私服
「休日に何の用です?私も暇じゃないんだけど」
部活終了後、先日「追加しといて」と言われ、渋々交換した連絡先に、「来て欲しい」なんてあるから何事かと思えば何でもない。
「休日なら私服かと思ったのに…今日も制服なの? 」
「部活終わりなんだけど。嫌なら着替えてきましょうか?それに、前当主夫人との会食は今日じゃなかったの? 」
というか、私だって着替えたい。メイクも直したい。こんなどうでもいい用事に付き合わされるなんて。
「あぁ、それはこの後。正直どうでもいいけどね。」
「じゃあ、自分の部屋帰っていい? 」
「えぇ〜!じゃあじゃあ、なんでも教えてあげるからさぁ〜」
おっと、これは予想外だ。この機会を使わせてもらおう。
「ほんと?ま、でも着替えてくるから」
そんなに頑張らなくてもいい。可愛すぎてもつまらないから。
押し入れに入っている服を眺めて、目についたのは、ピンクモーヴの襟の付いた膝下くらいまで丈のあるワンピース。腰にはブラウンのベルトがついている。制服を脱いでそれに着替える。学校にしているのはバレない程度のメイクに色を少しずつ足して、結んである髪を下ろしてストレートアイロンをかければ完成。
「可愛すぎるくらいかもしれない……」
鏡に映る自分を見て、思わず口にしてしまった。地味にするつもりだったのに。生まれ持ったものは仕方がない。
「何教えてくれるの? 」
「何が知りたい? 」
知りたいことは沢山あるが、何がいいだろうか。今の時点で早急に必要な事柄といえば……
「三条家と鈴井家の関係」
「……嫌なこと聞いてくるね」
苦虫を噛み潰した、というのはこういう顔のことを言うのだろうか。
「なんでもいいんでしょ? 」
「まあ、今君の立場を考えたらそれもそうか」
そう大した話ではなかった。三条に次ぐ財閥の一つであり、三条家と婚姻関係を結んでいくことによりその地位を維持していた。そしてこの後彼が会うという、前当主夫人も鈴井家の人間だった。彼と鈴井有莉花との婚約を取り付けたのは彼女だという。
「諒太郎の母親は何も言わなかったの? 」
「母親?……ああ、夫人ね。一応なんか言ってたみたいだけど、石田が言うにはもっといい駒を見つけたとかなんとか」
因みに、夫人……彼の母親は、二階堂家という、鈴井と同等の家の出身らしい。しかし、姑の力がまだまだ健在であるために、発言力はほぼない。
「ま、あの人が何をしてるのか、何処にいるのかさえわからないし、興味もないね。二ヶ月に一度見れば良い方だよ」
「私のママとは全然違う……」
母親のかたちも色々だ。ママみたいに、娘が可愛くて仕方ない、という母親もいれば、全く関わらない人もいるのか。人は大体、自分の育った環境を常識としている。もし、その常識を覆されたら……その人生観を覆すと言っても過言ではない。
「へぇ…?よくわからないけど。……そうだ、もし何かしたいなら他に利用できる人間を見つけておくといいよ。妨害に遭いにくくなる」
「……なんで復讐される側がする側に助言してんの。馬鹿じゃないの? 」
暇潰しというだけで私にここまでする理由がわからなかった。家の方針とは矛盾している。婚約者が気に入らないにしても、他に手があるはずなのに……今の私にできることは限られている。それ相応の見返りを提供することはできない。彼の行動を咎めるというより、それが怖いだけ。実際、目的などどうでもいい。
でも彼の言う通り、後ろ盾のようなものは欲しい。まあそれは後々考えていくとして……
「ここ、何か食べるものない? 」
「冷蔵庫に何かあるんじゃない?アイスとかもあると思うけど」
漁っていい、ということだという認識で冷蔵庫を開ける。殆ど物は入っていなかった。冷凍庫を開けると、アイスがいくつか。普段ちょっと買うのを躊躇するようなやつ。
「ちょっと!これ限定品! 」
「あら、お気に召したようでよかったです。ちゃんと価値がわかる人が食べてください」
反応したのは諒太郎ではなく、石田さんだった。
「いつ入ってきたんだよ……」
「今ですよ?恵都さんもいますし、入っていいだろうと思いまして」
この二人はお互い意外と言うことやること容赦ない。主従関係というより、親子のような……
「これ何処行っても売り切れててなかったんだよね〜」
引き出しから勝手にスプーンを取って、諒太郎の座っているソファに彼との間を一人分開けて座った。
「それ、なんの味なの? 」
「ラズベリーチーズケーキ」
「……それってアイスなの? 」
アイスを食べながらぼうっとしていると、カシャッという音がした。音のした方を見ると、スマホを手に諒太郎がにやにやとしていた。
「……何撮ってんの」
「駄目だった? 」
全く悪びれずに言うので腹が立つ。
「駄目に決まってんでしょ?消して」
「ええ〜、別にSNSにあげるわけでもないんだしいいじゃない」
「そういう問題じゃない」
この、言うことやること全部思い通りになるだろう、という態度が気に食わない。大したことではないけれど、小さな妨害が苛々する。
手を伸ばしてスマホを取ろうとすると、ひょいっと遠ざけられてしまう。
「は? 」
「ええ〜これロック画面にしようと思ったんだけど」
「はぁ? 」
これではますます消さないといけない。どうしたものか。
「……あ、来週末文化祭でしょ?クラスで何かやるの? 」
思い出したかのように急に話題を変えるので、一瞬考えてしまった。
「なに急に……話題を逸らすにしては下手すぎない?それに、私クラスはなにもやらないけど」
「あれ?模擬店みたいなのやらなかったっけ?」
「私のクラスはやるだろうけど、私がやらないだけ」
彼は少し考えてから納得したのか、なぁんだ、と言った。まあ、どれだけクラスで除け者にされているのかという話でもあるが。
「……あぁ、そうそう。私は演劇部に所属してるんだけど、文化祭で公演をやるから観にきてよ」
「何やるの? 」
「演目も、私が何をする予定なのかも言わない。当日来て、私がどこにいたか当てられたら、その写真をあげるよ」
我ながら良い案だと思う。それにこの賭け、私が絶対に勝つ自信がある。
「まさか舞台裏とか言わないよね? 」
「舞台裏をやってた時はどこをやっていたのかも当てないとね」
「え……それ無理じゃね? 」
そうやって一段落すると、後ろから溜息が聞こえた。
「お話は終わりました? 」
「石田見てただけじゃん……」
諒太郎が責めたように言うと、石田さんは、また溜息をついてしまった。
「子供の喧嘩に大人が出るのはご法度ですので」
当人同士で解決しろ、と言うことか。なんだか急に保護者に見えてきた。
「え、俺成人してるんだけど? 」
「成人していようがなんだろうが、私には大きな子供に見えますね」
まあ、呆れた、と言う。
「あ、アイス溶けてるよ」
「……誰のせいだと」
幸い、食べれないまでもなかったので、溶けかかったアイスを掬って口の中にかけ込む
「そういえば、石田は何の用だったの? 」
アイスのくだりから写真の取り引きになって、結局彼女は目的を果たしていなかったのか。
「ああ、大した話ではありませんが。衛藤が戻ってくる、という話ですよ。恵都さんは見たことありませんよね」
なんだかまた書き方を変えてみました…どうなんでしょうか?
伏線にならない伏線が存在していいのかどうなのか…大したものではないのですが…
キリが悪いですが、私情によりしばらく更新は一旦ストップさせていただきます。




