選択肢
黒いブラウスに黒いリボンをかけて、黒いスカートをはいて………
広い式場に一人。目の前の棺の中を見つめてどれくらい経ったか。思ったより時間が過ぎてるかもしれないし、ほんの数分のことかもしれない。
これだけでいいと思った。何か言う必要も、何かする必要もない。
パパが死んだ日とママが死んだ日は一緒だ。十月二日。事故死ということになっている。私が私を語るには不自然ではない生い立ちが必要で、この後半分くらいは嘘の情報を作らなくてはならない。ママもパパの家に居候し始めた時は、親戚だと周囲に嘘をついていたらしい。
学校の友達や、先生にはママが事前に用意した都合のいい話をしてきた。
円滑な日常生活を送るためには、これらの嘘は必要不可欠だけど、嘘をついていく度、何かが削れていく気がした。
綺麗な顔にされているより、あの時のままの方が良かったのに。まあ、こういうものだから仕方がない。
葬式なんていったら普通は制服なのに、最後まで私を可愛く着飾らせたかったのか。
そんなの、私が知らない話。
ひと通りのことを全て自分一人でやって、白い陶器の入れ物に入った自分の母親を手に、三条家が用意した車に乗り込む。
涙を流すのは今じゃない
何を考えるでもなく外を眺める。考え出したらこの状態が壊れてしまいそうで、何も考えないことを考えていた。
屋敷に着いたので車から降り、側近に案内されて当主のいる部屋へ入る。
「そこに座れ。話がある。これから、お前がどうなるのか」
ソファーに座った当主がそう指したのは、向かいの席。
何も答えずに、向かいまで回る。当主と私を隔てているテーブルの上にお骨を置いた。
「流石に性格が悪いな。親譲りか? 」
「褒めてくれてありがとう」
褒め言葉だと思う。本人は皮肉のつもりだろうが。私があの二人と似ているのだったら良いところでも悪いところでも構わない。
「少しは愛想良くしたらどうなんだ?…本題だが、そもそもお前たちには借金がある。今まで住むところも仕事も与えてやっただろう。その金だ」
随分な言いがかりだが、要は逃げられないようにするための首輪みたいなものだろう。
「それはお前一人が到底返せる額じゃないだろう。そこでだ、お前には選択肢をやる」
「パパがやらされてた仕事みたいなのでしょ」
「ああ、そうだ。一つ目はお前が言った通り、父親と同じことをやるか。もう一つは、次期当主の妾になる。どちらを選ぶ? 」
二つの選択肢も選択肢にはならないような。しかも、私は人を殺してはいけないから、実質一つしか無い。………人を殺す苦しみか、親の仇から屈辱を受けるか。
「………そうだね、私に選択肢は後者しかないんだよ。…あ、次期当主ってあんたの息子でしょ? 」
「そうだが、お前に文句を言う権利なんてないぞ」
そう、それでいい。
ママが言っていた三条家に関する書類の中には、私がこれからやらないといけない復讐についても何か書いてあるかと期待したけれど、全くと言っていいほど書いていなかった。パパとママのことだから、そういうことも考えていそうだと思ったけれど。
「別に構わないよ。ああ、それと、私が愛想ないのは元からだから。だって、可愛い子はにこにこしてなくても可愛いでしょ? 」
部屋を出て、側近に案内されながら自室となる部屋へ向かう。
部屋は和室八畳のワンルームみたいな部屋だった。お風呂もトイレも台所もあった。明日、家から色々ものを持ってくると、今後一生この部屋に住むことになる。
部屋の中央に机があった。そこにお骨を置いて部屋を出る。周辺に何があるのか、調べておかないと。
ふらふら歩いていると、少し扉の開いている部屋があった。物置のようだ。部屋に入るな、なんて言われていないので、入ってみる。
骨董品の類いのようだった。一ついくらするのだろう、というものが壁一面、棚いっぱいに置いてあった。美術館のような感覚でぼうっと見ていた。
「誰も来ないと思ったからここにしたのに」
声のした方へ振り返る。誰もいないと思っていた。先客がいたらしい。
「あなた、誰? 」
思わず顔を顰めてしまう。
先客は、茶髪の整った顔の青年だった。前髪が長いのが見ていて鬱陶しい。青年は、私の疑問に驚いているようだった。何がおかしい?
「……知らないのか。お前、実験用のネズミだろう?うろうろして何されても知らないけどな」
「別に、部屋の外から出てはいけないとも、この部屋に入ってはいけないとも言われてない。ねぇ、私の質問に答えて」
「ほんとに知らないんだ…お前、当主の選択肢どっち選んだんだよ? 」
知らないといけないのかな。この屋敷はもう十年くらい来ているのに見たことないんだけど。
「選択肢……ああ、あれね、…私は人殺しはできないよ。ね、これでわかったでしょ? 」
すると、青年は意外とでもいうような顔をした。
「馬鹿だなぁ、人殺しを選べば仇を取れるんじゃないの?妾じゃ食いっ逸れることはないけど、年取ったら殺されるよ? 」
それは、少し考えたけれど、そもそも約束があるから自分の中で即却下だった。
「そう?その前に死ぬんでしょ。老いる前に殺されちゃうよ。それに、殺さなくったって復讐する方法はあるもの」
「へぇ?そんなものできるもんかね」
「できるよ。……ていうか、私の質問に答えてよ。さっきから自分の聞きたいことばっかり」
そう、私の質問に全く答えてもらっていない。代わりに私ばっかり話している。
「質問…?あー、ははっ。いや、どっち選んだか聞いてからにしようと思って。お前の主人になる三条家次期当主の三条諒太郎だ」
ああ、なるほど。それなら今までの質問に納得がいく。でも一つ納得がいかないのが、私が彼の妾にならないといけないこと。
2章終了となります。次回からは3章…と言いたいところですが、ちょっと小さいお話をいくつか挟もうかと…
入りきらなかった話…正直にいうと書いてた時に忘れていた話を書いていこうかなと!




