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閃光蜂2

 さて、日も上がったところで調理開始です。

 と、行きたいところですが。


「こっち見るな!畜生っ、死して尚俺の行手を阻むかこの害虫!」


 先程から一人劇場を繰り広げる博士。

 やはり、トラウマというものはそう簡単に克服できるようなものではないのかもしれません。

 そう半ば現実逃避を決め込み、一人騒がしい博士を他所に調理をすることにしました。

 今回で二回目となる閃光蜂の調理。

 前回は素揚げにし、素材の味を確かめました。

 巣からはぐれたのであろう一匹のみだったため、それだけで終わってしまいました。

 ですが、今回は巣を直接入手できたので量には困りません。

 これは研究が捗りそうです。


「まずは天ぷらにしてみましょうか」


 冷凍保存しておいた怪鳥の卵を割り、容器に入れる。

 それから天然の水を容器の半分程度まで入れ、混ぜていきます。

 そう言えば、博士の世界で卵は手の平に乗るくらい小さいらしいのですが、本当なのでしょうか?

 もし本当なら、細かい調整などもそうですが、少食な人でも無理なく食べられる量になりそうです。

 そんなことをぼんやりと考えている間にも混ぜていく。

 やがて水と卵が完全に混ざり切ったところで小麦粉を入れます。

 博士曰く、ここで小麦粉を一度篩にかけると良いそうです。

 そうすることで空気が粉と粉の間に入り、衣が軽くなるのだとか。

 わたし個人としてはそんなこと、になるのですが、博士にもこだわりがあるようで。

 しかし生憎と私には筋肉というものがまるでありません。

 篩にかける作業なんてやった次の日は確実に筋肉痛に襲われます。

 なので風の魔術で篩を代用します。

 小麦粉がバラバラにならないように球体状に風で包み込むと、その内側に極小の竜巻を発生させます。

 あとはそこに小さな穴を開ければふんわりとした小麦粉が無事に一点に落ちてくるわけです。

 わたしは魔力に関しては困ったことはないので、こっちの方が断然楽で効率が良いです。

 才能の無駄遣いではないかとは時々思ったりもしますが、楽ができるのであれば楽することに越したことはありません。

 さて、上手に篩にかけられた後は簡単です。

 あまり混ぜ過ぎないように混ぜるだけ。

 一応これで準備は完了です。

 博士曰く、もっと材料やら手順やらあるみたいですが、この世界ではこれが限界とのこと。

 わたし個人の意見としては、もう十分なのではと思ったりするのですが、博士はまだまだこの上があるそうなのです。

 それはそれで一度食べたい気もしますが、無理なものは無理と諦める他ありません。

 実に残念です。

 ですが、これはこれで実験としては正解です。

 なぜなら、普及しているもので材料を調達できているから。

 多くの人にやってもらうためにはまず手軽さが必要です。

 お財布もあまり痛みませんし。

 万人に受け入れられるためには、まず誰でもできる、ということを念頭に結果を出すことが重要です。

 さて、思考が徐々にズレてきているので天ぷらの話に戻しましょう。

 とは言っても後は単純です。

 閃光蜂を先程作った天ぷら粉で覆い、油に入れるだけです。

 ジュウッという音がすると同時に油が跳ねますが、入れた瞬間に結界を大鍋全体に張ったので飛んできません。

 まあ、これは一般的ではないので距離をとるなり蓋をするなりした方がいいでしょう。

 決して、蓋をするのが面倒だとかそういう理由ではありませんよ?

 そうして後は待つだけとなり、上がるタイミングを逃さないようにと目を光らせていると、


「お前のその目にはどう映っているんだ?もしかしなくても、俺を呪い殺そうとしてないか?」


 また博士が一人劇場を繰り広げている声が聞こえました。

 よくまあ、そこまで続けられるものだと感心してしまいますが、完成した後、落ち着いてくれているかと言われると不安です。

 そして、食べてくれるかどうかも不安です。

 そうしてしばらく博士の奇行を見ながら暇を潰していると、丁度よく仕上がったので上げます。

 お皿に盛り付け、塩をまぶして完成です。

 見た目は相変わらず食欲をそそりませんが、素材の味は悪くなかったので比較的安心して食べられそうです。

 ちらっと博士の方を見ると、やはり相も変わらずと言った様子なので、お先に頂くことにします。


「うっ、やっぱり勇気がいりますね」


 衣が付いているのである程度隠されていますが、それでもちらほらと見える虫感が口に入れるのを躊躇させます。


「でも、食べないと」


 こういう時は勢いが大事だと博士は言います。

 確かにそうだと、今の博士を見て心底思います。

 なので、心を無にかぶりついた。

 パリッと虫特有の甲殻を噛み砕く歯応えがし、後に柔らかい何かが口の中に広がります。

 あまり想像するのはよろしくないのですが、それでも脳裏を過ぎる度に吐き気がします。

 よくもまあ、博士はこんなものを躊躇いもなく美味しそうに食べられるのかと疑問に思いますが、それでも味を記録しなくてはいけません。

 ゆっくりと、しかし流し込むように一口を食べ終えます。

 そして、


「美味しい」


 そう、呟いていました。

 素揚げの時にも思いましたが、あっさりとした塩味の後に感じる甘味が絶妙で病みつきになりそうです。

 天ぷらにしたことで更に甘味が増し、身も柔らかくなりました。

 これなら老若男女誰もが楽しめるはずです。

 ですが、これはあくまでわたしの主観的意見に過ぎません。

 まだ人生長いこと生きていませんが、それでもいろんなものを食してきたので味覚には自信がありますが、やはり博士にも食べてもらい意見を聞きたいところです。

 その前にまず、あの一人劇場を辞めてもらわなければ。


「駄目だ、もう見ないでくれ。頼む、頼むからっ」


 何やらうずくまって怯えている様子の博士。

 滅多に見れない弱々しいその姿に思わず動揺してしまいます。

 人類の頂点、食物連鎖の王者とも言えるであろう博士があろうことか蜂に怯えているのだ。

 これが動揺しない方がおかしい。

 どうしよう、どうしたら正解なの!?

 あわあわと狼狽えるだけのわたしと、ぶつぶつと呪詛のようなものを囁く博士。

 半日の時をかけようやく通常運行し出したところで蜂を食べてもらったところ、大変お気に召したとのことで、トラウマ解消に至りました。

 なんでも怯える、ではなく食料として欲しくなったのだとか。

 わたしも甘いものが手に入るので、もしも巣が見つかった場合には全力で確保に向かいたいですね。


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