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不幸の檻  作者: みあ
傾国の美女
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銀鋏

 「………十分くらい待ってもらえない?準備するから」


「わかりました」


食べかけの親子丼にラップをかけて冷蔵庫にしまう。歯磨きをして、鏡の前に立つ。崩れかけているメイクを直し、ちゃんと顔を見ると、メイクをしたのに顔色が恐ろしく悪かった。


彼女の主人が誰なのか、わかるようなわからないような。どちらにしても三条家の人間だから碌なのではない。自衛くらいしていかないと。



「ごめん、待たせてしまって」


「では、参りましょうか」


廊下を歩いて、奥の三条一族の住む部屋の方まで来た。その二階の一番奥の部屋で立ち止まった。


石田さん…は、そのドアをノックして、部屋主に声を掛けた。


「お連れしましたよ。開けてもよろしいですか? 」


「ああ、いいよ」


若い男の声…予想通りだ。


「どうぞ、お入りください……私はこれで失礼しますよ」


ドアを開けると、私に道を譲って、自らは部屋から出ようとする。


いてくれるわけじゃないんだ…まあ、私の使用人じゃないんだからそりゃあそうか。彼がそう望んでいるなら、そうなんだろう。部屋には護衛が一人。


ソファに座っている彼は、私を上から下まで一通り見ると、別に面白くもないのに随分可笑しそうに笑う。


「はははっ、久しぶりだね」


「久しぶり。何かそんなに可笑しいことでもあった? 」


少し睨んでそう聞くと、笑いを堪えながら頬杖をついて答えた。


「随分命知らずだなぁって。垢抜けはしたけど、身長も変わらないし、ちょっと痩せたか。留守にしてる間に当主に食われてないか心配だったけど、そうでもなさそうで安心したよ」


「そうだとしたら当主の目が一つくらい潰れてるだろうね」


「ははっ、違いない」


何が命知らずなんだか。この行動全てか。警戒はすれど、言う通りにノコノコここまで来たことも、初っ端から当主に喧嘩を売ったような行動をしたことも、彼の妾になる選択をしたことも。


「何か、用があって呼んだんじゃないの? 」


「…さて、なんだと思う? 」


馬鹿馬鹿しい。この男はこういうところが面倒で仕方ない。自分からは極力答えない、それでいて相手を揶揄って遊んでいる。


「……何がしたいんだかわからないから聞いているのに…私の品定めでもしたいんじゃないの? 」


「なんだ、わかってるんじゃん。帰ってきても、見飽きた顔ばっかでつまんないし、そーいや、面白いのがあったなって思ってさ」


完全なる物扱いか…まあそりゃあそうだ。それに、仮にも血の繋がった親族を見飽きただなんて、この一族の不仲説がいよいよ有力になってきたな。


彼は、壁に突っ立っていた護衛を呼んだ。何やら小声で一言二言喋る。


「今から起こることに何も手出ししてくれるなよ。折角の楽しみに水を差されたらたまらない」


「しかし…」


「金もらってるんだからいいだろ」


呼ばれた側なのに待たされるなんて。恐らくこの後に関係することだから余計苛々する。


「…何話してんの? 」


「いやぁ、別に大した話じゃないよ」


私には関係ない話だと言わんばかりだ。完全に馬鹿にされている。


「にしてもさ、よくこの条件下で生きていようと思うよね。このままだと生きてたって親の仇の息子に凌辱されるだけなのに」


それがわからないほど馬鹿じゃない。それが分かった上でその選択をしているのだから。


私がドア付近から殆ど動かないからか、彼はソファから立ち上がってこちらへ近づいてきた。思わず後退りしてしまいそうになるが、踏みとどまった。私が負けてるなんて思わせちゃいけないし、思ってもいけない。


「生きていること自体があなたたちにとって不都合ならそのために生きる。私はあなたたちが困っている顔を見たいの。侮っていたネズミに噛まれるなんてさぞ屈辱だろうから」


「じゃあ、そうしようと思わないように君の気力を無くさないといけないよね。…ふっ、ほんと馬鹿だよねぇ。こんな100年も繰り返して、結局君の両親だって何もできなかったじゃないか。口ばっかでさ」


