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閃光蜂1

 自然とは即ち弱肉強食の世界である。

 故に、強者は武器を磨き、弱者は身を守るのである。

 だが、自然には突然変異という、本来とは違った性質へと変化する個体が現れる。

 環境の急激な変化か極度の緊張状態が続き、それに適応しようとした結果突然変異が起こる。

 そうして生まれた個体は、例外なく周囲の環境に多大な影響を与える。

 例えばそう、これまでの弱者が強者を喰らうように。


「岩一つ入りま〜すっと」


 身長の十倍はあろう岩を軽々と持ち上げ、それを弾丸もびっくりな速さで投げる。

 衝撃で地は揺れ、大気が暴れ狂う。

 そうして投岩された先、黄色の悪魔と呼ばれる魔物の巣へと直撃する。


「命中しました」


「んで、どうなった?」


「えっとですね……あ、少し欠けましたね」


「やっぱ岩じゃたかが知れてるかあ」


 遥か頭上、切り立った崖から顔を覗かせるそれを見ながら博士がぼやく。

 博士にはぼんやりとでしか見えていないようですが、わたしは遠視の魔術を使っているためはっきりと視認できています。

 わたしが助手としてうまくやれているのは魔術のおかげです。

 本当に、便利で頼もしい限りですね。


「でも博士、態々本体を狙わなくてもいいのでは?それより」


「ああ待て、言わなくてもわかる。崖を壊して落とせばいいって言いたいんだろ?」


 無言でこくりと頷く。

 あの強固な装甲を突破するにはもっと近距離で攻撃をする必要がある。

 遠距離攻撃の類いは全て、巣に到着する前に威力が大幅に減少する。

 雲に届くか届かないかの高度のため、単純に威力や速度を維持できないのだ。

 その上更に四つの結界を重ね掛けしているので、折角届いた攻撃も用意に防がれてしまう。

 博士だけはそれでも結界を貫通できるので化け物としか言いようがありませんが。

 しかし、そんな博士であっても巣を落とすまでには至らない。

 なので、手っ取り早く元を壊せばいいのではと思ったのだ。


「駄目だ〜って感じ。崩れる、巣落ちる、潰れる、以上」


 つまり、回収する頃にはすでに原型を留めていない、もしくは食べるに適さない状態になるということですか。

 であればどうするか。


「連れて行ってもらうしかないかも、ですね」


「正気?」


「博士なら大丈夫ですよ。……多分」


「本気?」


「毒には耐性をお持ちですよね」


「沈黙」


「それは言わなくても結構です。でも以外です。博士にも怖いものがあるんですね」


 ふと好奇心からそう聞いてみる。

 すると、博士は何かを思い出したのかその表情を見る見る内に青くさせていく。


「あれは悪魔だ、悪魔。悪魔の中の悪魔だ。あっくま〜のあっくま〜。すぅ……はあ、どうしてもやらないと駄目?」


 冗談でもなんでもなく、博士は本気で怖いらしい。

 離れていても心臓の鼓動が聞こえるところからも、その恐怖の程は容易に推し量れる。

 この森では最早敵なしと思っていた博士が、初めて魔物相手に臆していた。

 しかし、わたしの力では黄色の悪魔は倒せない。

 なので、他人任せではあるが博士には頑張ってもらうしかない。


「えっと、研究のためには、巣の調査も必要なのではと思いますけどね」


「そうですよね〜。ああ、俺が死んだらそれはそれは立派な墓石を」


「もうっ、そんな有り得ないこと言ってないで早く済ませましょう。ズルズルと引き摺れば辛くなるのは博士ですよ?」


 そう言われ、うっ、と言葉に詰まる博士。

 トラウマというものは思い出したが最後、立ち向かう勇気さえも容赦なくへし折る。

 だがそれに屈して時間を浪費することは、更なるトラウマの増幅に繋がる。

 故に特攻、短期決戦となる。

 わたしは未だに突撃を悩む博士に、重力操作を施す。

 のしかかる重力を反転させ、浮遊させるのだ。

 博士も何をしているのかと怪訝な表情を見せるが、わたしが視線を巣に向けたことで今にも泣きそうな顔になる。

 しかしそんなことでわたしは動じない。

 博士も表面上は嫌そうだが、すでに覚悟は出来ている。

 わたしの魔術など、博士がその気になれば強引に振り払えるからだ。

 わたしは宙に浮いた博士を、風の魔術を公使して巣へと送り出す。

 それも全力で。


「ちょっ、待っ」


 途中で心折られても困るので、魔力大奮発で竜巻を起こす。

 それは博士を包み込むと瞬く間に巣の元へ。

 そして博士は目の前でカチリ、という音と共についに対面することになる。

 黄色の悪魔と。


「カチカチカチカチカチカチ」


「ぎいぃやああああっ!!」


 それが合図となった。

 巣に空いた無数の穴から次々と顔を出す黄色の悪魔。

 ガラスみたいな瞳に反射するように映るのは博士の姿。

 そしてその姿を見た悪魔たちは、すぐに博士を敵とみなし襲いかかってくる。

 羽を高速で動かし、ブ〜ンという音が伝染するように広がっていく。


「数多い数多い!やめろやめろ、近づくな近づくな。おいこら待て、それは洒落にならん。ちょっと待て、少し話しよう」


 何やら上で混乱状態に陥っている博士。

 言葉が通じるはずがないのに必死に口を動かしている。

 手を動かしてください、と言いたいところではありますが、この距離では声も届きそうにないですね。

 頑張ってください、博士。

 そう願うだけ願って、傍観者を貫き通すのだった。


「来るなっ!来るなああああっ!!」


 博士の絶叫を聞きながら。



 ―




「酷い目にあった……」


「でもおかげで食材ゲットですよ!うわあ〜、美味しそうな蜂蜜」


「ルールーは本当甘いもの好きだな」


「甘いものは正義です!いや、それよりも博士。その、そろそろ……」


「さあっ、今日はもう寝るかな」


「博士っ!!」



閃光蜂:遠目からでも目立つ強い黄色の体色をしている蜂。

人間の大人程の大きさをしており、視認できない速さで高速移動を行う様が一筋の光に見えることから閃光蜂と呼ばれている。

獲物を狩る際には、持ち味の素早さを活かして下腹部の毒針で毒を注入する。毒は暗殺者御用達の劇毒で、どんなに体格差があっても数秒で死に至らしめる。

例え毒が効かなくても強靭な顎で獲物を噛み殺す。

魔力を含んだ特殊な砂で巣を作り、その魔力を使って高度な結界を作る。

巣の中で作られた蜜は絶品で、宝石よりも高値が付く。

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