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ショーグン・ブレイクダウン  作者: 43番
第一章 2045年
1/46

その1

「今日からよろしくお願いいたします」



 長机に座った恰幅の良いスーツ姿の初老の男性に濃紺のスーツ姿の男が深々と頭を下げていた。男は坊主頭から少し髪を伸ばしたベリーショートの黒髪で180㎝くらいの長身、そしてスーツの上からでも分かるくらい筋肉質な体形である。傍から見たらかなり威圧的な印象を受ける外見だが、慣れない場の雰囲気に緊張しているせいか男はやや震えていた。



「ああー、緊張しないで。確か月鏡つきかがみ君だったよね?」


「は、はい!今日からキングスカンパニー日本支部東京支社に配属されました。月鏡優秀つきかがみまさひでです!」



 初老の男性に諭された月鏡と呼ばれた男がやや声を上ずらせながら返事した。思わず背筋がピンと伸びる。

 その様子を見た初老の男性とその横に座っている若い女性からクスクスと笑い声が漏れた。そんなにおかしいのだろうか?月鏡はやや怪訝な表情で二人に視線を送った。



「いやはや失礼。元自衛官と伺っていて中々真面目な方を想像していたのだが、ここまでと思わなかったものでね」


「ここまでとは?」


「まあまあ、月鏡君。これからよろしく頼む」



 初老の男性が立ち上がって右手で握手を求めてきた。月鏡は慌てて男性の右手を両方の手で思い切り握り返す。



「こ、こちらこそお願いします!」


「よ、よろしく…ところで月鏡君、手を離してくれないかな。ちょっと痛いんだが…」


「あっ!失礼しました」



 やや顔を歪めた初老の男性からの指摘で慌てて月鏡は両手を引っ込めた。初老の男性は右手を摩ると横にいる若い女性に何やら話している。どうも誰かを呼ぶように伝えているらしい。すると女性がスマートフォンを取り出して何処かへコールした。



「少し待っていてくれ。これから君と共に業務を進めていくパートナーを紹介する」


「パートナー、ですか?」


「ああ、わが社の業務については勿論、知っているよね?」


「はい、福祉分野に特化したパワードスーツの開発、販売、メンテナンスでしたね」


「ふむ、その通り。だがそれだけでは不十分だよ。今、本社が最も力を入れている事業はAI開発だ。更にもう一つの事業の柱であるドローン開発との連携を推し進めている。今や福祉分野よりもそちらの方が有名だ。だからこそ此処の事業所はこんな狭苦しいとこなんだが…」



 初老の男性のぼやきに月鏡は少し圧された。確かにキングスカンパニーのホームページやら企業広告ではAIとドローン開発が堂々と前面に押し出されている。ひと昔前まではキングスカンパニーといえば福祉分野の面で名の知れた企業だったが、社長が代替わりした近年では軍事関係や情報通信をメインとした事業にシフトチェンジしていた。業績そのものは好調であり、キングスカンパニーの名は世界に知れ渡っているが、一方で最近はキナ臭い噂も耳にするようになってきた。


 しばらく月鏡と初老の男性が談笑しているとコンコンとドアをノックする音が聞こえた。初老の男性が「どうぞ」と声を掛けると車椅子姿の丸眼鏡を掛けた若い女性が入ってきた。女性は車椅子を巧みに操り、月鏡と初老の男性の前に来た。



「月鏡君、紹介しよう。君のパートナー、北條千奈津ほうじょうちなつ君だ」


「えっ!?この方が…パートナー?」



 月鏡は初老の男性に紹介された北條の姿を見て思わず絶句した。予想外のことに固まっている月鏡とは対照的に北條は淡々とした表情で月鏡に軽く会釈した。初老の男性は北條に月鏡の簡単な紹介をしている。対して月鏡はパートナーが女性、しかも障害者であることにどう接するべきか混乱していた。



「よろしく、月鏡さん」



 月鏡の様子を察したのか北條から月鏡に声が掛かる。我に返った月鏡は慌てて体を屈めて北條に目線を合わせた。



「よ、よろしくお願いいたします。ほ、北條さん…」


「意外だった?」


「へ?」


「貴方のパートナーが障害持ちの女性だってことに」


「い、いやそんな…まさか」


「プッ、そんなの気にしなくていいよ。別に慣れっこだし。それに営業活動にはこの体は持って来いなのよね」



 北條は少し笑みを見せると車椅子の手すりに両手を掛けてゆっくりと立ち上がった。よく観察すると北條の両足には義足のような金属の継ぎ目が見える。北條は体のバランスを取りながら車椅子から降りて一歩、二歩と足を進めた。



「待って!北條さん、此処まで!」



 机に座っていた女性が北條を呼び止めると北條は慌てて歩を止めた。どうやら今の義足の動きには限界があるらしい。北條は残念そうな表情を浮かべたが、屈んでいた月鏡を見下ろすように立つ。



「いったでしょ?気にしなくていいって」


「うっ…失礼しました」


「それともう敬語はやめましょう。一応業務上のパートナーという対等な立場なんだから」


「そ、そうです…ね。じゃなくて、そうだね。よろしく北條さん」


「というわけで改めてよろしく、ユーシュー君」


「ユーシュー??」



 北條からの言葉に月鏡の脳裏にクエスチョンマークが浮かぶ。すると北條がいたずらっぽく肩を叩いた。



「君の名前、「優秀」と書いてまさひででしょ?だからユーシュー君」


「あっ…そういうこと」


「私のことは千奈津でいいよ」



 そういうと北條は月鏡の前に右手を差し出した。

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