飴
「あ〜!疲れたぁ。今日は早く寝よ〜。」
ソファーに座って伸びをしながら何もなかったかのように言うので、少し苛立ってしまった。
「……何話してたの?あの時。」
「ん〜?内緒〜。ママが死んでからのお楽しみ〜!」
「は?なにそれ全然笑えないんだけど。」
「えぇ…そんなぁ。怒んないでよぉ。ま、今は聞かない方がいいと思うなぁ。」
自分だけが知らないことがもの凄く苛々する。でも、これは私のために言わないのかもしれない。
「なんで?私のことでしょ。」
「意外と、その時の方が頭が冷えててすとん、と落ちたりするよ。だから今じゃない方が絶対いい。異常な提案は正常な時に聞かない方がいい。」
「…課題終わってなかった。」
随分と苦しい逃げ方だが、今はこれしかない。課題が終わっていないのは本当だし。
自室に入り、ドアの鍵を閉める。入ってくることはないだろうが、入ってきてほしくないという意思表示のようなものだ。
姿見の目の前に立つ。今日の服は初めて着た服だった。襟や袖にフリルが付いている白いブラウスに、黒いプリーツの入ったジャンパースカートでブラウスの襟元には紅いリボンが結んである。
「あーあ、こんな可愛い服ならあんなところに着てかなきゃ良かった。」
その場でくるりと回ってみる。スカートがふわりとひろがる。
「やっぱり可愛い。この服も、この服を着こなせる私も。」
昔から、服を選ぶのはママだ。女の子らしいフリルが付いていたり、リボンやレースが付いている服を選ぶ。私は好きだからいいけれど、どうしてこんな服ばかり選ぶのか、と聞いたことがあった。その時、こう言われたのだった。
「ママの家はあんまりお金に余裕がなかったから、可愛いと思っても買ってって言えなかったんだよね。買ってって言った時は買ってくれるけど、ちょっと罪悪感みたいなのがあってさ。それに、可愛い服が似合う可愛い子なんだから着させないなんて損だよなって思って。」
テレビをよく観るわけでもないし、友達も多いわけではなかったから、殆どの基準が両親の基準だった。だから私のことを可愛いと言っているからそうなんだろう、くらいしにか思わないし、なんの疑問も持たない。
ふと、何も考えずにポケットに手を入れると、ガシャという音と、手に何かが当たる感触がした。それを掴んでポケットから出す。
「…あ、飴。」
頭に当てられた飴。いちご味かな。紅くて綺麗だな。……こんなのに毒入ってないよね。
ビッ パリパリ…
飴を口の中へ放り込む。
うん、美味しい。………何がしたかったんだろう。こんなこと、大人はしないだろう。あの家に子供がいる?これも私の知らないこと。
時計は午後三時を指している。夕方まで部屋から出たくないと思った。この気持ちが落ち着くまで。
四時間前
風があるようで、開いている窓からカーテンが風に合わせて外に出ていく。何かすることがあるわけではなく、家の人間の多くは今日くる実験体のために出払ってしまっている。しかし、自分は外に出る気もなく、暇を持て余しており、自室の床に寝転がっていた。元当主である隠居は実験体の相手をしているようだが、その他はそれと同じ空間になぞいたくない、と外出してしまったようだ。ただし、当主夫人は別だ。なにを考えているか一番わからない。
「何がそんなに面白い。たかがネズミの一匹放っておけばいいものを。」
すると、その時窓の外から声がした。男と…少女のような声。起き上がって窓の外を見る。男の声は隠居の側近のようで、彼らが周りで囲んでいる中心に……一人の少女がいた。
自分よりいくらか年下に見える彼女は、男達に怯えることなく寧ろ毅然とした態度だった。こちらの視線に気がついたようで振り向いてきた。
思わず、窓から離れる。ふと、近くにあった机に友人がよこしてきた飴を見つけた。いらないと言ったのに。
それを掴んで再び窓へ近づく。彼女の視線はもうこちらにはなく、庭をゆっくり全体的に眺めているようだった。それを見て、窓から手に持っていた飴を彼女の後頭部に向かって投げる。狙い通り当たったそれを確認してから窓から離れ、その後の男達と彼女の会話を聞いて楽しんでいた。
書いておきたかった要素を書けたのはいいけれど、今後の見通しのつかない話になってしまいました…
ちょっと敵?サイドの諸事情が見えてきた感じもしますが、今の時点ではあまり関係ないかもしれませんね…




