文化祭2
何故恵都が俺が恵都の役が分からなかったことを知っているんだろう。と思ってしばらくフリーズしてしまった。
「……なんで? 」
「ええ〜だって分からなかったでしょう? 」
クスクス、と笑う。こちらは何が何だか。健人の方を見たが、向こうもよくわからないようだった。
「はははっ、大成功だな小野寺。賭けよりも役の方が先に決まっていたが、まあ大活躍というわけだ。見ろ、こいつらの間抜けな顔を」
ああ愉快愉快、と笑っている立花には腹が立ったが、こちらもまったくわからないので降参とする。
「……なにやってたの? 」
「いやぁ、私の演技は完璧だったわけだ。こんなに光栄な言葉はないね」
そしてゴホン、と咳払いして、続けた。
「お兄さんたち、きてくれてありがとう!あの時僕のことがわからなかった時点で、私の勝利は確定していたんだけどね」
彼女は少々声を低くしてそう言った。でもその声には聞き覚えがあり、思わず、健人と俺は顔を見合わせてしまった。
「てことで、写真今ここで消してよね」
「……はぁ、仕方がない。賭けに乗ったのは俺だしね……しかし、ロミオとはね。ありゃあわからん」
「私の演技力とメイクの技術が評価されて嬉しいよ」
写真を削除すると、恵都は満面の笑みを浮かべた。奇しくも、彼女のこんな綺麗な笑みは初めて見ることになったのだった。
「そういえば屋上でなにしてたの? 」
「屋上の柵にかけてあった横断幕を付け替えてたんだよ。一応生徒会の役員なんだけど、それやるって言ったら立花先生が付き合うって言ってくれてさ」
いつかそんなこともしたような気もするが、あれは生徒会の仕事だったのか。確かに立花は取り外した横断幕を持っていた。
「あ〜、僕も昔諒太郎とやったな〜別に僕は生徒会役員じゃなかったけどね」
「桜井は三条専用だったからな〜もはや恋人のソレだったぞ」
「……そこまでじゃないだろ……色々と面倒がなくていいんだよ」
学生の頃のように話していると、恵都が不思議そうに見ていた。
「どうしたの? 」
「……私よりずっと楽しそうな学生生活送ってるなって思って。そもそも友達いたんだね」
真顔でそういう彼女に、確かにそうだったかもしれないと思った。
「ほんと失礼なこと言うねぇ。君と一緒にしないでくれる? 」
「と言っても、三条も桜井だけだぞ」
「ふぅん、じゃあ私の方が多いね」
ドヤ顔して言うが、多分以前の学校でということなのでここでは本当にいないんだろう。
「まあそんなことはいいけど、立花は今度は演劇部の副顧問なわけ? 」
「おいおい、先生と言いなさい。そうだよ、今は演劇部だな」
「今はってことは、前違ったの?というか、諒太郎はなんで立花先生とそんなに仲良いの? 」
恵都は、立っているのが疲れたのか、階段を一段二段……と上がり、俺の隣に座ってきた。それ一個ちょうだい、とフライドポテトを指していったので、入っていた爪楊枝に二つほど刺して渡した。
「仲良くはないけど……部活の副顧問で、そん時にすごい構われただけ」
「……諒太郎なにやってたの? 」
言うなよ、という視線を立花に向けた。立花はどうしようかな〜というような顔でニヤニヤしていた。
「美術部だよ」
と言ったのは健人だった。少し睨むと、え!ごめん!と言ってきたがもう遅い。
「諒太郎、絵描けるの!? 」
すごい!今度見せて!と言う。そこまで食いつくのは意外だった。
「絶対色は塗ってこないけどな。毎回鉛筆とスケッチブックしか持ってこなかったよ」
「そもそも入ったのだって立花に言われたからだし……」
「ええ〜諒太郎の中で生徒会よりも優先順位高かったのに? 」
「お前らほんとなんなの……」
話すつもりもなかったことをこいつらはべらべら喋る。若干決まりが悪い。
横断幕を返すのはいつでもいいから、とそのまま二人とも居座り、買った物を四人で食べた。
生徒会室へ行きがてら適当に回ろうということになったが、立花は仕事がある、と言ってやっとどこかへ行った。
「小野寺さんは教室の方は行かなくていいの? 」
