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01


 俺の名は伊吹千里(いぶきせんり)

 高校二年生の“平凡”な青年だ。

 それと同時に“異世界の勇者”でもある。

 なぜ俺が勇者なのかというか、ある日のこと、学校から帰宅途中で俺は異世界に召喚されたのだ。

 召喚された理由は、異世界の支配を目論む魔王と配下の魔族たちを退治するために、俺を勇者としてこの異世界へ招いただとか。

 元の世界に帰る手段もないうえに現状が孤立無援だったため、俺は仕方なく勇者をする羽目になった。

 むろん、報酬として魔王を倒したらあとは異世界で自由に生活する権利と生活に困らないほどの金を要求した。無償で人助けをするほどお人好しじゃないので。

 あと、綺麗な姫様との結婚もOKと王様が言ってたが、結婚願望は無いので、それだけは遠慮した。姫様、いい体してたけど、伴侶とするかは別だ。

 とまぁ、こんな感じで、俺は勇者として金と自身の自由のため、魔王討伐の旅に出た。

 RPGみたく強いモンスターと戦ったり、難解な仕掛けだらけのダンジョンに挑戦したり、町を守るため魔族と対決したりと、数々の冒険と修羅場を潜り抜けた。

 命の危険が何度もあったが、それが逆に生きた心地がして、高揚感があった。

 どうやら俺は、戦闘狂だったらしい。ファンタジー世界に適応しすぎて、もはや平凡な青年には戻れそうにないが、開き直ったので大丈夫。

 そんなこんなで、勇者として活動し続けて一年以上が経過。

 最中いろいろあったが、俺は魔王がいる魔王城へ突撃。

 そこで待つ魔王と死闘を繰り広げ、ついに勝利したのだ!


 勝ったッ! 第十二部完ッ!!



 これで念願の異世界ライフをエンジョイできる――と、思ったのに……、



「勇者、センリよ。すまないがここで死んでくれ」


 只今、パーティメンバー全員に殺されかけています、はい。


「がっは!? ……いつかは……殺しに来ると思ってたけど……まさか、こんな時に……」


 壁にもたれながら、口から血を吐き零す。

 魔王にとどめを刺した瞬間、後ろから魔法でぶっ飛ばされた挙句、剣と槍と矢でめった刺しとか躊躇が無さすぎる。

 こっちは魔王との戦闘で満身創痍だったから、避けることも防ぐこともできなかった。

 傷口から血が多く流れ出る。普通だったら死んでいてもおかし怪我。それでも絶命しないのは鍛えてきたおかげだろうが、死ににくいだけで苦しいことには変わりがない。

 口の中が鉄の味がして気持ち悪いし、肺に穴が空いて呼吸が困難だ。

 血液不足と酸素不足で視界が霞むも、俺はゆっくりと頭を挙げて前方にいる仲間たちを見上げる。


「ほう、我々が裏切ることを予知していたような口ぶりだな」

「あ、当り……前……だ。は、はじめっから、お前らの……こと、信……用してなかったし」


 俺のパーティーメンバーは俺を召喚した王族たちが選別した者たちで結成されている。


 戦闘民族アマゾネスの長老の娘にして魔槍の担い手こと『蛮勇姫』テオドラ

 

 万の知識と千の魔法を持つ最年少天才児の『大魔導士』ミーシャ。


 異世界の神を信仰する慈愛と正義の旗を掲げた『聖女』アスタロット


 森の民であるエルフの戦士で射掛ければ百発百中する弓の名手でもある『守護者』エルル。


 そして、死にかけの俺を愉快に見下ろすのが俺を召喚した王族の第三皇子こと『騎士王』ケイン・アードベルク。


 こいつらがはじめっから俺の命を狙っているくらい予想はしていた。


「お、大方……俺の行動を監視つつ、篭絡し、て、国の狗にするために、近づいたんだろう? う、後ろの四人、は、俺を手籠めにするための、ハニー……トラップ、要員。……そして、お前の女。違うか?」

「ふふふ、まさかはじめっからバレてたとはなぁ。平民のくせに賢いところがあるではないか」

「それはどうも。うちの、世界の平民はこの、世界の住民より現実的なもんでね。魔王を倒したら、ハイおしまいとか、普通、そ、それだけ終わるわけないだろう。なにか裏があるって疑った、さ」


