合縁奇縁
点々と続く街灯の明かりを頼りにして歩く。街灯には小さな虫たちが明かりの周りを飛び回っている。手は洗っていても、鉄が錆びたような臭いがこびりついている。手を洗った時には取れなかった、爪の中に入り込んでいる赤が、つい1時間前のことを嫌でも思い出させる。今まで何のためにこの役目を続けていたのか。言われるがままに命令されたことをやり続けて、存在しない方がいいのではないかと思いながら、生きていた。頭の片隅に残っていた復讐心が、自分の中の「死ぬ」という選択肢を拒んでいた。
暫く歩くと、公園が見えてきた。あの時と同じベンチに座る。そこから見える、少し錆びついた滑り台や、チェーンが錆だらけで茶色くなったブランコ、子供たちが遊んだまま山が残っている砂場を眺めていた。
彼女がその時、その目に写していたのは、俺ではなく、俺の所業だった。誰でもよかったわけじゃない。彼女だったからそれを認めたし、共同生活をする、という提案をした。妹に似ていたということもあったが、同じものを感じたからでもあった。そして、彼女自身は気づいていないであろう、危うさに惹かれたのもある。自分を犠牲にしてまでも相手を大切にする。自己犠牲愛で成る彼女の周囲は、自分には守れなかったものや、成し遂げられなかったものを簡単そうに成し遂げる。それが恐ろしく輝いて見えた。恐らく、それをそう見られるのは、自分だけだと思ったし、それを壊さずに守りたいと思った。自分なら、彼女の危うさを受け止められるのではないか、と自惚れもした。だから、あの時、あの提案をした。
コツン、コツン、コツン、コツン…
ザッザッザリッ
足音が後ろで止まった。バッと振り返って後ろを見る。
「…やだなぁ、そんな警戒しないでよぉ。ちょっと傷つくなぁ。」
「なんだ、澪依華か…ていうか、高校生が外出歩いていい時間じゃないんですけど。」
アスファルトを蹴る音が響いたのは、あの時と同じくローファーで歩いていたせいだと気づいた。
「なんだとは酷いなぁ、あの時みたいに、眠れなかっただけだってば。それに、あの時みたいに帰る家がないわけでもないし。秀も?あの時と同じ?」
澪依華は、寝衣にしている半袖のTシャツと半ズボンの上に、リビングに置きっぱなしにしてしまっていた俺の薄めの上着を羽織っていた。上着は彼女には少し大きく、裾は半ズボンが隠れるくらい、袖は手が隠れてしまうくらいになっていた。そもそも、Tシャツが少し大きめで小さめのワンピースみたいになっているのに、結構際どい服装をしている。本人はまるで気づいてないんだろうけど。
「まあ、そんなところかな。こんな夜に随分と無防備な格好できたね?襲われても文句は言えないと思った方がいいよ。…家から近いとはいえ、女子高校生がそんなふらふら歩いていいような服装でも、時間でもないよ。」
彼女は、不満そうな顔で見てくる。
「なーんでお説教なのー?秀だってそうじゃないのー?こんなとこにいるより、家にまっすぐ帰った方がリスクは低いはずなのに。また、他人に人殺しだってばれたいの?……なんか、他の人にばれるの、嫌だな…。」
言葉に詰まってしまった。全くその通りだから。最後に小声で何か言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。
「最後なんか言った?ごめん、聞こえなかった。もう一回…」
「やだ。」
「え、まだ言い終わってないけど。」
ふいっと後ろを向いてしまい、公園を出て行こうとする。
「帰ろ。眠くなってきちゃった。」
「はいはい、わかったよ。勝手だなぁ。」
そこで、ふと、思う。
「ねぇ、」
澪依華が足を止めて振り返る。
「なに?」
「あ、いや、なんでも。」
「なにそれ?余計気になる。なに?」
「……幸せってなんだと思う?」
彼女は、目を丸くして驚いたような顔をして、一瞬考えた後、ふっ、と微笑んだ。
「それは 、 ———。」
前期終
一区切りつきました…!
地味に色々細かいところをすっ飛ばしたような感じですが、この話の小話みたいなのは、次の区間でたまにちょっとずつ挟んでいこうかと…(読者混乱)
ちょっとどころか、かなり長い話になるかもですが、お付き合いいただければ幸いです!
皆さんが読みやすい文章を書けるように頑張ります。
いつも読んでいただきありがとうございます!
これからも読んでいただけますように!
2022年7月31日編集
編集も終了!
次のお話も1話できたので、そろそろ更新しますね〜!




