利害関係
「で?澪依華は、それでどうしたいの?」
ひと通り話し終えた後、秀のほうから口をひらいた。三条家の血を引いてても、認知されてないのであれば、私の利用価値はない。でも、私にも大いに関係ある以上、何もしないわけにはいかない。
「…秀は、例えば、仇討ちみたいな、何か仕返したいと思ったことはある?」
「ないわけではないけど。何も俺でなくてはならないとは思ってない。でも、近い代でこの連鎖は終わらせたい。…それが?」
何もしないなら話は別だが、そうでなくて安心した。
「…手伝うよ、それ。だって私は現に、彼らを苦しめたくてしょうがないもの。動機は違っても、目的は同じだから、利害は一致すると思わない?」
はぁ…と溜息をつかれてしまった。呆れられたな。何ができる?ただのお荷物になるだけかもしれないな。
「…三条 宗太郎ってのは、この前会った三条家当主。それを目標にするなら結構時間がない。けど、あれに限らないのであれば、父さんの業は三代。それは俺の子供の代まで。そこまでに手を打ちたい。」
できることなら、現当主を目標にしたいが、それを成せる術が私たちにはない。それに、今回のことで、目をつけられているはずだから。
「なるほど。何か手があるの?」
「ちょっと待ってて。」
秀は立ち上がって自室へ入って行った。今何時だ?眠い…。時計を見ると、2時56分差していた。もうすぐ3時か。いつもは1時から1時30分くらいには寝るし、テスト期間でも2時までには寝るので、この時間には眠いはずなのだが。いろいろ話を聞いて、自分も結構喋っていたせいか、あくびの一つも出なかったが、喋り切ってほっとしたのか、急に眠気が襲ってきた。まだ、話を聞かないといけないから、寝ちゃいけないのに…でも、今日は…つかれた…な…
「あ…。まあ、そりゃそうか。疲れるよな、これは。」
時計を見ると3時をまわっていた。明日が休日でよかった。それも計算の内か、と考えると腹が立つが。ソファーで寝ている澪依華に毛布をかけてやってから、自分もそろそろ寝ようと部屋へ戻る。
それぞれ、お互いの見ないようにしていた記憶を知って、共通の目的を持つことになった。高校生のうちから、変えようのない将来を決めてしまってよかったのだろうか。確かに利害は一致する。でも、それをしない未来もないわけではない。事の重大さに今更のように後悔しているが、こうなってしまってはどうしようもない。今後のことはおいおい考えればいい。
溜め込んでいたものを全て吐き出した感じがする。
「疲れた…。」
久しぶりに何も考えずに眠りにつけた。
「ん…。」
カーテンの隙間から漏れた日の光のせいで目が覚めた。時計を見ると、8時24分。5時間も寝たらしい。というか、ソファーで寝ていたのか。しかも制服のまま。ソファーで膝を抱えながら座っていたら、眠気に襲われて、ぱたんと倒れて寝てしまったという具合だろう。恐らく、毛布は秀がかけてくれた。カーテンが開いていないことを見るに、秀も起きていないと思われる。ソファーで寝るのはもうやめよう。首やら背中やら痛いったらない。
「ふわぁあ。起きるか…。朝ごはん何にしよ。何があったかなー。」
考えてみれば昨日の夕食はパウンドケーキだけだった。時間が経ちすぎたせいと、色々ありすぎたせいで、2人とも食欲がなかった。
毛布を畳んで、ソファーから下りる。洗面台へ行って、顔を洗うと、鏡に自分の顔が映る。昨日、後頭部を鈍器で殴られた為、血が出ていたので、包帯を巻いた。嘘みたいなことが起こったものだ。私が、周りに気をつけていればこんなことにはならなかったのでは、と思うが、今そんなことを思っても無駄だ。部屋へ戻って、クローゼットを開け、中を見渡す。
「あ、これにしよ。」
白いブラウスに、キャラメル色のサスペンダースカート。この間、バイトの帰りに寄ったお店で一目惚れして買ったものだ。今までなら、値段を見て、ちょっと渋るところだが、生活費の負担が減ったお陰で、バイト代を半分くらい自由に使えるようになった。バイトのシフトの数は減らしたが、行っているバイトの数は減らしてないので、財産は割とある。有難い限りだ。
再びリビングに戻り、キッチンへ向かう。冷蔵庫の中を見ると、ガラガラだった。今日は買い物へ行かなくては。チーズと、ハムと、卵。野菜室にレタス、きゅうり、冷凍庫には、パンが4枚。…サンドイッチ作ろ。
材料を取り出して、卵を鍋に入れて茹で、パンをトースターに入れ、ハムもフライパンで少し焼く。きゅうりは輪切りにする。切っていると、ふと、昨日のことを思い出した。
あの時、三条は秀に、私を殺すか、自分の妻にするか、の2択で秀を苦しめようとした。…つまり、今私が生きている、ということは、だ。
……えっ、と。うーん、あー、え?え、要は、私は…けっこんする、ということだよね?秀と。まあ、今すぐとはいかないだろうけど。えー、え?あーまって。昨日色々ありすぎて忘れてたけど、これは、結構重要案件ではないですか?というか、秀の方は大丈夫なの?こんな8歳も離れた女でいいの?良くないよね?しかも妹より年下とか、えーー。あの容姿じゃあ、モテそうなのに凄く勿体無いことをしてるような、悪いことをしたなぁ、彼女とかやっぱいないのかなぁ。ほんとは好きな人がいるとかないのかなぁ。後で聞いてみてもいいけど、なんだか気を遣わせそうだしなぁ。
そんなことを考えて混乱しながら切っていると、珍しく指を切ってしまった。
「うわぁ、痛。何年振りかな、指切るの。」
絆創膏はどこにあったかな、確か、洗面台の棚の中にあった気が…。
「…おはよ。どうしたの?」
「あ、おはよ。…あー、いや指切っちゃって。絆創膏探してたんだ。」
というか、この人のせいで考え事して指を切ったから、あんま喋りたくない。また違う怪我をしそうだ。
「大丈夫?そこの、二番目の棚に入ってるよ。てかもう9時か。久しぶりにめっちゃ寝た。着替えてくるね。」
「うん、ありがと。」
さっさと絆創膏を貼り、キッチンへ戻る。パンは焼けていて、卵もいい感じに半熟になっていた。ゆで卵を切って、パンにケチャップをかけて、もう片方のパンにレタスをちぎって、ハムと、きゅうりと、卵とチーズをのせて、重ねたら、包丁で斜めに切る。
「お、いい感じでは?」
サンドイッチをお皿にのせて、コーヒーを淹れて、テーブルに並べる。
「あ、凄くタイミングいいね。朝ご飯できたよ〜。」
ちょうど、秀が戻ってきたところだった。
「よくあんなすっからかんの冷蔵庫の中身でこんなの作れるね。しかも普通に美味しそう。」
「でしょ〜!食べよ食べよ、お腹すいた!」
サンドイッチは好きです…美味しいですよね
飯テロっぽいのが書けたでしょうか… ?
恋愛小説みたいな主人公の動揺してるのは、書いていてちょっとだけ恥ずかしかったです…
2022年7月31日編集
こんな主人公にしていますが、みあ自身は全くと言っていいほど料理はできません…