「恵都でいいよ……多分私のシフトないんじゃないかな。そもそも存在しない者として扱われてそうだし」
健人の問いに、恵都は笑いながらそう答えた。クラスでは完全に孤立しているらしい。鈴井奈莉花の影響力は案外あったようだった。
そんな話をしていると、端を歩いていた恵都が、向かいから来た女性にぶつかった。
「あ、すみません……」
「こちらこそすみま……ああ、あなたが」
そう言った女の方を見ると、残念ながら見知った顔だった。
「会いたくない顔に会っちゃったね」
「その言葉、そのままお返ししますよ」
そう冷ややかに言うと、今度はまた恵都の方を向いた。
「妹があなたに卑劣な行為をしていると聞きました。姉として謝らせてください。ですが、彼といるのは感心しませんね。むしろ軽蔑します。本当に噂通りの方なんですね」
「…………噂ってなに? 」
「ご自分の噂でしょう?知らないなんて、自分に精一杯で周りが見えていないんですね」
そう言い残して去っていった。終始黙っていた健人がはぁ〜、と溜息を吐いた。
「久しぶりに会ったなぁ……それこそ、学生時代は毎日会ったもんだけど」
「……あの人誰?まさか……」
恵都はハッと目を見開いてこちらを見てきた。
「そ、鈴井有莉花。嫌だねぇ、会いたくなかったよ」
「なんて言うか、妹とはタイプが違うね。諒太郎とか健人さんから見てどんな人? 」
冷たく突き放されたものの、普段鈴井奈莉花から受けている陰湿なものとは違うものを感じたらしい。
「う〜ん、なんて言うかなぁ。真面目過ぎるって言うか……」
「ま、要はクソ真面目だよ。絶対曲がれない」
健人が言いにくそうに言葉を選んでいるのを遮って答えた。真面目過ぎるでは緩い。
「諒太郎と正反対でしょ?昔はよく怒られてたよね」
「嫌なこと思い出しちゃったよ。お互いがお互いのことを大っ嫌いなの。性格が全くと言っていいほど合わないからね」
生徒会をサボろうと美術部にいたら、美術室まで来て部員の前で怒り出した。それでも行かなかったけど。
「恵都は?どう思った? 」
もしかしたらこの後一生付き合うことになるかもしれない女の第一印象はどうだっただろう。あまり良いものではなかったに違いない。恵都は少し考えてから口を開いた。
「……そうだね。綺麗な人だと思ったよ」
「え?顔とか? 」
予想外の答えに戸惑う。顔は確かに整ってはいるが。
「まあ、顔も綺麗だけど。私への謝罪とか言葉とか、今の話を聞いて、汚いことを考えられる人じゃないのかなって思った。私の勘違いかもしれないけどね。多分、嫌がるほどじゃないよ」
その言葉に何とも言えずにいると、生徒会室にたどり着いた。中に入ると、昔と何ら変わらない、陽当たりが良すぎて少々暑いくらいの室内だった。
「諒太郎は何の役職やってたの? 」
「え、生徒会長……? 」
「……そんないい加減で良かったの? 」
今思えばその通りである。本当は鈴井有莉花の言う通り、サボるなんてあり得ないことだったのかもしれないと思った。
「まあ、諒太郎こんなだけど、外面はめちゃくちゃいいんだよね。何とかなるもんなんだよなぁ、これが」
フォローになってないフォローである。式典は参加していたし、最低限は出ていた気がする。
やはり少々暑いのと、別に懐かしくも何ともないので早々に生徒会室を出る。
「これ何の仕事なの? 」
「広報だよ。部活もあるし、あんまり仕事がないやつにしてもらってるの」
生徒会長は誰?と聞くと、誰だっけ?とこれもまたいい加減な答えが返ってきた。
「諒太郎の生徒会長見てみたかったなぁ」
急にそんなことを言い出すので少し驚いたが、本気なのか、まあ冗談半分みたいなものだろう。
「そ?写真くらいなら残ってるんじゃない? 」
正直見られたくないと思いながら茶化すように答えた。
「別にそういうことじゃないんだけど……ま、いっか。……今日、楽しかった? 」
「ん〜、そこそこ」
「結構楽しかったんだね」
健人が余計なことを言うので肘で小突くと、いてっ、と大袈裟に反応した。
「私もそこそこ楽しかったよ」
みなさん、なんの役やっていたか分かりましたか〜?




