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油蝉2

 わたしたちは現在、頭を悩ませています。

 それは昨日狩り尽くした油蝉があまりにも微妙だからです。


「このまろやかな味わいの中身と、外側のパリパリ食感が絶妙に噛み合わないですね……。もういっそのこと、別々にした方がいいのではないでしょうか?」


「そんな手間に見合う程のメリットがあると思うか?」


「ないですね。これっぽっちも」


「だろ?」


 仕留めるだけでも一苦労な油蝉を、態々そこまで手間かけて食べたいかと言うと、そうではないというのが本心です。

 多くの人に受け入れてもらう為には、というのを前提に考えているので、手間と結果が釣り合わなければやがて駆除されるだけの存在となってしまいます。

 とは言え、油蝉もあくまでも微妙という範疇に収まっていますので、まだ救いはあります。

 爆弾虫のような、どう頑張っても食べ物になり得ない代物ではないのですから。


「でも取り敢えず、羽は美味しいですね」


「いや、羽の外れってなくね?ていうか味ほぼ変わらんだろ。てことは、魔物の羽って全て共通ってことになるのか?いやあ〜、でもこれはつまみには最適だな。うん、本当。いやあ〜本当に美味いなこれムシャムシャムシャ」


「あの、博士?もしかして、もう羽だけでいいのではと思っていませんか?」


「…………」


「何故目を背けるのですか?」


「…………」


 これはもう完全に迷子ですね。

 何をどうすれば美味しく食べられるのか、それが頭に浮かんで来ないのでしょう。

 であれば、もうしらみ潰しに試すしかないと思うのです。

 正直、わたし自身もここに何を足せばいいのか分かりません。

 甘味か、酸味か。

 苦味を出すことが美味しいに繋がる可能性もあるかもしれません。

 素揚げにするだけではなく、焼いたり蒸したり煮込んだり。

 流石に生では食べられませんので、熱は通す調理に限られますが、それでも組み合わせによっては無限とも言えます。

 つまり、美味しく食べられる可能性は充分にあるということです。

 まあ、これは全てに当てはまることなのですが。

 極一部を除いて。


「というわけで博士、今日は時間の許す限り手を動かしましょう」


「えっと、地獄かな?」


「博士が自ら選んだ道ですよ」


「そうでしたそうですねそうでしょうとも。じゃあ、始めるか」


 さっきまでの渋い顔が嘘のように、博士は急にやる気を出します。

 何がきっかけは知りませんが、やる気が出るならそれに越した事はありません。

 というわけで用意させて頂きました。

 大量に寸断された蝉の残骸と、今ある全調味料の数々。

 一つ一つ調理するよりかは同時に複数進行した方が効率が良いため、鍋も数個用意し、場所も簡易的に拵えました。

 後は作っては食べ、記録に残していくだけです。

 今思えば、狩り以外での共同作業は初めてかもしれませんね。

 ふぅ…………しかしまずいですね。

 少し、間隔を狭くしてしまったかもしれません。

 手が届く範囲で材料や調味料を設置、一気に鍋の様子も確認できるようにと等間隔に隣接して設置。

 材料カットのまな板も特大にし、大量に処理できるようにしました。

 ですが、時短という目的で動きを最小限にしようとした為、少し動いただけで手が当たったり肩がぶつかったり……。


「どうしたん?」


「い、いえ……その、頑張りましょう」


「ん?あ〜はい」


 そうしていったいどれ程の時間が過ぎたでしょうか。

 煩悩を押し殺し、無心で挑んだ試行錯誤の時間。

 それは永遠を思わせる程長く、しかし終わってみると短く儚いものでした。

 そして、虚しくなりました。

 空を見上げれば日は沈みかけ、夜の訪れを感じます。

 今夜は、寝れるでしょうか……。

 ただの自業自得なのですが、心身の負担が凄まじいです。

 日頃から一定の距離感をおいていた為の弊害でしょうか。

 もう、研究なんて言っている場合じゃないです。


「よ〜し、まあなんとかなったな。いやあ〜、やればできるものだなあ。しっかし、成功と失敗の落差が激しいな全く。だがこれで保存食の目処が立ったな。よっしゃ、それじゃあ夜の部やっちゃうか!」


「え?」


「え?じゃないよ。いや、大方減りはしたけどまだまだあるだろ?それに毎年毎年こうも大量発生するってなっては消費も追いつかんだろ。ずっと蝉ばっかり食べる訳にもいかんだろうし。だが保存食なら好きな時に食べられるだろ?厳しい環境下でも安定した食を得られるんだからな。ネラの奴も喜ぶぞ?」


「あ、ああ……」


「どうした!?どうした?どうしたっ!!」


 博士が何やら騒いでいます。

 どうせ支離滅裂なことでも口走っているのでしょう。

 わたしを励ましたいのか、それとも元気づけたいがためなのかは定かではありませんが、しかし今は疲れからか何も聞こえません。

 掠れた声で、もう明日でもいいじゃないですかと無意識に訴えます。

 博士は、俺のやる気は今しかない!だからやるぞ!と聞く耳を持ちませんでした。

 その後、しばらく無気力なわたしと変に意欲的な博士との不毛なやりとりが続き、結果として調理には参加せず、味見だけを任されることになりました。

 ちなみに、一番まともにできた保存食でも不味かったです。

 今後用改良ということでお開きになりました深夜二時。

 ようやっとの思いで飛び込んだベッドの上、わたしは今日また二つ学びました。

 博士にやる気を出させるのは難しいということ。

 厳密にはやる気の出力調整ができないということ。

 二つ目に、蝉は砂糖を入れれば比較的美味しく食べられること。

 おかずや主食ではなく、デザートやおつまみに適した食材でした。

 わたしの好みの話になりますが、蝉に味噌と砂糖を足して煮込んだものが美味しかったです。

 明日……ではありませんね。

 今日は起きたら保存食の改良からでしょうか。

 研究が進むのは喜ばしいことです。

 ですが限度というものはあります。

 博士にやる気を出させるのはここぞという時にしましょう。

 まあ、その時が来ないに越したことはありませんが。

 では、お休みなさい。

 なんとなく、今日はネラさんが訪れそうな予感がします。

 ネラさんの情報網は侮れませんからね。

 どういった仕組みなのかはわたしにもわかりませんでしたが。


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