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不幸の檻  作者: みあ
傾国の美女
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夜会2

 

 覚えた方がいいのかわからない量の人に紹介され、ただただにこにこ笑って横にいることもう一時間。人が多いのもそうだが、そこから世間話が始まるのでいつまで経っても終わらない。貼り付けた笑みが剥がれてきそうだ。上から下までジロジロ見てくる人もいれば、珍しいペットでも見るような目をしてくる人、馬鹿にしたように見てくる人、私のことなんて目にも入れない人もいた。


「若い燕ばかり集めているご夫人がどういう風の吹き回しですかな?」

「あら、たまにはいいと思いまして。実際、残念ながら私のものではございませんの……まだ」


言い方に含みがるのが嫌な感じだ。当主は兎も角夫人も囲いがいるのか。諒太郎がああ言うのも致し方ない。あとこれをどのくらい耐えればいいのやら。




「疲れたでしょう? 」

「……いえ」


少し落ち着いたのでそれまで殆ど私を無視して知人と喋っていた夫人が声を掛けてきた。


「あら、私も流石に疲れたもの。貴女が疲れていないはずないわ。でも会う人はあと一人よ」

「そうですか……どちら様です? 」


そう聞くと何が可笑しかったのか、ふふっと笑い出した。

「貴女もよく知っている人よ」

「はあ……」


結局誰とも言われぬまま着いていくと、成程確かによく知っている。


「本当に飼っているとはな」

「自分の誕生日に見たくもない顔を見なきゃいけないあんたに同情するよ。久しぶりだね」


今回の主役、三条正太郎。これで一日で親子三人見れたわけだが、お互い日頃から別行動な所為か、全くの他人に見えてしまう。うまく繋がらない、というのが正しいか。


「諒太郎の玩具になり、理沙子の愛玩動物になった気分はどうだ? 」

「あはは、そう悪くないよ。あんたが思ってるほどね。あ、そうだ。あんたにお願いがあるんだった」


彼としては皮肉のつもりだったんだろう。だが残念ながらそんなことで腹を立てるような変なプライドを持った人間ではない。


「なんだ?私にも利がなければ聞かないぞ」

「ああ、その辺は大丈夫。きっと快く聞いてくれると思うよ」


ずっと考えていた。今の関係性は少しの気紛れで一変してしまうから絶対ではない。全てにおいて絶対なんてあり得ないのだけれど、少しでも確実な方がいいに決まっている。どんなに関係性が悪くなっても、扱いが酷くなってもそこに居座っていられる立場が欲しい。


「あんたが私を認めてよ。私のこの役割を」

「逃げられなくなるぞ。自分で自分の首を絞める気か?全く親子揃って気味が悪いな」


親子揃って……というのをパパのことを言っているのか、ママのことを言っているのか、はたまた両方なのか。どちらでもいいけれど。


「そう、この家に縛られようが殺されようが文句は言わないってこと。どう?都合がいいでしょ?そもそも、私をこの立場にしたのはあんたなんだから。責任は取ってもらわなくちゃ」

「ああ、いいだろう。責任か……そうだな、()()に飽きたら私が相手してやってもいいだろう」

「夾竹桃と鳥兜ならどちらがいい?というか、大嫌いな義妹そっくりの娘とか当主様も物好きだね」


それを聞いた夫人が笑い出して止まらなくなったので周囲が少々慌てた。二人の不仲など周知のネタだが、こういう場での外面は恐ろしく良くしていたいらしい。というのは後から石田さんが教えてくれた。今回はそんな夫人が我慢ならなかったほど可笑しな会話だったようだった。当主の側近らは憤慨していたり、青ざめていたりする中で、石田さんのポーカーフェイスも崩れそうだったというので私は周囲からしてみれば命知らずな娘に見えていたのだろう。その後当主に、先代には会っていかなくていいのかと聞かれた。要は、今のような“お願い”はしないのか、ということだった。自分だけが不利益と不快感を被るのは納得がいかないらしく、かといって諒太郎はこのような場ではこの家の今後がかかっているので下手ができない。ということで先代を話題に出したのだろう。


「あのお爺さんには別で予定があるからね。今日じゃなくてもいいんだよ。まあ、もしかしたら?超絶可愛い孫娘に会いたいかもしれないけれど? 」

「酷い皮肉もあったものだな」


こちらも会いたいとは思わない。先代よりも先代夫人の方が嫌だ。あのヒステリックに耐えられるほどの元気は今夜は持ち合わせていない。


「ふふっ、じゃあもういいわね。お互い顔合わせはしたし、見せたいものは見せられたし、良いものを見せてもらったもの」

「満足しているのはお前だけだがな」


これには当主に同意せざるを得ない。夫人は一人だけ大変愉快そうだった。まあ彼女の機嫌が取れたのなら良いか。








 というのが三年前の私の社交界デビューだったわけだが、今考えても酷いものである。こういうことに付き合わされて良かった思い出など一つもないが。

 最近は夫人がでない夜会にも付き合わされており、慣れてきたが、私は一人でいることが多い。いることに意味があるからだった。


「恵都さん……ここにいましたか」

「石田さん、どうしたの」


挨拶は一通り済んだので会場の端にいた私を、やっと見つけたと石田さんは言った。


「少し様子を見てこいと言われまして……ああ、そうだ。二階堂派の家で今夜婚約者を連れてくるという人がいましてね」

「ああ、佐野さん? 」

「ええ……聞くところによると恵都さんと歳が近そうなのでご存知かと思いまして」


まだ今日は彼は現れていないので彼の両親には挨拶したが、彼にも、その婚約者とやらにも会っていなかった。


「知らないけど……」


その時、少し会場がざわめいた。噂をすればということらしく彼らが現れたところだった。


佐野の御曹司の横にいるのがその婚約者だろう。真っ赤なドレスを身に纏って似合っているが命知らずな……と思いながら彼女の顔を見た。


「綺麗な方ですね。有名な舞台女優さんらしいですよ……恵都さん……? 」


ちょっとした悪夢だ。本当に夢であって欲しいものだ。まさか、まさか……五年の歳月が経ったからあれから顔立ちは大人びたが、あれは確かにそうだ。真っ赤なドレスに自信に溢れた顔。少々口はキツいが、友達想いで曲がったことが大嫌いな性格だということを、私はよく知っている。


 じっと見ていたから気づいたのだろう、こちらと目が合った。……向こうも、気づいたようだったが、周りの対応に追われているのでこちらに向かってくることはない。


「ちょっと外していい?少し気分が悪いの。諒太郎には言わなくて良いから」

「分かりました。ご無理はなさらないで」

「ありがとう」


会場から出てロビーに出ると、誰もいないことを確認してから化粧室に入る。白いドレスに同じく白い顔の、鏡に映る自分を見てため息を吐く。


「どうして……」



前回の更新から2年近く経っていました……

読んでくださりありがとうございます

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