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幻の魔物

「さあ、終わったぞ!幻の魔物とやらを見せい!」


「そんなに慌てなくても逃げたりしないわよ」


「だったら早く!」


「わかった、わかったのよ。だからその滑稽な動きをやめるかしら」


「了解しました」


「はあ、本当に疲れるわね……」


「では早く行きましょう、師匠」


「……我が弟子よ、事を急いても碌なことはないのかしら」


「はい。ですが、やはり気になるのですよ。幻というからには、いったいどのような魔物なのか、またそれが生み出す調味料というものが」


「まあ、すぐに着くわよ。精霊の結界で守られているから、転移出来ないのが難点かしらね」


 精霊に守られている魔物、それだけ貴重な存在ということでしょうか。

 いったいどのような魔物なのでしょうね。

 少し、いえ、かなりわくわくしています。


「着いたわよ。ここが、幻の魔物を保護している場所よ!」


「これは凄いですね」


 今まで何もなかったはずの場所に、浮かび上がるようにして現れた結界。

 解錠者の魔力に反応して現れるという仕組みでしょうか。

 これなら誰の目に止まることもありませんので、結界を突破されるということは皆無ということですか。

 一体どのような仕組みなのか気にはなりますが、果たして教えてくれるでしょうか?

 後で師匠に交渉してみましょう。


「おおっ!それで例の魔物はどこだ!?」


「ちょっとは落ち着きなさいよ!今から結界を解除するから!」


 そう言って師匠は目を閉じ集中し始めます。

 すると魔力が細い糸となり、結界に複雑な紋様を描いていきます。

 そして描き下ろされた紋様が一際強い光を放つと、結界が細かい粒子となって消えていきました。

 恐らく、先ほどの紋様は鍵の役割を果たしていたのでしょうね。

 おおよそわたしの魔力半分といったところですか。

 普通の魔術師では糸を作ることすら難しいでしょうが、上級魔術師なら糸ぐらいは作れるのではないでしょうか。

 とは言え、糸を作れてもそれを自在に操ることの方が魔力を消費するので、作れるだけでは解錠には至りません。

 なので、間違いなく人の手では突破できない結界になっていますね。


「そして、あそこにいるのが御目当ての魔物よ!」


「え?どこですか?」


 結界が解かれた先、そこは木々が立ち並ぶ森の中とは違い、ちょっとした草原と大量の干草の山が配置された、まるで牧場を収縮したかのような場所でした。


「すんすん、なんか懐かしい匂いがするなあ。いや、気のせいだよなあ。すんすん、いや、しかし調味料だったよな?すんすん、ということは?すんすん、あるのか!?」


「興奮しているところ悪いのだけど、ここの魔物は酷く繊細なのよ。だから触るのは禁止、わかった?」


「わかったわかった!」


「絶対わかってない!」


 博士がこれ程までに熱くなる調味料、ということは作ることを断念したというあの?


「いたああああああ!」


「大きな声も禁止よ!!びっくりして死んじゃうかもしれないじゃない!」


 そこは師匠も師匠で大概だとは思いますが、それを指摘するというのはちょっと意地悪ですね。

 とは言え、博士の嗅覚のおかげですんなり見つけることが出来たようです。

 いったいどのような魔物なのか気になるところではありますが、この狭い牧場の中ですからね。

 そう大きな魔物ではないでしょうが……。


「ほうほう、これが……え?」


 珍しく博士も固まっています。

 それもそのはず、そこにいた魔物は珍しいという言葉とは縁遠い魔物だったからです。


「これは…… 回帰天蚕の幼虫?」


 比較的見かけるのが多い魔物ですが、基本的には成虫の状態でがほとんど。

 幼虫と蛹の状態で発見するのは稀で、幼虫時代は必要な栄養を土や草から摂取すると共にそれに含まれる魔力も同時に取り込んでいきます。

 そして滅びの森特有ではありますが、他の地と比べ魔力濃度が非常に高いこともあり、僅か数時間で蛹へとその姿を変えていきます。

 そして蛹になるとよっぽどのことがない限り見つけることは不可能になります。

 木々の高所に繭を形成すると、それに溶け込むように繭の色を変え擬態するのです。

 なのでいくら数が多いとは言え、わたしも数えるくらいしか幼虫や蛹を見たことはないのです。

 そういう意味では珍しいのかもしれませんが、特別会えない魔物ではないというのもまた事実。

 というわけで、いったい何がどう幻なのか説明をしてもらいましょうか。


「我が弟子よ、その顔は説明を求めているように見えるかしら。でもちょっと怖いからやめるのよ」


「ありがとうございます」


「それは説明をしてくれることへのお礼と思ってもいいのかしら」


「当たり前じゃないですか師匠。いったいそれ以外の何があるのですか?」


「あ、ごめんなのよ。だからそんなに怒らないで?本当に怖いのよ、うん」


「すみません、悪ふざけが過ぎましたね。それではお願いします」


「わ、わかったのよ。さっ!そこの博士も聞きなさいって何してるのよ!!」


 見ると、博士は幼虫の全身を隈無くお触りしているところでした。

 そして触られている幼虫はというとくすぐったそうに暴れ回る始末。

 一応は幻の魔物なので丁寧にと言いたいところですが、代わりに師匠が博士と幼虫とを分断する壁を作ったことで強制終了させてくれました。

 そのおかげか、一度冷静になることが出来たのでしょう。

 肩を落としながらもこちらに耳を貸してくれることとなりました。


「それじゃあ何故この幼虫が幻と言われているのか、そこから説明するわよ。実はこの幼虫、見ての通り蛹になるタイミングを誤ってしまって、以来幼虫止まりの個体になるのよね。それだけでも珍しいんだけど、摂取した魔力を吐き出すようになった初の個体なのよね。というのも魔力は蛹になる為に必要なだけであって、幼虫には然程必要ないものなのよ。過剰摂取も体に悪いことから適度に魔力を体外に出す必要があるのよね。そしてその吐き出したものこそがレアな調味料ってわけなのよ」


「ふむふむ、え?ということは嘔吐物ってことになるのですか?」


「そうね。でも食べるものって言えば草ぐらいだし、そんなに汚いものじゃ」


「すみません、絶対に無理です。あの、博士、やっぱりこの話は聞かなかったことに」


「なるほど、ぺろぺろ。うんうん、ぺろぺろ。あ、やっぱこれあれだわ」


「え、博士?よ、よく平気でそんなもの舐められ」


「これ醤油じゃねえか!」


「ええ!?」

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