02
皆さんお久しぶり、異世界の勇者こと伊吹千里です。
仲間に裏切れた挙句、異次元に閉じ込められた俺ですがどうにか生きてます。
いやー、あの時はビビった。
奈落と呼ばれる真っ黒な空間に魔王城と一緒に封印され、人生終わったと思ったわ。
幸いにも魔王城のライフラインが生きてたおかげで、真っ暗闇の中で孤独死をせず生き延びることができた。
魔王、あんたが残した魔王城、すごっく住みやすかったぞ!
畑や農林に牧場、食材の加工や武器や道具ができる工場や鍛冶場、高級ホテルのような部屋に面白そうな娯楽施設、それと巨大な貴重な魔導書が私蔵された図書館や兵器類の倉庫となどなど、必要なものがすべて完備されていて、まるでテーマパークと大都市が融合したような城だ。
そんな城を、俺だけが独占できた大変満足です。
ありがとう魔王!
俺にこの城をくれて!
ぶっちゃけ不法侵入だけど、魔王のモノは勇者のモノ。
俺が殺した野郎のモノは俺のモノだ。
俺を魔王城と一緒に閉じ込めたおまえが悪いんだからな!
返せっといわれても返さないから、絶対に!
さて、そんなこんなで魔王城で一人暮らしを続けて早十年が経過した。
この異次元の影響か老化が停止し、永遠の19歳になっていた俺は魔王城のとある一室で、ある物を作っていた。
「えーと、ここがこうなって……これが、こっちに繋がって……これを差し込めば――よっし! 完成!」
出来上がったモノを前に、俺がガッツポーズをする。
目の前には地球儀に似た巨大な魔道具が置かれていた。
『マスター、例のアレが完成したのですか?』
「その通りだ、ミネルヴァ」
俺しかいない部屋で声をかけてきたのは魔王城の全システムを統括しているミネルヴァ。
こいつは魔王城の多彩な機能と施設を運営・管理するために魔王によって作られた異世界版の人工知能だ。
現在は創造主である魔王を倒されたことで、所有権が俺に譲渡され、俺をサポートしてくれる。
魔王でしか操作することができない魔王城を利用できるのは彼女のおかげだ。
ちなみに、最初のころは自律型術式魔動機という長い名称だったので、俺がミネルヴァという名前を付けてやった。
ローマ神話の女神でイメージに合わせて選んだ。
本人も気に入っている。
「俺が十年の歳月をかけて作り上げた魔道具。その名も『どこでも次元門』!」
俺が作っていたものは、この《奈落》からもとの異世界に戻るための空間移動の魔道具。
魔王城に保管されていた魔導書や魔道具に関する資料を基に独学で作った俺の傑作だ。
理論上、これを使えばあの異世界へ転移することができる。
『おめでとうございます、マスター。しかし、当機に疑問があります?』
「ん? なんだ?」
『なぜわざわざ、元の異世界へ戻るのですか? あの世界はマスターを裏切った人々がいる世界。戻る義務も未練はないはずです。であれば、あの世界よりも、マスターが生まれた世界と魔王城との通路を模索するはずです』
たしかに。
仲間に裏切られた挙句、この《奈落》に閉じ込められ、孤独から元の現代社会に帰ろうかなと、一時期考えたこともあった。
だが、あくまで考えただけで心から帰りたいという気持ちは元からなかった。
「うーん。正直にいうと、元の世界より異世界のほうが愉しいんだよ俺は。召喚された頃は勇者をするのめんどくさかったし、危険を冒してまで命を懸けるの馬鹿らしいかったけど、実際体験したら心の底から生きてる実感ができたんだ。平凡な男子高校生では味わえないスリルっていうのか? それが癖になってな。気づいたらもう元の世界には生きられない体になってたんだ」
『マスター……』
「俺は自覚した。もう前の俺と違う。あの異世界に適応した人間だ。なら、俺の帰る場所は異世界しかほかならい。っと、ナルシシストみたいないい方したけど、どう思う相棒?」
『……当機はマスターの命令に従うだけです。肯定せよと命令すれば肯定し、否定せよと命令すれば否定する。それだけのシステムです』
と、淑女のように言い返すミネルヴァ。
その姿勢に俺は好感を得る。
「はは、相変わらず真面目な奴だな。まぁ、ぶっちゃけるとあの世界でまだやり遂げてないことがあるから、どうしてもあの異世界に行きたいんだ」
『その、まだやりやり遂げてないこととはなんでしょうか?』
ふっふふ、それはな。
「凌辱ゲーみたいに異世界の女たちを蹂躙することだ!」
『………………は?』
俺は平凡な青年であるが、同時にオタクでもある。
それもエロゲーやエロ同人誌や官能小説を好む、生粋のスケベ野郎だ。
また、主な性癖は凌辱系。
女が汚され快楽に堕ちる姿が興奮する。
異世界に召喚されたときは、内心喜んだりもした。
ファンタジー系のエロゲーみたく、少女や美女たちをこの手で襲うことができるかもしれないと。
強姦、調教、肉体改造、苗床、触手、肉便器、家畜などなど。
あらゆるプレイを体験することができるだろう。
想像しただけで、俺の息子が元気になってしまう。
『……当機、当時の魔王様から過去の勇者たちの情報を記録させてもらいましたが、マスターのような邪な勇者ははじめてです。あなた、勇者ではなく魔王ではありませんか?』
「いやいやいや、魔王と勇者って裏表みたいな存在だけど本質は同じだから。他人の家の物を勝手に盗むは壊すわで、金のためにモンスターを殺しつづけて、姫を掻っ攫っては政略結婚で内部から王家を簒奪する。これが勇者と魔王は似てないと誰が言う?」
『……否定できません』
ちなみに、まだ童貞なのは俺自身が強くなることと邪魔者の排除を優先した結果だ。
勇者の権力で姫や宿屋の母子など襲うことは可能だろうが、レベル1の状態で悪行を積めば踏み台勇者みたくバットエンドを迎えるかもしれないので、無敵キャラになってから野望を実現しようと考えたからでもある。
もしも、主人公キャラと敵対しても圧倒的実力で倒せるし、ヒロインたちを手に入れるチャンスにもなるから一石二鳥だ。ヒロインが彼氏の目の前で犯されるというNTRのシチュエーション……滾るわぁ。
あと、邪魔者の排除というのは魔族と魔物と悪人たちを物理的に消すことである。あいつら、俺が犯す予定の女たちを食い散らすかした挙句に殺すしな。
女は星の数ほどいるというが、種類が違う肉壺を壊すなど言語道断!
女は(肉体を)犯して(精神は)壊すもの。
女の命を奪うなどあってはならいのです!
ただしブスと野郎は殺すべし!
「というわけで、俺の不在中にアホ共が俺の獲物を横取りしていないか心配なので、どこで次元門を起動開始!」
『はい、動機はどうあれ了解しました。魔力炉からどこでも次元門に接続――魔力を供給します』
超弩級の城である魔王城すべての施設を稼働することができる巨大炉。
そこから生成された膨大な魔力がどこでも次元門に注がれ、門は稼働を始める。
「二十……五五…・・八十一……百パーセント完了。どこでも次元門、起動』
どこでも次元門から巨大な魔法陣が俺の前に現れる。
この魔法陣をくぐれば、あの異世界に行ける!
勇者としての仕事を優先してできなかった野望。
すべては抑圧された内なる欲望を解放するために。
俺は躊躇なく魔法陣に飛び込んだ。
まってろよ、異世界ファンタジー!
まってろよ、淫らな女ども!
俺がお前たちのご主人様だぁあああああ!!