逢魔が時
夏はまたやってくる。
『怪人』を知って、3年目の夏がきた。
雄太郎の背中は汗でじっとりと濡れている。買ったばかりのナノ・シーロンのお気に入りが、今は完全に色を変えていた。
「雄ちゃん、これでいいかな」
「ダメだって。もっとキツく巻かないと」
雄太郎に声をかけた晴海は唇を尖らせて、切り出した竹の先に廃自転車のスポークを巻き付けていく。
雄太郎の家のガレージでは、再び訪れるであろう戦いの為、仲間達で武器を作製していた。車2台分のスペースがあるこのガレージは、裏山から切り出した竹や木の枝、レンガや廃材が散らばっていた。
そのすぐ外では、唯一の武器らしい武器、木刀を素振りする早道がいた。早道が素振りをする度、飛んだ汗が地面に吸い込まれていく。日射しは早道だけでなくガレージにも降っていたが、皆それを気にする素振りはなかった。
「本当にやるの? ねえ、本当に?」
レンガを1つ1つ厚手のビニール袋に入れながら、卓夫が雄太郎に聞いた。
「当たり前だろ! 岳斗の敵討ちしたくないのか?」
「怒鳴るなよ~。そりゃ、僕だってさぁ」
卓夫はふぅとため息を漏らし、ビニール袋1枚にレンガを1つ入れていく。
「勝てる可能性は?」
「分かんない」
早道は素振りをやめて、卓夫が買ってきたスポーツドリンクをあおった。
「分かんないじゃ済まないぞ。岳斗があんなにやられたの見たろ? あいつ、最近空手習い始めたって言ってたんだぞ。それなのに」
「岳斗は1人だったからだ。でも僕らは1人じゃない」
早道の言葉に、雄太郎の隣で黙々と空き缶を金鎚で潰していた和喜が、力強く答えた。
「あいつは調子に乗ったからだ。こういう時、調子に乗るやつは絶対やられる。鉄則だ」
「別に岳斗は調子に乗ってたわけじゃないさ。過信だ、過信」
「一緒だろ。ほら、試作品」
和喜が潰した空き缶をつなげた籠手を、早道に投げて寄越した。それを拾って腕に重ねると、『あちっ』と言って籠手を離した。
「熱くなってんじゃん」
「それは僕のせいじゃない。夏のせいだ」
「青春みたいな事言ってるな。アハハハハハ」
卓夫の笑い声に全員が睨む。卓夫は全員の目に笑い声を止めた。
「何で睨むんだ」
「うるさいんだよ、お前は」