青野成哉という人間
青野成哉、享年20歳。
身長が177センチと高く、そこそこ体つきもいい。
しかし、当の本人は劣等感に塗れている。
大学受験に失敗した頃から自己の能力に対する懐疑が強くなった。
浪人して入った大学では一念発起し、無理してキャラを変えて見えを張りまくり、案の定浮いてしまった。
自業自得というわけだ。
そして憂鬱な大学からの帰宅途中、車にはねられ死亡した。
「いてて……何だよ、あいつらは勇者でも転生しようとしたのか? で、失敗したから用済み……城から出されたわけか」
車にはねられ死亡、で青野成哉の物語は終了したと思われた。
しかし、青野成哉は異世界転生したのだ。
最強の剣士として、ではなく失敗作として。
「いやいやいや、待て待て待て。これからどうしろと? カバン……はあるけど、財布と、スマホ、ミンティア、メガネ、メイドカフェの定員さんとのツーショットチェキ……うん、詰んでる」
財布、は日本円だから使えない。
スマホも圏外。
チェキ、は捨てたい。
メガネ、ミンティアは使えそうだ。
「とにかく、この世界のことを知らないと……誰かに聞いてみるか」
追い出された城から少し街道を歩いて辺りを見渡すと、まさにザ・異世界という感じの街並みが広がっていた。
鳥が馬車の役割を果たしていたり、剣士や魔法使いみたいな格好の奴が居たり。
「あの、すいません……あなたは剣士ですよね?」
道を過ぎゆく青髪マッシュスタイルのイケメン剣士に、青野成哉は怯えながら尋ねた。
「ん? うん、そうだよ。どうしたんだい」
「あの、俺は異世界からここへ来たんですけど……俺って最強の剣士なんですかね?」
「……うん?」
「なんか最強の剣士として転生したとか言われたんすけど……あそこの城で」
後ろに聳え立つ城を指さした。
「ハハッ。面白い冗談だね。そういや近々深淵の開拓のために、勇者転生を実行するとか聞いたっけ。それのことかい」
「うーん? よくわかりませんが、勇者転生の勇者が俺です」
「ふふふ。君は面白いなぁ。じゃあ剣はどうしたんだい。それに、少し失礼」
イケメン剣士は、俺の手を握ってきた。
「Lvが1じゃないか。もう少し鍛えていたら信用したかもなぁ。君、面白いな。俺の名はハク・エルゲト。君は?」
「青野成哉です」
「アオノ……セイヤ? ふーん、珍しいな……まぁいい。青野成哉という人間に出会えて俺は嬉しいよ。じゃあ、またどこかで」
「あっ、ちょっと色々教えてほしいんですが……」
「色々……長くなりそうだね。じゃあ、明日この時間、ここに集合しよう。今日は急ぎの用事があるからね」
そういうとハクは成哉に背を向け去っていった。
現実世界と比べ、約束の仕方が大分フランクだ。
「明日……うーん、……いやいや。俺明日まで生き延びれるのか?」
食べ物も泊まる場所も無いという事実を確認した成哉は、ただ見慣れない街並みにポツンと佇むのだった。