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不幸の檻  作者: みあ
傾国の美女
59/62

文化祭1

 スマホが震える音がして、メッセージが浮かび上がる。それを開くと、催促のメッセージだった。


 今どこ?

 あなたの後ろ

 僕の後ろは壁だ

 つまんな


という会話メッセージから目を離すと、健人の姿が見えた。よ、と声をかける。


「顔を見るのは久しぶりだな」

「そ?つっても二、三ヶ月くらいだろ」


今日は、母校の文化祭である。恵都との賭けに応じるために行くことにしたのだが、一人で行くと何かと話しかけられやすいので、健人を伴うことにしたのだった。


「でも、そんな賭けに応じるほどその子のこと気に入ってるんだ? 」

「恐ろしく遠慮がないよ。立場的に少しでも媚びた方がいいと思うんだけど、全く媚びない」

「少しでも媚びたり遠慮したりしたら切り捨てるんだろ? 」


まあね、とそっけなく答えた。それが気になっている理由なのかはよくわからない。今の状況を一変させるには、都合の良すぎる人材だった。あの顔であの態度なら嫌でも話題になるだろう。それを聞いた人間がどちらにつくのかも見ものである。


「面白そうじゃん?ああいうの」

「お前の面白そうは全くわからないけど、楽しそうならいいや」


そんな会話をしていると、高校にたどり着いた。OB 、OGしか入れない文化祭で、何年卒業、名前を言えば入れる。こんな名前そうそういないからか。受付でもらったパンフレットを見ると、恵都が出ると言っていた演劇は三十分後ということなので、少し校舎を見て回ろう、ということになった。


「あんま変わんないね、知ってる先生の方が多いや」

「そりゃあ四、五年でそう変わんないだろ。美術室はパスで」

「ええ〜、行こうよ」


とある教師に遭遇したくないので、いそうな場所はパスする。行きたかったなぁ……と言う健人を無視して歩いていると、一人の男子が数人の女子に囲まれていた。小柄だが、スラっとしていて、顔もなかなか女子ウケしそうな顔をしていた。演劇部らしく、その衣装を着ていた。


「かっこいい〜どこのクラスなんですか? 」

「ありがとう!クラスは内緒かな……十時半からやるから観にきてね! 」


そう言って女子にチラシを渡した。声は若干高めだが、彼に似合っていた。またね〜と去っていく女子に手を振ると、こちらの視線に気がついたようで近づいてくる。


「お兄さん、良かったら観にきてくださいね!そっちのお兄さんと一緒に」

「そうだな……知り合いも出てるし、観に行くつもりだけど」

「へぇ〜嬉しいなぁ……うちは誰が何やるかって公表しないんだ。演技の評価じゃなくて人の評価になっちゃうから。お兄さんのお知り合いは何やるんだろうね」


チラシを受け取り、またね〜と手を振ってくるのを健人が返しながら、適当にまた校舎を見て回る。お化け屋敷やら、コンセプトカフェやら、文化祭らしいものが並んでいた。別にどれかに入ることはないが、ふと、昔自分はこんなことしただろうかと疑問に思った。それを言うと健人は、


「いやそもそも教室に殆どいなかったじゃないか。生徒会も忙しそうだったし」


ああ、そうだった、とだけ言って、確かに文化祭の記憶が薄いことに気がつく。恵都のこと笑っていられる身でもなかったようだ。

 いい時間になったのでそのまま演劇のやる体育館に向かう。


「すごい美人な子なんでしょ?お姫様とかやるのかな? 」

「ロミオとジュリエットだとお姫様なんて出てこないけど……ジュリエットとかやんのかね」


すると後ろの方の席から、部員の友達のような話し声が聞こえてきた。


「木野はなにやるんだろね!ジュリエットかな? 」

「案外ロミオだったりして〜」

「ふわふわ女子の木野には似合わないよ〜」


「木野ってあの木野だよね?もう高校生だったんだ」


木野みく……母親が有名な女優であり、本人も舞台女優である。部活か生徒会のどちらかに入らなければならないこの学校で、演劇部に入っていたらしい。当然と言えば当然だが。木野の母親が講師ということもあってこの演劇部はレベルが高いと評判なんだとか。


