一文字に名刺を渡した。




