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魔王とネラさんと

 僕は今、生死の瀬戸際に立たされています。

 というのも、目の前には戦の大将である魔王がいるんです。

 そして、対峙してみて改めて思い知らされます。

 僕みたいな一般人では到底敵うことのない、強者よりも一線を画す絶対者であると。

 でもまあ、ルールーさんの圧に比べるとまだマシですけど。

 それでも僕にとっては挙動一つで死に直結する状況です。

 正直、平静を装うので精一杯なんですけど、魔王はそんなことなど気にしていない様子で、何より鬱陶しい目で僕を睨みます。

 いや、僕で八つ当たりしようとするのはやめてくださいよ?

 本当に。


「それで、貴様はこれからどうするつもりじゃ?」


 僕は魔王のその言葉を聞いて、倒れそうになりました。

 向けられる苛立ちが殺意のように感じられ、返答次第では死ぬ未来が容易に想像できました。

 ああ、やっぱりここが僕の墓場なんだなあ。

 しかし現実逃避気味に生きることを放棄しようとして、ふと我に帰ります。

 だって、僕には帰りを待ってくれている孤児のみんなと、心配させたくない友達がいるんだ。

 叶えなければならない夢があって、共に語らう楽しみがある。

 その事実が、僕を正気へと導きました。


「僕は、このまま大人しく帰るわけには、いきません」


「ほう?」


 意思の力で絞り出したか細い声でも、魔王の耳には正確に届いた。

 魔王は少し興味を持ったようだった。

 僕のことに関しては無関心で、何より不敬を働いたならず者として認識されている。

 でも、この変化は僕にとって喜ばしいものだ。

 悪感情は抱かれていても、話を聞いてもらえるからだ。


「僕は、その、この戦の諜報員を務めています。と言っても、最近の話ですが」


「ふむ、それで?」


「は、はい。それで、いろいろと情報をかき集めている間に、一つの結論に行き着きました」


 そこまで言って、僕は一度話すことを辞めた。

 魔王が早く話せと目で催促してくるけど、ここから先は死地に踏み込む行為だ。

 それに、これは僕個人だけの話じゃない。

 それこそ、国と国で決まるべき話だ。

 でも、魔人の国に潜入していろいろと調べていく内に、僕は人間の国と大差ないことを知った。

 貧富の差があって、孤児がいる。

 僕はこの世界から孤児をなくしたい。

 子供たちが、下を向かず上を見て歩けるように。

 だって勿体ないじゃないですか。

 子供たちには無限の可能性がある。

 この腐った社会を変えるようなエネルギーもある。

 何より、純粋無垢で可愛い。

 そんな孤児たちの為に、僕は戦う。

 死んでは元も子もないけどね。

 軽く息を吸って、心の臓を落ち着かせる。

 魔王も、僕の雰囲気の変化を感じ取ったのかな。

 その目は、蔑むような目ではなく見定めるような目に変わっていた。

 そして僕は、言葉を紡ぐべく口を開く。


「人間と魔人の、中立国を作るべきです」


 そう言った途端、心臓が止まったのではと錯覚するほどのプレッシャーを感じました。

 いえ、錯覚ではなかったのかもしれません。

 この時、確かに心臓は止まっていました。

 たった数秒のことでしたが、それでも肺は押し潰されそうな痛みを覚え、急激に全身を駆け回り始める血流は耐え難い激痛を与えました。

 おかげで死にそうでした。

 いくら痛みに慣れている僕であっても、これは流石に洒落になりません。

 そして、当の魔王はというと難しい顔をしていました。

 多分ですけど、損得のことは理解されているのだと思います。

 問題は、賛同するか否か。

 戦の被害はお互いまだまだ軽微ですが、それでも一度衝突した者同士。

 それに、深く根付いた人間の差別意識と、迫害を受けた魔人の怒りを考えれば不可能に近い夢物語でしょう。

 ですが、実現すれば安らぎの場になります。

 度重なる戦に疲れ、重い税を徴収され貧しい暮らしを余儀なくされる人々。

 差別により心身傷ついていく魔人たち。

 そう言った人たちを救えれば、世界はもう少し平和になると思います。

 それに何より、僕の夢にも近づく。


「……無理な話じゃな」


 魔王はそう言って嘆息を漏らします。

 現実的に考えると無理かもしれません。

 現実的に考えると。


「やはり、そう思いますか。でも、僕とあなたであれば作れると思います」


「ほう、それは?」


「僕は大賢者クラリウス様より実質的にその権利を預かっている身です。利用すると言えば聞こえは悪いですが、大賢者と魔王、人間と魔人の双璧を為す二人の名があれば、建国は可能だと思います」


「……続けろ」


「はい。そして、僕には頼れる精霊がついています。彼女の力があれば、ある程度守護することが可能でしょう」


「ふむ、なるほどの。確かに、建国するだけなら問題はないということじゃな」


 やっぱり来た。

 魔王の言う通り、建国するだけならさして問題はないです。

 問題はその後。

 受け入れてからどうするか。


「じゃが、国を作るというのはそう簡単なことではない。場所もそうじゃが、基盤がなければ話にならん。資金も調達せねばならんし、それに伴って資材も大量に必要になる。何より、食料が問題じゃ。今でも不足気味じゃと言うのに」


 確かに魔王の言う通りだ。

 でも僕は、何も無策で提案したわけじゃない。


「場所や基盤については問題ないと思います。資金の調達に関しても問題ありません。食料の方は、ちょっとやってみないとわかりませんが」


「え、ちょ、ちょっと待つのじゃ。なんじゃ?そこまで話はまとまっておるのか?」


「話はしていません。ですが、必ず協力してくれるはずです」


「は、話にならんな。仮に、仮にじゃぞ?建国が成ったとして民はどうする。人間も魔人も受け入れるとなれば、近い内にまた衝突するのがオチじゃぞ。居住区を半分にでも区切るつもりか?」


「それも恐らく大丈夫かと。建国に合わせてルールを作ります。それに遵守することで、ある程度抑えることはできると思います。そして、人間と魔人で互いの短所を補えるシステムを導入します。後は、友達が家から出てくれれば、という感じです」


「最初の二つは理解できる。じゃが、最後のはなんじゃ。ふざけておるのか?」


 もう慣れてきたとは言え、流石にぶっちゃけ過ぎたかもしれないです。

 でもここばかりは僕じゃどうしようもない気がするんですよね……。

 だけど、家から出てくれればその問題も解決できると確信しています。

 なんせ、友達ながらに彼、何もかもが出鱈目ですから。


「引きこもりなんですけど、彼は最強なんですよ。心も体も。きっと、人間と魔人の隔りを簡単に壊してくれるはずです」


「逆に其奴が気になるが……まあよい。中立国の件、協力してやろう」


「ありがとうございます」


 ただし、条件付きで。


「今後、我らは戦から手を引く。その代わり、貴様は頭を押さえろ。兵を差し向けられるようなら、この話も無しじゃ」


 そう言われ、僕の頭は真っ白になりました。

 これからどうしようと。

 なので、すぐにでも建国の準備に入ることに決めました。

 だって、無理でしょ。

 国のトップに喧嘩売るようなものですよね?

 死ぬ、そんなの処刑もんですよ。

 まあ、足止めように嘘の情報ぐらいは流しますけど。

 はあ、早く終わればいいですけど。

 いたた、なんか胃が痛くなってきたような……。


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