一歩、二歩三歩と彼の方へ歩き、右手で彼の胸ぐら掴んで左足をかけて転ばせ押し倒した。馬乗りになり、起き上がってこないように左手でスカートのポケットに入れてあった銀の裁ち鋏の刃先を、彼の首へ向けた。


「で?君は何をしたいの?」


ここまでして尚、平然としていられるのは気分が悪い。少しでいいから動揺してほしかったのに。


「言ったよね?私はそのために生きるって。だから、あなたは私のことをなんと思ってようが関係なしにそれを阻止するため、実験を継続するために私を所有しなきゃならない」


「まだそんなこと言ってたんだ?…まあ、君の言っていることは結局家の言うことに従うだけだから別になんの支障もないんだけど」


私の存在自体が邪魔になっているのだから、よっぽどのことがない限り私から何かする必要もない。しかし、この約百年に亘る復讐をするためには、少々やらなければならないことがある。


「……ねぇ、なんでこの状況でそんな余裕そうなの?…もしかしたら怪我するかもしれないのに。私がこれで首を刺したら死んじゃうよね?あなた」


動くなと言われているのか護衛がこちらに厳しい目を向けてくる。私が彼に危害を加えられないと思っているのだ。間違いではないけれど。


「なんでかって?逆に聞くけど、君はこの状況わかってる?俺はいつでも君を止めることができる。それに、君、それを振り下ろせないでしょ。無理だよ」


「……そんなことっ…」


「そんなことないって言うかもしれないけど、実際君の手は震えているでしょ。…言葉の方は随分達者だけど」


「……っ! 」


無意識のうちに震えている手を見て、まだ私の感覚は正常なことが分かる。だが、それでは意味がない。


「くっくっくっ…ほらね。今までそういう脅しには何度か遭ってきたけど実行できた奴は…」


 ザグッ


振り下ろした裁ち鋏が彼の首の数センチ左の絨毯に突き刺さった。


「……確かに、あなたを刺すメリットはない。あなたの言う通りこれは脅し。私はこれであなたを傷つけようなんて思っていない。…でも脅しが効かなくても別にいい」


少しでも効けばいいと思ったけれど殆ど意味がなかった。それは少し残念だけれど、その他にも意味はある。


「……振り下ろしてきたのは君が初めてってことかな。でも、効きもしない脅しに意味はあるの? 」


「…だって、こうすれば嫌でもあなたは私の言うことに耳を傾けるでしょ? 」


突然、バッと何かが動いた。手首を掴まれ、身動きが取れない、と思った瞬間、視界が転回して背中に衝撃が走った。

投げ出されたのだ。


「………ったっ……何すんの」


今度は立場が逆になった。鋏を持った手は押さえつけられている。全く身動きが取れないのは物理的な力の差でしかない。


「何すんの…って危険を感じたから。…話聞いてもらいたいだけにこんなことするのは完全にサイコパスだろ…」


「…………というより意思表示に近いのだけど。私はあなたの言いなりにならないし、かと言って私に関心がないのも困る。これなら両方取れるでしょ?……気に入らなかった?あなたならこれがいいと思ったけど」


絶対服従はしない。でも、それが面白くないからといって関心が薄れてしまうのはもっと良くない。三条家の人間はプライドが高いから、こんなことしたら怒って殺されるかもしれなかった。彼は思った以上に暇を持て余しているらしく、それでいて余裕があるようだった。


自分に対する絶対的な自信、か。


「いいや?寧ろ大歓迎。思っていたよりずっと面白い…ねぇ、恵都、俺の愛人になってよ」


「勿論、そのつもりだけど?…死ぬまであなたに都合のいい女でいてあげる」

珍しく(?)動きの多い話にしてみました。上手く書けたでしょうか?自分的には納得のいってない部分はあるのですが、今の私の力量ではこれが限界です…精進します…

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