「そういやロミオはさっき見たな」

「ああ、そうだね。他に役なにあったっけ?……まあ正直、僕は諒太郎が負けてもいいと思うんだけどね」 


思いがけない健人の言葉に面食らった。このために誘った部分もあったので協力者がいなくなってしまった。


「は?なんだよ、協力してくれるんじゃなかったのか? 」

「そんなことは僕は一言も言ってないよ。でも、その子のこと見てみたいと思ってさ」


お前にそこまで言わせるなんて興味あるじゃないか、と言った。おかしなことを言う。別にそんなんじゃない。



 流石に、あの劇を全てやるのは長いということで、名シーンと大体の展開がわかる程度を掻い摘んでやっていた。勿論、あの「ああ、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの?」もあった。あれの返答は初めてみたのだが、まあ歯の浮くような台詞の数々だった。悲劇とはいえ、大恋愛がテーマなのだから当たり前か。

 舞台女優の木野のジュリエットに負けず劣らず、ロミオの演技も観れるものだった。あれは何かやってるんだろう。ロミオがジュリエットを口説くたびに、観客の女子の歓声が聞こえる。校内では有名なんだろうか。後で恵都に聞いてみよう。


 結局、公演中恵都の姿を見つけることができなかった。裏方でもやっていたのか、それでも何をやっていたか答えなければならないというからもう写真を渡す気なんてさらさらないだろう。


「まったく、何をやってたんだかさっぱりだな」

「そうだね……僕も探してはみたけど全然わかんなかったな〜」


 もう写真より何をやっていたかどうかの方が気になる。時計を見るともう正午に近くなっていたので、模擬店や屋台で何か買おうか、ということになった。


「混んでるね……昔も買うのに苦労したな〜」

「へぇ……お前が買ってきたの食ってたから知らなかった」

「……僕、ことあるごとに諒太郎の世話焼いてるよね。もうちょっと感謝してほしいんだけど」


はいはい、と健人の不満をやり過ごして、適当な屋台に並んだ。


 公演が終わって間もないから反応は期待しないが、スマホのメッセージで『今どこ? 』と恵都に送った。すると、意外にもすぐに返信が来た。


 部室 そっちは?

 屋台並んでる

 あっそ


あっそ、とは?と思ったが、別にそれ以上にないかとも思った。


「んー、たこ焼きとフライドポテトと唐揚げ、他に何か欲しいものは? 」

「ないね。てかそんなに買ったの」

「お祭りっぽいものひと通り食べたくて!あ、どこで食べる? 」


彼は割と昔から雰囲気に流されやすいところがある。イベント事は嫌いなのに、彼といると悉く巻き込まれる。


「……あそこは駄目かね? 」

「行ってみるだけ行ってみようよ! 」


校内に入って、階段を一番上まで登ると屋上の扉が見える。屋上は風が強くてたまったもんじゃないので、その階段でよく弁当を食べていた。


「相変わらず誰もいなくてよかったね」  


 階段の中央あたりに買ってきたものを二人の間に挟んで座った。五年前のことがひどく遠いことのように感じる。あまりいい思い出もなかったはずだが、なんとなく懐かしさを覚えた。


 その時、後ろからドアの開く音がした。後ろといえば、屋上のドアだ。振り向くと、見たかった顔と見たくなかった顔が両方現れた。


「おーおー、相変わらず二人ぼっちか! 」

「え?先生、諒太郎のこと知ってるの? 」


恵都と……恵都が「先生」と呼んだその人は、立花穂乃。世話にはなったが、厄介極まりない。


「二人ぼっちって……二人もいれば上等だろ」

「立花先生お久しぶりです! 」


二人は階段を降り、立花は健人の方へ近づいて頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「君たちも相変わらずだね。元気そうで安心したよ。もっとも、大人には慣れていないようだが」

「俺の周囲最近そればっかだな」


聞き飽きた言葉に嫌気がさす。すると、立花はおや?と首を傾げた。


「自覚がないのかい? 」

「先生、自覚してたらこうはなってないよ。……あ!そうだ、話は変わるけど、賭けの勝負は私の勝ちでいいよね? 」



1です。まだ続きます。

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