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ショーグン・ブレイクダウン  作者: 43番
第二章 ウロボロスの終末事件
25/51

その4

 月鏡はむせ返りそうになりながらも何とか堪えて、平常心に戻った。その間真一文字は微動だにせず、黙々と前に置かれた自分の酒を口にしていた。ロングコート姿と相まってハードボイルドな空気を醸し出しているが、今はそんな気分に浸っている余裕はない。



「…失礼しました。えーと、『ショーグン』とご兄弟…?なんですか?」


「左様。私にとって不肖の弟です」


「……何故そのことを俺に話すのです?俺は『ショーグン』とは無関係の…」


「はずがない!」



 真一文字の語気が強くなった。まるでカウンターを叩きそうな勢いに思わず月鏡は黙り込む。この人は何かを知っている。これ以上ごまかしても埒が明かないようだ。そう月鏡は判断すると、観念したように溜め息をついた。



「…分かりました。俺が知っている限りのことをお話ししましょう。ただ…何処で何を聞かれているか分からない。どうかこのことはご内密に」


「…それならご心配には及びません。此処のマスターは私と旧知の仲。それに今日は既に店じまいで他の客も入ってきません。どうしてもというのであれば場所を変えますが、正直あまりオススメは出来ませんね」



 真一文字が月鏡を見てニコリと笑う。何処か底知れぬ笑みに月鏡は少し引いた。とりあえず月鏡は今自分が持っている、またこれまで遭遇した出来事について簡単に真一文字に説明した。ただしアレックス・ローについては若干ぼかした。



「…というのが俺の知る限りの情報です」


「なるほど、そちらの状況はよく分かりました。これ程有益な情報がありながら警察があっさりと手を引くのは確かにおかしな話だ」


「真一文字さん…貴方も公安の人間でしたよね?予め『ショーグン』についてテロ事件を追っていたなら俺と同じ情報くらいは持っているのではないですか?」


「残念ながら私は今回の捜査から外されていました。まあ、何せ身内がテロの容疑者として挙げられているのですから仕方ありませんね。いくら疎遠とはいえ、警察も私を神仏無かんぶないのスパイ扱いしているようで露骨に遠ざけるし。お陰で随分肩身の狭い思いをしました」



 真一文字は自嘲して手元の酒を飲み干した。少し酔いが回ってるのか、顔が赤くなっている。



「私個人としては『ショーグン』のことなど、どうでも良いこと。しかし私自身、ひいては自分の家族や身内にまで累が及ぶのはさすがに我慢がならんのですよ。公安という立場上、これ以上のテロを見逃すわけにもいかないのでね。しかし肝心の組織が頼りにならない」



 酔いに任せて愚痴のように真一文字は続ける。『ショーグン』と関わりを持っている為に自分の生活を脅かされているのは月鏡も同じだ。真一文字にも思うところはあるのだろう。



「組織が頼りにならないとは?」


「警察が捜査を不自然な形で打ち切ったのは、キングスカンパニーからの圧力が掛かったからです。警視庁側と最新型ドローンの導入を巡って一悶着あったようでね。どうにも今回のテロと襲撃事件の関係性を隠すことで結論を有耶無耶にしようとしていた。結局泣きを見たのは我々のような巻き込まれた人間たちだけだ」


「………」



 真一文字の言葉に月鏡は黙り込んだ。キングスカンパニーの内通者の件も含めて思いの外、闇は深い。神仏無および『バクフ』の背後にはキングスカンパニーがいる。敵は個人レベルで相手できる大きさではないのかもしれない。



「…これからどうされるんですか?」


「ひとまずこの件は貴方の情報を基に内密に捜査します。といってもほぼ私個人での活動ですがね」


「上層部には伝えないのですか?」


「今までケースからすると揉み消されて終わりでしょう。体よく私も排除されるかもしれませんしね」


「俺は…俺はこの先どうしたら…」



 月鏡は空のグラスを見てキュッと下唇を噛んだ。このまま泣き寝入りだけはゴメンだが、キングスカンパニーという大組織が『バクフ』の背後にいる以上は下手に手出しできないだろう。すると真一文字が立ち上がり、月鏡の横から手を差し出した。



「…貴方もまた『ショーグン』を独自で追っている。先も言ったように味方は多い方が良い。此処は一つ手を組みませんか?」



 月鏡が真一文字を見ると、彼はニコリと微笑んでいる。考えた末に覚悟を決めた月鏡は真一文字の差し出した手を取りガッシリと握手した。



「交渉成立ですね。では私の連絡先をお伝えしましょう」



 真一文字はスマホを取り出すと月鏡に連絡先を教えた。時間にしてほんの一時間程度くらいだが、月鏡の中では半日以上、経過したような疲労感を覚えてバーを後にした。

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