子猫
その日は、沙那が珍しく学校を休んだので、一人で帰った日だった。同じマンションの人たちに会いたくなくて、公園の方へ回って遠回りしたのだった。
公園は、老朽化が進んで危ないから、と人があまりいなかった。パパとママはここで出会ったのだとよく思い出話を聞く。公園の中に入ってみる。下校中に寄り道なんて本当はだめだけど。ブランコに乗り、少しだけ足で蹴ってみる。 キィ…キィ…と音を鳴らして揺れる。ぼーっと上を見上げる。
雲がところどころある空でとても快晴とは言えないが、いい天気だった。
みぃ…みぃ…
…? 後ろを振り返ると、乗った時には気が付かなかったが、植え込みの影に小さな白い毛玉が見えた。…子猫か?
近くに寄ってしゃがみ込む。
「どうしたの ? お母さんは ? 」
「みぃ…」
鳴くだけである。
「言葉なんて通じるわけないか。仲間はいないのかな。こんなんじゃカラスに食べられちゃう。」
周りにあった木の枝をかき集めて、他の人や動物の目から届かないように隠す。
「うーん、ご飯なんてあげられるもの…あ、まって。」
ランドセルの中から小さな袋を取り出す。味付き煮干
し。給食で食べられなかったので本当はいけないけど持って帰ってきた。
「猫にあげていいのかな。ほんとはダメだろうけど死んじゃうよりかは。」
びりっ
「これお皿にしよ。…はい、どうぞ。」
その辺から持ってきた大きな葉っぱに乗せてあげる。食べるんだろうか。
「 ! 食べた…! 」
しばらく子猫が食べるのをみていると、少し辺りが暗くなってきた。
「まずい、帰らなきゃ。またね。」
立ち上がって帰ろうとすると、みぃ…と鳴かれてしまった。ちょっと帰りづらい。
「うーん、帰らなきゃ。ごめんね、明日も来るから。」
「ただいま。」
「おかえり〜! 遅かったね。」
「あのね…」
今日の子猫の話をひと通りすると、ママも流石に難しい、と言った。
「このマンションペット禁止だからねぇ。ま、無視して飼ってる人もいるけど、流石に猫は鳴くからなぁ。バレたらやばいし、かといって家変えられないし。…変えたいのはやまやまだけど。」
なるほど。マンションに住んでる人でこの前ハムスターの話をしている人がいたが、あの人は決まりを守ってないらしい。
「やっぱりだめか。…その子しんじゃうのかな。」
「さぁね。カラスにでも食われちゃうんじゃないかな ? 」
「そっか…。」
それが普通。むしろ、人の手を加えない方がいいのかもしれない…。
「まぁ、こんなのは人のエゴだけれども、一度見てしまったものだし、諦めきれないんでしょ? 毎日見に行ってあげるだけでも違うかもしれないよ。」
それから、2週間毎日その子猫を見に行った。沙那も巻き込んで。給食の残りを内緒で持ち帰ってあげたり、小遣いを使って餌を買ってきてあげたりもした。
ある日曜日、子猫を見に公園へ行こうとすると、パパが同じ方向に行くから一緒に行こうと言った。
誰もいない公園に入って例の植え込みを覗くと、いつも通りこちらを覗き込むように見てきて、安心する。その様子をパパは嬉しそうに見ていた。
「痩せっぽちであんまり綺麗じゃないけどかわいいでしょ? 」
「うん、猫を可愛いって言ってる恵都ちゃんが可愛い。」
あ、これはいつものだ。パパはたぶん私のことしか見えてない。
「うーん、ちょっと違う。」
「そう ? あ、でも触らないように気をつけてね。何持ってるかわかんないからね。」
明日また見に来るね、と言って公園を出る。その後、パパの買い物につきあってお菓子を買ってもらった。
次の日、その日も沙那は休みだと言ったので、一人で朝その公園を通ると、カラスが何羽も集まっていて、一ヶ所に固まっていた。
なんだか嫌な予感がして、そこへ近づいてみると、それに気がついたカラスたちが一斉に散った。
その、カラスたちが集まっていた場所に、何やら物体のようなものが見えた。
白い毛のようなものが見え、そのあたりには赤…血と砂が混じって黒くなったものが
それは、昨日まで確かにそこにいた子猫の変わり果てた姿だった。
皆さんは野良猫を見かけても絶対に触らないようにしてくださいね!餌もほんとは与えちゃダメ!
でもたまに公園に野良猫に餌やるおばさんいますよね…ちょっと怖い…




