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脱線水

 

「突然すみません!緊急の用件なんです!急がないと、僕の首が飛んじゃうんですよ!!」


「おい、何がどうしてそうなった。三分で頼む」


「博士、三分で片付けるのは可哀想だと思いますけど」


「むむ、そうだな。よっしゃ、今夜は飲もう!」


「いやいや、僕忙しいんですって!!」


 そうして騒がしくも楽しい来訪者はネラさん。

 思いの外早い、というか早過ぎる気もしますが、概ね目処が立ったのでしょう。

 戦をどう終わらせるのか、その後のことも。


「先に断っておきますけど、飲みませんからね?」


「一杯も?」


「一杯も」


「じゃあ、これでも食うか?」


「…………いただきます」


 そう言って博士の手から謎の物体を受け取るネラさん。

 何か心境の変化でもあったのでしょうか。

 トラウマとはいかないまでも、苦手意識を持っているであろう魔物食に手を出す。

 余程のことがない限り、絶対に断っていたそれを手に取り、すぐにそれを口の中に放り込む。

 静止の合図を待たずに。


「うえぇっ!!ぺっ、うがっ!何これうっ、無理、これ」


 あまりの苦さと鼻をつく臭いが口内に広がり、吐き出すようにむせ返ってしまうネラさん。

 それはそうなりますよ。

 刺激物には慣れている博士でさえも、爆弾虫は食べ物ではないと認めるのです。

 普通の人が食べたら失神ものですよ。

 ネラさんの場合、まだ吐き出す程度で済んでいますが。


「何をどうすればこんな味に……。うえぇ、気持ち悪ぅ。あの、す、すみません。水を、水を貰っても……?」


「はい、どうぞ」


 すっと差し出すと、目にも止まらぬ速さでコップを手に取りすぐに飲み干します。

 それだけ不味かったのでしょう。

 ですが少し落ち着いたようです。

 空になったコップを、神か何かを崇めるような目で見ていること以外は。


「これ、売れますよ!」


「ええ、売れますよ?」


「…………ん?」


「だから売れますよ。ねえ、博士」


「売れる、これは間違いなく売れるぞ!」


「博士、その反応ネラさんと被ってます。実はというと、この森の水には魔物から漏れ出る魔力を大量に含んでいるのですよ。魔力は生命の源と言われている程ですから、それを一気に摂取できるとすれば大幅な治癒効果を期待できます。まあ、一種の薬ですね」


「凄いじゃないですか!だったら尚更っ」


 予想もしなかった発見に興奮するネラさんに、ですが、と続けます。

 それだけでネラさんは、決して良いことばかりでないということを理解してくれました。

 昂る気持ちを抑え込み、耳を傾けてくれます。


「これは万人に勧められるものではありません。魔力量が少ない人間には過剰摂取になり、著しい代謝を促すことに繋がります。最悪、死に至ることでしょう。あくまでも使用は上級魔術師に留まるべきです」


