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不幸の檻  作者: みあ
傾国の美女
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憧憬

 彼女がどうして私に興味を持ったのか。根も葉もない噂たちに興味を持ったのか、それとも私自身に興味を持ったのか。それによって大分違ってくる。どちらかと言えば後者の方を信じたいが。


「みんな、この業界は綺麗な子も可愛い子も沢山いるわ。でも、なんでかしらね。あなたが一番惹かれたのよ」


それについては何も答えられない。自分もよくわからないからだ。勿論、遺伝子がいいので可愛いのはよくわかる。でも、他のどの子よりも優っている魅力は私自身は持ち合わせていない。ママは、あった。あの、たまに見せる危ういような笑顔に娘の私でも引き込まれそうになった。


「…………ありがとうございます。でも、その理由は、瑛奈さんにもわからないんですか? 」


あの、Enaほどのモデルであれば何かわかるのではないかと思ったけれど、そうでもないらしい。


「わからないわね……うーん、これじゃあ解明しないわね」


「じゃあ、私はこの理由がわかるまでこの仕事をしようかな……」


「あら、すぐわかったらどうするのよ。わかっても言わないことにするわよ? 」


「ええ……まあ、借金返し終わるまで辞めないですけど」


まあ、返し終わるわけないし、あの家からも出られないから辞められないんだけど。


「……借金があるの? 」


「まあ……なかったらこの仕事やってなかったかもしれませんね」


借金がなかったらではなくて家の呪いのような実験がなければ、だな。


「……そう。……あ、そうだ。どうしてあなたの噂はあんなにおびれ背びれついて広まっているの?どこまでが本当? 」


痛い所を突かれた。出来れば説明せずに誤魔化したいところだったが。さて、どこまで話すべきか。


「ええっと…親がいなくて親戚の家に世話になっているのは本当です。そこが結構厳しい家で、学校も指定されたくらいなんですよ」


嘘は言っていない。三条家だって一応血の繋がりはあるのだから。


「……そう、それは大変ね。愚痴くらいは聞くわよ。あ、そうだ、彼氏がいるというのはどうなの? 」


この質問は、適当に誤魔化したって構わない、だって彼と外に出たことは一度もないのだから、誰にも見られたことがあるわけないのだ。


「ああ、いないですよ。親戚の子なのにいい車で送迎があるのが不思議なんでしょう」


そういえば、彼とは別に付き合っているわけではないのだから、これも嘘ではないだろう。付き合っている、というのはあくまで対等な関係だから、あの関係には当てはまらない。どう頑張ってもあちらの方が立場が上だ。


「ふぅん、……嘘吐き」


「へっ? 」


「嘘吐きってわかるでしょう?あなたは、この会話で当たり障りなく、相手をどう納得させるか考えてる」


言葉が出なかった。その通りだったからだ。完璧だと思ったのは、私だけだったようで、というかそれで今まで納得させられなかった人はいなかったから、油断していた。


「図星ね。でもどうして?別に珍しいことでもなんでもないでしょう? 」


「なんで私が嘘吐いているってわかったんですか? 」


「この業界に入って、沢山の人を見てきたから、笑顔ひとつとっても、いろんな顔があるでしょう?その時その時に相応しい顔じゃなきゃ…………って、話を逸らそうとしない」


「ひっ……」


駄目だ、この人怖い。おかしい……だって三条家当主との会話の方がよっぽど緊張感があるし、先日の諒太郎との取り引きの方が色々考えていたのに。気が緩んでいるのかもしれない。


「で、どうしてそんなにも隠したがるの? 」


「まあ……いやぁ、訳アリみたいな……? 」


咄嗟に出てきた言い訳がそれだった。そうやって言及されることはほぼないからか。この人のことを知らないせいで上手く誤魔化せないのかもしれない。


「なんで疑問形なのよ。親戚の家にバレたらまずいの?黙っててあげるからその人見せてよ」


バレたらまずいことはない。だってあちらが提示してきた選択肢だから。でも、そういうことにしておいて、その場をやり過ごしたい。


「えぇ……い、いつか……」


「そんなに見せたくないの?逆にどんな人か気になってくるわね」


正直言うと、彼との関係を瑛奈さんみたいな普通の人に説明するのは難しい。説明したところで理解されないだろうから。それに、今のあの関係は言葉にし難い。


「そ、そういう瑛奈さんこそ、彼氏さんいないんですか? 」


頑張って今度こそ話題を逸らす。少し失礼な食い下がった質問だったが、ここまできたら彼女のプライベートも聞かずにはいられない。


「半年前に別れたわ。随分なクズだったわよ」


「あー、ごめんなさい? 」


「謝らなくてもいいわよって言おうかと思ったけど悪く思ってなさそうね。そういう図々しい人嫌いじゃないけど」


その時、スマホの通知が来たので開いてみると、石田さんが迎えに来てくれたとのことだった。


「あ、そろそろ私帰りますね。ありがとうございました」


「あ、待って!……これ、追加しといて」


そう言って差し出してきたスマホには連絡先のQRコードだった。



 

 「何かいいことがあったんですか? 」


瑛奈さんのプロフィール画像を眺めていると、石田さんにそう言われた。無意識のうちに笑っていたのか。我ながら少し怖い。


「あ……そうですね。憧れの人と繋がりを持てたので」


「憧れとかあるんだ?どんな人? 」


今日は残念ながら車内にいるのは石田さんだけじゃない。何故彼がいるのか不思議で仕方がないが、石田さんが謝ってきたので、それはなんだか彼女が気の毒で了承したのだ。


「……絶対言わない。そんなに興味もないくせに」


スマホを覗き込もうとするので電源を切る。 


「いやぁ、今度前当主夫人に恵都のこと聞かれるだろうからさ、適当に情報収集くらいしとこうかと思って」


悪びれもせずに言うのでもう呆れてしまう。こんなこと知ったところで何になるっていうんだろうか。


「そんなこと言われたら尚更言えないんだけど? 」


「まあいいや。そういえば、今日も制服だよね。制服好きなの?私服見たことないかも」


思い返してみればそうだった。この学校の制服は、白いブラウスに赤いリボンで黒のジャンパースカート、腰あたりまでの短めのブレザーも黒だった。


「たまたまだけど、別に何着てても可愛いんだからなんでもいいでしょ? 」 


「……あ、そういう感じなんだ?そういうのってたまに不興を買わない? 」


「……?事実でしょ? 」


何がおかしい?と眉を顰めると、彼は吹き出した。


「ふっ、ははっ……いいね、そういうの。誰かに否定されても絶対曲げないでしょ?きっとあの屋敷で生き残れるよ」


気に入られたのは別に悪いことではないのだが、少々複雑な気分だった。生き残れる……というのは、恐らく精神的に。物理的には殺されてしまうのだけど。


「よかったですね、大奥様に屈しないとなれば、こちらが縛られることも少なくなりますから」


「ま、どいつもこいつも揃って実験体を自分の思い通りに動かす道具にしようとしか考えてないからね」


石田さんが言っていたことは結局、私が前当主夫人の言いなりになってしまうと色々と口出しをしてくるので、彼が自由に動けなくなってしまう、ということらしい。


「じゃ、あの人には『あんたの思い通りには絶対ならないでしょうね』とでも言っておくか」


あの自己肯定感のバケモノは、遺伝子という根拠があるから……ということらしいです

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