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前菜

 各々戦闘配備が完了しました。

 これから始まるは防衛戦。

 人と魔人の希望と成りつつあるこの中立国を守る為、わたしたちは戦わなければいけません。

 ネラさんと魔王ヘルンちゃんは国民の為に、博士は研究の為に、わたしはただの憂さ晴らしの為に。

 え、最後のは違いますか?

 でもわたしが戦う理由は全て持っていかれましたので、仕方なくストレス発散を理由に戦うのです。

 え、人を殺してまで発散するものなのか、ですか?

 別に殺しはしませんよ。

 肝心なのは防衛です。

 ここで大量虐殺なんてしようものなら博士に嫌われてしまいますからね。

 なんせ博士の夢は飢えを無くすこと、つまり人を生かすことなんですから、殺しは禁忌に等しいことなのです。

 ですが手加減が出来るわたしと違って、博士は手加減がどの程度なのか把握出来ていないところが怖いです。

 というか、博士の基準が外の人間全員強いという認識なので、下手をしなくても本気で挑みそうです。

 まあ、そこは助手の腕の見せ所ですね。

 上手く力を抑えて、どうすれば殺さずに済むようにするか。

 今回は配置上、博士の側についていることは出来ませんが、わたしは信じています。

 可愛い可愛いヘルンちゃんを。


「何度言わせれば気が済むんじゃこの阿保!」


「いやいや、これでもかなり手抜いてるよ?ていうかこんなんで本当に大丈夫?虫も殺せないんじゃない?」


「虫くらい死ぬわ!ていうか人も死ぬわ!」


 放物線を描くことなく直線上を飛ぶ岩。

 それは木っ端微塵に砕け散ると共に地面を抉り衝撃による突風が物という物を宙へと巻き上げる。

 その破壊力がもたらす惨状は目を覆いたくなる程悲惨なものだった。


「これくらいで?う〜ん、まあ誘導っていう意味だったらわからなくもないかもしれない?」


「変な言い回しをするでないわ!こっちまで混乱するじゃろうが!ったく、貴様の力は貴様自身が思っとる以上に強大なんじゃ。その辺りさっさと理解せんか!」


「俺が強い?まあ冗談はさておき、指示に従っていれば勝てるとルールーが言っていたからなあ。匙加減が難しいけど、やってみるだけやってみるわ」


「別に冗談ではないのじゃが……いや、この際指示に従ってくれるだけ良しとしようかの」


「んじゃあ、ほいっとな」


「だから力加減がなっとらんのじゃ阿呆っ!」


 此奴、まさかとは思うが力の加減が分からんというより、出来んのではないか?

 ……違うな、我は力の調整と簡単に言うが、二から一にするのとは違い誤差の範囲を彷徨っているのではないのか?

 我の全と比べて、此奴の全とは途方もない、それこそ天と地程の差があるのは確かじゃ。

 うむぅ、そう考えると加減の定義が変わってくるのじゃが……。


「はあ、こうなると自棄じゃ」


「自棄、とは?」


「今から指示する所に投げるのじゃ。全力で」


「うえ?全力でいいの?よっしゃ、いっちょやったりますか!」


 此奴の全を見るのは初めてじゃが、上手いこと事が進むのを祈るしかないのぅ。

 まあ、あれじゃ。


「ごめんなさいなのじゃ。てへっ」


「と、いう訳なんですが……」


「ああ、そうなっちゃったんですね。そして、こうなったと……」


 ルーフさんから状況を説明してもらい、笑いを堪えながらも聴き終わると、次にこの先どうするべきかと思案を巡らせます。

 博士が全力で飛ばした岩には硬化の魔術が施されていましたが、そんなものは最初からなかったかのように岩は宙で砕け、破壊の雨が降り注ぎました。

 幸いにも敵軍とは大きく離れた場所であった為、死者はおらずとも全てが吹き飛ばされる程度で済みました。

 おかげで軍は大損害です。

 実に喜ばしいですね。

 ですが破壊の雨は、地形を大きく変えると共にその一帯を無にしてしまいました。

 国が一つや二つ無くなる程の広さですので、損傷は馬鹿にならないのではないでしょうか。

 まあ、その辺りのことはネラさんの専門とするところでしょうから丸投げしますが。


「でも、軍は向かってくるようですね」


「え?いや、いくらなんでもそれは」


「有り得ますよ。大魔法を遥かに超える規模の破壊。これを魔術ではなく人力で行ったとは思いもしないでしょう。だったら、想像を絶する魔力を注ぎ込んだと考えるでしょう。それは使用するだけでも隙を晒してしまう捨て身の攻撃。ですが奇跡的にも全滅しなかった。ならば逆にこれはチャンスではないかと、そういうことですよ」


「確かに、そう考えると納得も出来ます。え、じゃあ今から敵を迎え撃つってことですか!?」


「何をそんなに驚いているのかわかりませんが、わたしにとっては有り難い限りですよ。やっとわたしの出番が来たのです、少しでも貢献しないと面目も立たないというものですから」


「そういうものですか?」


「さて、それではお仕事を始めますね」



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