エルゲト家
とある作品と作品名が被っていたので、少々作品名をいじりました。ご了承ください。
チュンチュンチュンチュン……チチチチ……チチチチ……
「うーん……うあ、眩しっ……」
目が覚めると、青野成哉は広大な草原の端にいた。
「朝……そうだ、昨日、憂鬱な現実から異世界転生して、勇者になり損ねて、城から出されて……野宿を選ばざるを得なくなったんだよな」
昨日起きた出来事を一通り反芻する。
と同時に、自分の置かれた状況のマズさをもう一度確認する。
「なんとか一日乗り切ったか……でも、今日からまたどうしよう。ツテもないし……あ」
昨日の出来事を振り返るうちに、ある人物と交わした約束を思い出す。
と同時に、成哉の頭にある考えが浮かんだ。
「ハク・エルゲト……そうだ、あの人と今日会う約束してたんだっけ。もしかしたら、ハクに頼んで家に入れてもらえるかもしれない……家事を手伝って、仕事が見つかるまで飯貰って泊めてもらうとか」
昨日会ったばかりの人間の家に転がり込む。
極めつけには、実家暮らしの男の家事と引き換えにタダ飯を頂こうとする。
かなり非現実的だが、もはやこれしか選択肢はないように思えた。
「迷惑かけそうだけど、頼むしかないよな……こっちの世界で死ぬのはまだ早すぎる」
ハクに一縷の望みを見出すことにした成哉は、ハクと出会った約束の場所に向かうことにした。
※
「お、来たね。セイヤ、昨日ぶりだ。何か頼むかい?」
約束の場所に着くと、ハクは二人で立ち話をした道の右にある、カフェのような店のテラス席に座っていた。
「あー、いいよ金無いし……」
一文無しの成哉に、何か頼む資格はない。
「改めて、今日は時間取ってくれてありがとうハク」
「構わないよ。今日は休日だ。エルゲト家のこともネネに任せてあるしね」
「良かった。じゃあガッツいて悪いけど、早速質問させてもらう」
生きることに必死な青野成哉は、早速この世界について色々と問おうとした。
その時――
「おいっ!! 待てお前えぇぇっ!! 誰か、食い逃げだ!!」
突然、向かいの店から大声がする。
と同時に、小汚い悪党という言葉が似合う、ほっそりした男が走って店を出た。
「ヘヘヘ……こんなまずい飯に金払えるか!! ばいびー」
どうやら食い逃げが起こったらしい。
食い逃げ男を店の店主が追いかけていく。
「食い逃げ? 怖え……なぁハク……ハク?」
目の前にいたはずのハクの姿が無い。
まさか、と思ったが、予感は的中した。
「君。大人しく罪を認めたまえ。まだ間に合う」
食い逃げ犯の前に、ハクは立ちはだかっていた。
「あ? 誰だお前……どけや!!」
「人に名前を聞く前に、自分から名乗ったらどうだい」
「うるせぇ!! どかねぇと刺すぞ!!」
周りに悲鳴が立ち込める。
ナイフを取り出したみたいだ。
「……どうやら剣を振るしかないみたいだね」
「あ? 剣? ……は、おい……嘘だろ……お前まさか」
食い逃げ犯はハクの顔を見るなり青ざめていった。
「お前……エルゲト家の末っ子の」
「そうだ。ハクだ。ハク・エルゲトだ」
「まさか? エルゲト家? エルゲトってそんなに有名な家柄なのか?」
食い逃げ犯の動揺の仕方から、どうやら名の知れた家柄らしい。
「エルゲト家がどうした!! そこどけやあああぁぁっ!!!」
ダダダダダッ――――!!
半狂乱になった食い逃げ犯が、ハクに向かって走る。
「エルゲトッ!!!」
渾身の力で叫ぶ青野成哉。
それに対し、ハクは冷静に返答する。
「大丈夫。成哉、僕は割と強いほうなんだ」
ジャキッ――
鞘から、鋭い銀色の大剣を抜く。
「剣よ。我に悪を滅する力を!!」
――ゴオオオオッ!!!
エルゲトの剣が七色に包まれる。
「クレアシオン!!」
――ドゴオオオオオオッ!!!!
ハクが剣を大振りすると、爆風が食い逃げ犯を襲った。
「ぐああああっ!! ちくしょおおおっ!!」
ガラガラガラ、と音を立てて店のフェンスにぶつかり、食い逃げ犯は動かなくなった。
「……おい、ハク……死んだんじゃ」
「死んでないよ成哉。眠らせただけだ。ふふ、もう剣士になって長いんだから、そんなヘマはしないさ。店主さん、これで安心してお題を払っていただけますね」
食い逃げされた店主と青野成哉に、ふわりと微笑むハク・エルゲト。
先程の超人的なパワーとのギャップに、成哉はただただ戦慄していた。