 そう説明すると、ネラさんはあれっと首を傾げます。


「でも、その説明だとなんで僕は大丈夫なんですか?言っちゃ悪いですけど、そんじょそこらの一般人より魔力少ないですよ?」


「大丈夫よ!過剰な分は、わたしがもらってあげてるんだから」


 七色の光が突如として浮かび上がると、そこから快活な少女らしき声が響きます。

 いつ見ても不思議なものですね。

 現れるまでその存在がわからないのですから。

 結界にも探知の魔術にも引っ掛からない。

 かと言って肉眼で見えるわけでなく、気配もまるで感じません。

 それに何より、精霊には性別はあるのでしょうか。

 姿形も自由だとは聞いていますが、何にでもなれるのでしょうか。

 それは形だけでなく、中身も伴うのでしょうか。

 その姿を見ただけで次々と溢れ出る疑問の数々。

 でも、それはいずれまたの機会にとっておきましょう。

 今は人間と魔人のゴタゴタを解決するのが先ですからね。

 そう区切りをつけ、思考に沈んでいた意識を引き揚げるとそこには精霊と話し込むネラさんの姿が。

 一通り話は聞き終わり、今では他愛もない会話をしているのがわかったので、時間がないとのネラさんの都合を考慮して中断してもらうことにしました。


「はいはい、では話の続きをしてもよろしいですか」


「あ、すみません。ほら、引っ込んで」


「は〜い」


 素直にネラさんの指示で精霊が消えたところで、話を再開します。

 えっと、確か水の話でしたね。


「この森の水は、薬としては一級品。ですが、使用者は限られますというのがこれまでの話です。それをどう販売するのかはお任せしますが、条件があります」


 わたしが条件というと、ごくりと生唾を飲む音が聞こえました。

 別に脅すつもりはないのですが、ネラさんの瞳には怯えが見て取れます。

 忙しなくあちらにこちらにと動かすものですから、隠す気がないのではと勘繰ってしまいます。

 でもネラさんは正直な人なので、やはり怯えているのでしょう。

 非常に悲しいことですが。


「条件といっても、そう難しいものではありません。一つ、市場に流す場合は医薬品として取り扱うこと。二つ、原産地がわからないようにすること。これだけ守って頂ければ結構です」


「え、えっと、もし守らなければ?」


「ふふっ、さて、どうしましょうねぇ?」


「ひぃっ!」


「というのは冗談ですよ。ですが、もし守れなかった場合博士の安息の場所は奪われることになるでしょうね。そうなったら、博士がどんな行動にでるか………」


「う〜ん、そうなると僕としても取り扱うのは怖いですね。確実に売れるでしょうけど、デメリットが大き過ぎます」


 その後も、でも、しかし、けど、と自問自答を繰り返すネラさん。

 その様子を見るに、余程お金にお困りということがわかります。

 ですが、それほど大きな戦でなかったというのは町でも聞きました。

 一人で戦後の処理を行うにしても、精霊の力があるネラさんにとっては大した苦労にはならないでしょう。

 それ以上に、もっと大きな問題を抱えていると考えた方が妥当な気がします。

 まあ、考えても仕様がないので聞きますが。


「ネラさんは、何か大きなことをしようとしているようですが、それは何でしょうか?できるだけ協力はしますが、事によってはわたしたちも協力できませんからね」


 素直にそう聞くと、思い出したかのように必死になるネラさん。

 命の危機だというのに、今の今まで忘れていたということでしょうか。

 商売魂というのも、玉に瑕ですね。


「あ、ああっ!そうでした!そうですよ!僕、中立国を作ることになったんですよ!」


「……………はい?」


 戦後の処理云々ではなく、国を一つ作るということですか?

 名前に中立と入っている辺り、戦の解決策というよりかは妥協策といったところでしょうか。

 しかし、国ですか。


「場所は確保済みで、国の基盤も固まってます。後は資金と資材の確保なんですけど、これが中々……。魔王にも協力してもらってますけど、元々魔人領もそこまで潤っているわけではありませんから……。あと二日ぐらいでどうにかしないと、僕の首が飛んじゃうんですよね……。今更兵を差し向けるのを止めろだなんて言ったら、寝返ったとしか思われないでしょうし」


 成る程ですね。

 要するに、準備はすでに整っていますが、物がないということですか。

 ……それにしても急な話ですね。

 国というのは一朝一夕で成り立つものではありませんが、それを僅か二日、今日を入れれば三日ですが、たったの数日で築き上げるというのはあまりにも突飛な話です。

 計画者の正気を疑いますね。

 ですが、ネラさんには精霊が憑いています。

 森を開拓するのも、地盤を整えるのも容易なことなのでしょう。

 外壁に関しても精霊の力で簡易的に拵えることは可能でしょうし、場所だけを作るのであれば現実的な話なのでしょう。

 でもまあ、博士のご友人の頼みです。

 協力も充分可能ですし、ここは一つ恩を売っておきましょう。


「でしたら、家の裏に回ってもらえますか?是非、引き取って貰いたいものがあるんですよ」


「というと、え、魔物の素材ですか!?」


「はい。最近魔物が多かったですから、処理に困っていたのですよ。丁度良かったです」


「いや、僕はゴミ回収に来たわけじゃないんですけど……ま、まあ大丈夫です。えっと、その、結構たくさんあるんですか?」


「ええ、それはもうたくさん」


「たくさん、たくさんですか……。それなら、資金難にも希望の光が……」


 そしてわたしは、ネラさんを連れて家を出ます。

 博士は何やら、厨房の方で忙しなく料理を作っていましたが。

 友達を喜ばせたいのはわかりますが、その量は食べきれないのではというぐらい、大量に作っていました。

 勿論、全て魔物食でした。



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