放漫
次の日、先日あったテストが返却された。前期中間テスト。私が上位になることは絶対ないのだが。
今の学校…煌明学院で初めて受けたテストが返却された時、採点ミスに気がついて言いに行ったことがあるが、点数は変わらなかった。その時に全て察したので、もう点数も回答も面倒で見ちゃいない。
今日は部活がある。教室を出て、多目的教室に入ると、今日は演目決めだったのをすっかり忘れていた。
「小野寺、遅かったね。何か考えてきたでしょうね? 」
部長が声を掛けてくる。一つ上の女の先輩だ。
「遅かった…ってまだ始まってもないじゃないですか。白雪姫でもやったらどうですか? 」
「考えてきていないのはよくわかったよ。私たちはあなたに主役をやらせたいんだから、ちゃんと考えて欲しいんだけど」
候補に出ているのは、ハムレット、ロミオとジュリエット、シンデレラに私が言った白雪姫。
「なんだ…こんなに出てるんなら私のいらないじゃないですか。それに、主役なら木野がやればいいのに」
「ええ〜!私は小野寺先輩が主役やってるのがみたいです〜! 」
木野は、小学生の頃から劇団に入っているらしい。将来はプロの劇団員になるのが夢なんだとか。それなりに演技は上手いし、何より場慣れしている。
「う〜ん、確かに木野にもやらせたいんだけど…ああ、いいのがあるよ」
部長は、何やら妙案を思いついたようで、嬉しそうに演目候補が書いてあるホワイトボードに向かった。
「?だから私は適当な役を幾つかで…」
「ロミオとジュリエットですか!?いいですね〜!ジュリエットは小野寺先輩ですか? 」
なんとなく、雰囲気的にジュリエットは木野の方がいい気がするが。
「いいや、ジュリエットは木野だよ」
「あれ?だと小野寺先輩を主役にできないじゃないですか? 」
まだ主役こだわっているのか。私が主役をやったらブーイングの嵐じゃないか。
「あるでしょ、まだ」
「はい?……まさか」
これは……どうなることやら…
帰りも送迎があるのだが、その送迎の運転手も石田さんに変わっていた。車に乗ると、申し訳ないのですが…と言いにくそうに切り出す。
「今日は、主人の部屋にそのまま行っていただきたいのですが…」
「……いいけど。あなたが申し訳なさそうにすることじゃないでしょ。それを言い出したのはあなたの主人なんだから」
また何を考えているのか知らないが、碌なことではないだろう。今日はこの後予定もない。
「だからこそです。あの方が何かやらかしてしまったら私たちの監督責任ですし」
「可哀想…石田さんの他に何人いるの? 」
「護衛を含めなければ、私と衛藤、という男性だけです。衛藤も私もあの方が幼い頃から仕えているので、保護者の役割もありますね。何か困ったことがあったら言ってください。お力になれるといいですが」
案外、三条家の中でも味方になってくれそうな人がいたとは。想定外だった。
彼のことはともかく、石田さんが申し訳なさそうに言うので、言う通りに彼の部屋に向かった。が、彼は居なかった。石田さんもわからないらしい。衛藤さん、という人に連絡を取っても分からない、ということだったので、暫くここで待つことにした。鞄をそのまま持ってきたのは正解だった。ソファに座り、机に勉強道具を広げて、課題をやり始めた。復習と、ついでに予習もやって、後は適当に時間潰しに教科書演習を幾つか解いた。それくらい時間があった。
「やあ、勉強熱心で感心するね」
「………呼び出しておいて待たせるなんてどういう了見? 」
「まあ、いろいろ」
適当なのか、そうでないのか。少々相手を苛立たせる才能があるらしい。
彼は、私が広げた物の中からA4の封筒に目をつけた。ひょい、と取って中を開けた。
「何これ…テストじゃん。…案外点数悪いんだね」
無視して教科書に視線を戻す。彼は、一番上の回答用紙を一通り見ると、怪訝そうにこちらを見てきた。
「これ、点数違うって言わなかったの? 」
「……言っても無駄なのに? 」
「あぁ、なるほど? 」
納得したようで、ソファから立ち上がって缶を二本取り出した。一本はサイダー、もう一本はお酒(何かはよく分からない)だった。
「はい、これあげる。あ、飲んでいい? 」
一応、私が未成年なことを気を使ったらしい。
「お好きにどうぞ。私もお言葉に甘えていただくよ。…変な物入ってないよね? 」
それを聞いてから、缶を開けて一口飲んだ後、呆れた顔をして私の問いに答えた。
「どうやって入れるの…あぁ、でもこの家で出されたお茶とか飲まない方がいいよ。何入ってるかわかんないから」
再三、両親に言われたことだが、まさか三条家の人間に言われる日が来ようとは思わなかった。
「それあなたが言うの?……それ、どうするつもりなの? 」
私の筆箱から勝手に赤ペンを取り出したが、何か書くわけでもなく先程の回答用紙を見つめていた。
「ん〜?酔っ払いの気まぐれに意味を探さない方がいいと思うよ」
酔ってなくても気まぐれなんじゃ…まあいいや。サイダー缶を開けて、一気に三分の一ほど飲んだ。
あ…制服の説明してなかった…




