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ショーグン・ブレイクダウン  作者: 43番
第二章 ウロボロスの終末事件
22/51

その1

大分間を開けましたが、再開します

 月鏡がキングスカンパニーを去ってから早2年が経とうとしていた2047年末。キングスカンパニーの東京支社の様相は大きく変わった。まず基幹商品としていたパワードスーツの販売が無期限休止となった。それに伴ってこれまで販売してきたパワードスーツの保守や保障業務を本社に一任することとなり、東京支社の規模は月鏡がいたときよりも更に縮小されることになった。


 東京支社に代わって勢力を拡大したのはドローン販売をメインに進めていた日本支部の大阪本社だった。東京支社とは対照的に業績を伸ばし続け、日本国内におけるドローンの販売シェアがついにトップになった。


 更に日本支部全体の雰囲気も様変わりし、見知らぬ単語や商品、人々までもが行き交うようになった。何処となく息苦しいというべきなのか、他所から見ても異質な空気が漂っているように見える。


 月鏡が久方ぶりに北條と酒の席で会ったところ、先のキングスカンパニーに対する愚痴を延々と聞かされた。日本支部の状況が知れたのも北條のお陰である。北條は今でも東京支社に居るそうなのだが、業務自体は事務作業をメインとした閑職へと追いやられたのだそうだ。遣り甲斐のない今の仕事を辞めるべきか悩んでおり、転職活動を始めているそうである。



「で、ユーシュー君は今どうしてるの?」



 北條から不意打ちのように月鏡へ質問が飛んできた。月鏡は頭を掻きながら苦笑する。そして一枚の名刺を北條に差し出した。真っ白な名刺には小さく保険会社の名前と住所、そして営業担当として月鏡の名前がポツリと書かれていた。



「生命保険会社…?無事に転職できたんだ!?」


「ええ、お陰様で。さすがに一年はリハビリに費やしましたが、拾ってくれる会社があって安心しました」


「良かった…路頭に迷ってないか心配したよ」


「それはご心配を掛けました。でも大丈夫です…とはまだ言えないですね」



 月鏡の表情が曇る。月鏡の様子を見て何かを察した北條は話題を変えようとしたが、月鏡の方から話を進めた。



「実はまた営業をやってるんですが、未だに新規顧客がゼロなんですよ。キングスカンパニーの時は北條さんと一緒に回れたから愚痴を言えたりする相手が居たんですが、今は一人で回ってる状態です。それにまだリハビリは終わってないので体を動かすにも結構きついんですよ」



 月鏡は苦笑して自身の下半身に取り付けられた補助用のパワードスーツを擦る。北條はいたたまれない気分になったのか、月鏡を元気づけようと酒の追加を注文した。



「さあ、遠慮しないで飲んで飲んで」


「悪いですよ、北條さん。さすがに俺の方から声を掛けたんですし」


「気にしない気にしない。今のキングスカンパニーでマトモに話せる人がいないんだよ。小張課長も異動になったし、槍田さんとは元々そこまで親しくないから話し掛けづらいし。ユーシュー君だけだよ。こんなに話してくれるのは…ま、全く…最近の会社の連中と、来たら、さぁ…礼儀?ってヤツが、なって、ない………」



 北條の目が段々据わってきた。話し方も呂律が回らなくなってきている。見る限り相当酔っ払っているようだ。月鏡は慌てて店員に会計をお願いし、北條の迎えのタクシーを呼んだ。タクシーは10分足らずで来るらしい。



「…なーに…もう帰るのぉ…?」


「今日は此処までにしましょう。さすがに酔い過ぎです」


「いいじゃないのさぁー。たまにしか会えないんだし、つれないじゃない」


「また連絡しますから今日のところはお開きにしましょう」


「………チェっ!」



 北條は子供のように拗ねた声を出すと前のめりになってテーブルに臥した。どうやら限界が来たようだ。しかし此処までに悪酔いしている北條を見たのは月鏡にとって初めてのことだ。余程普段のストレスを溜め込んでいるらしい。仕方なく月鏡は会計を済ませると到着したタクシーに北條を乗せた。



「おやすみなさい北條さん。またお誘いします」


「きっとだよ!ユーシュー君。約束破ったら承知しないよ…!」


「もちろんです。どうかお気をつけて」


「アイル・ビー・バック!!」



 北條はタクシーの窓から右手を出してサムズアップした。月鏡は苦笑しつつ、北條のタクシーを見送った。夜も更けてきたが、まだ店は開いている。



「…まだ早いし、もう少しだけ飲み直すか」



 月鏡は一人呟くと夜の飲み屋街へと足を進めた。が、その後ろ姿をロングコートの影が尾行していることに月鏡はまだ気づいていなかった。

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