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不幸の檻  作者: みあ
小話
46/62

夢手紙

 眠れない。時計が指すのは二時十七分。今日は、早めに勉強を切り上げたというのに、すでに生活習慣が狂っているのか、なかなか寝付けない。寝返りを打って、ぼうっと部屋を見渡す。


まだ少し慣れない。借りたものという感覚がまだある。これから死ぬまでここに住むことが決まっているのに。


……もしかすると、まだ、前の家に帰らないといけないという意識が残っているのか…………?


それはない、と打ち消す。そろそろ、このよくわからない、でも明らかな負の感情をどうにかしないと。




だんだん苛々してきたので起き上がる。寝巻きといっても半袖のTシャツに半ズボン。外に出てもなんとかなる服装だ。本当はこんな時間にで歩いちゃいけないんだけど。


秀を起こさないようにそっと玄関を開ける。玄関に置いてあったローファーを履いて、外に出る。


行き先は例の公園。夏休みとはいえ、この小さな公園には人はいない。ブランコに座って少し揺らす。


 …キイィ…キィ……


そういえば、もう少しで誕生日だ。八月二十一日。あと一週間くらいか。教えていないから何も言われないと思うけど…


 チャリリ……


鎖の音、自分の座っているのではない。隣を見ると、少女がいた。


肩のあたりまで伸びた黒い髪、ぱっちりとした大きな目…どことなく誰かに似ている。少し、鏡を見ているような感覚に陥る。白いワンピースを着た彼女は、気配ひとつなく隣に座っていた。


「………こ、こんばんは…? 」


「こんばんは。こんなところで何しているの? 」


声をかけるとこちらを向いてにっこりと笑った。


「あ…眠れなくて。ここに来たくなって。あなたは? 」


「私?私はね、あなたがここにいるから」


………?どういうことだろう?雰囲気も不思議だから本物の不思議ちゃんだ。


「ねぇ、眠れないって言ったよね?じゃあ、少し私とお喋り付き合ってよ! 」


「…あ、いいよ、勿論。あなたの話、ちょっと興味ある」


「ほんと!?じゃあ、私のお兄ちゃんの話を聞いて? 」


凄く嬉しそうに、そう言って彼女は彼女の兄の話をし始めた。


 彼女と四歳年上の兄とは、昔から仲が良かったそうだ。いじめられているのを助けてくれかこともあったらしい。両親を早くに亡くして以来、お互いだけが頼りだったという。


「素敵なお兄さんなんだね」


「そうなの!……でもね、お兄ちゃんは自分を大事にしないの。それが何よりも嫌」


綺麗な顔をひそませてそう言う。大切な人だからこそ、その人が犠牲になる姿は見たくない。



「……私の、好きな人に似てる」


私がそう言うと、彼女は驚いたような顔をしたが、すぐにぱっ、ともとの明るい顔に戻った。


「ねぇ!あなたの好きな人のこと、教えてよ!やってみたかったんだ、恋バナっていうの」


「え、…………といっても、そんな大層な話じゃないし、その人に好きだってことは言ったけど、彼からの返答は聞いてないっていうか、聞けないっていうか…と、とにかく大した話じゃないって」


そんな話、あまり人に話したことない。今ちょっと話しちゃったんだけど…佳澄ちゃんにでさえちゃんと話してないのに。


「見ず知らずの人に話すのが怖いかもしれないけど、逆に見ず知らず人間関係だからこそ、色々話せるかもよ? 」


確かに……私と彼の関係は自分の周囲の人たちには話しづらい。


「そう、だね……私の好きな人は、私にとって恩人なんだ。彼は自分のエゴだって言っているけど、少なくとも私にはそう思えなかったよ。まあ、……彼方にも事情はあったわけだけど」


一気に話したものだから、彼女は戸惑っていたが、ちゃんと聞いてくれた。


「彼にも事情があるって聞いた時はどう思ったの? 」


……どう?私が、あの三条家と小野寺家の因縁を知った時?それとも、私が彼の妹に似ているから彼が助けたと知った時?


「さあ……でもちょっと安心した。私は何もしないで生きているだけなのに、彼は衣食住を保証してくれている。それに対して何か要求されることもなかったし、何考えてるのか正直わかんなかったから」


本当に、少しほっとしたんだ。私が彼に寄生してるわけじゃないってことがわかったから。彼もまた、私に何かを求めていたんだと。


「……あなたは、考えすぎ!十何年の人生で何があったかわからないけれど、もっと簡単に生きていいはずだもの! 」


怒られた。誰かに、自分の心の内に対して何かを言われたのは久しぶりだ。これは叱られた、の方が正しいのか。


………最近、無性に苛々すると思った。考えないといけないことが多すぎたんだ。色々悩んでも、みんなの前では明るい園田澪依華でないといけないと思ったから。私の偽物の顔とは違って、彼女は本当に喜怒哀楽がはっきりしている。今この一瞬をとても大切にしている。この投げやりな生き方を変えないと。誰かのためじゃなくて、自分が後悔しない生き方をしないと。


恋愛の話についてのはずだったのに、何故か彼女の言葉は、自分自身の在り方について言われているように感じた。


「あなたも、お兄ちゃんも、ちゃんと自分を大事にして!あなたたちは必ず誰かに必要とされているんだから! 」


「……ごめん、なさい。多分、すぐには無理だから、ちょっとずつ考えていくよ。…時間も時間だし、そろそろ帰ろうかな。あなたも帰った方がいいと思うよ」


ブランコから立ち上がる。長時間座っていたので腰が痛い。んーっ!と伸びをする。


「そうね、そうする。…ほんと、あなたたちって似たもの同士ね」


「……え?だれと、だれが?まさか、私とあなたのお兄さん? 」


彼女はブランコから立ち上がって周りの柵に乗り上がる。目線が上になる。


「うん、勿論!ね、私自分の机の一番下の引き出しの奥に手紙を入れてあるんだ。帰ったら読んで」


「ね、ねぇ……どういうこと?あなたは誰?名前、聞いてなかった」


パイプ状の柵を平均台のように歩いていく彼女に問いかける。


「まあまあ、変な人じゃないよ、安心して、ね?園田澪依華ちゃん」


私はさっきから全く名乗っていない。何故彼女は私の名前を………?


「お兄ちゃんをよろしく。あなたならきっとお兄ちゃんを救ってあげられる」


………………!めぐみさん!


だから見たことがあったような気がしたのか。確かに似ている。確かに、少し私に似ているかもしれない。


「あ……待ってめぐみさん…! 」






 ピピピ ピピピ ピピ ……………


目覚ましの音で目を開ける。時計は六時半を指している。


夢、だったのか……


暑い。真夏、お盆だ。エアコンをつけないと暑くて仕方がない。


夢、だったのかな…あ、机の引き出しの奥!


「………あった…! 」


『いつかこの手紙を見つけるあなたへ』


内容はいたって単純だった。


『お兄ちゃんを絶対幸せにしてください。そしてあなたも絶対に幸せになってください』


確かに、彼女と私は似ている。でも全く似てない。私は彼女のようには強くなれない。


でも、私は私と私の大切な人くらいは幸せにしてみせる。

眠れない時ってみなさんどうしてます?

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