 信用できない組織から派遣された自称仲間たち。

 それも、イケメン男子一人、美少女四人。

 しかも、美少女四人から夜のお誘いをされて、怪しまないのは無理がある。


「君の言う通り、彼女たちは君を篭絡するために選ばれた娘たちであり、同時に僕の婚約者でもある。君を隷属魔法で奴隷にした後、僕は彼女たちと結婚する予定だ」


 隷属魔法。

 生き物の自由意思を奪い、操り人形にする魔法。

 おもに奴隷商人たちや王族貴族たちが奴隷を作る際に使われている術だ。

 彼女たちのハニートラップに引っかかったら、奴隷ルート直行だっただろう。

 彼女たちの誘いを断って、ほっとした。


「ど、奴隷にするなら、なんで俺を殺そうとする? 隷属魔法は生者しか効果がないはずだぞ」

「もちろん知っているよ。本来なら篭絡できなくともなんとかして君を奴隷にする予定だったさ。人類の最高戦力である勇者の君が我が国の所有物になれば、我が国は無敵となるだろう。――しかし、事情が変わった」

「変わった? 俺の知らないところでなにかがあったのか?」


 俺が怪訝して尋ねると、ハーレム王子ことケインがニヤリとと笑みを浮かべて言う。


「お告げさ。我が神々が君の命を所望されたのだ」

「……は? 神様?」


 ハーレム王子が言う神々は、この異世界を信仰されている神様たちのことだ。

 俺がこの世界に召喚できたのも、神様たちの力添えのおかげだとか。

 たしか名前は……ダメだ。冒険の合間に聖女から神話や宗教のことを教えてもらったけど、冒険に夢中になってたから覚えていない。

 とりあえず、事情を聞くことにしよう。


「なんで、神様たちが俺を命を欲しがるんだ?」

「しれたこと。君は神と世界が認めた歴代最強の勇者だ。神々が恐れる最恐の魔王を倒したことがそれを証明している。しかし、同時に“最恐の魔王を超える暴力”でもあるのだよ、君は」

「…………」

「神々は予知した。君はいずれ邪悪となりて世界の災いとなるのだと。宮廷魔術師や有名な予言者たちもそれを予言した。さすがの我が国もドラゴンに首輪をつけることはできないさ。父も王族も君を殺すことに賛同した」



 なるほど俺が邪悪な存在になって世界を滅ぼすと。

 ケインの言葉に俺は黙って考える。


 …………。

 ………………。

 ……………………。

 うん、ある意味当たってる、その予言。

 とくに“邪悪”のところは否定できない。


「むろん、勇者である君を失うのは我が国の損失になるだろう。しかし、神は約束してくれた。勇者を殺せば一千年は我が国と王家に加護と恩寵を与えると。そればかりから、僕たちを“神”にしてくれるとね」

「神様にしてくれる……?」


 加護はともかく、人間が神様になれるものか?

 もしかして騙されてないのかと言いたいが、有頂天になっているこいつに俺の言葉など聞く耳を持たないだろうから黙って聞く。


「とはいえ。さすがの僕たちでも正面から君を挑むほど馬鹿じゃない。魔王討伐の役目を果たしたら隙をついて殺そうと考えたのさ。よもや、魔王を倒したと同時にチャンスが巡ってくるとは。天は僕たちに味方をしたかもしれないね」

「ケイン、おまえ……!」

「さぁ、おしゃべりは終わりだ勇者」


 王族が継承している剣――宝剣を掲げで、俺の頭に振り下ろそうと構える。


「君は我が国、この世界のために尽くしてくれて感謝する。君のことは魔王と相打ちになって世界を救ったのだと歴史に記しておこう。だから、“僕らのために死んでくれ”」


 無慈悲に、剣が下ろされる。

 巨斧でも割れないほど鍛えたが、彼のもつ宝剣には相手の耐久性を紙装甲にしてしまう効果がある。

 たとえ使い手が未熟でもあっても、俺の頭を真っ二つするくらいはできるだろう。

 日ごろから殺されないよう隙を見せず警戒してたのに、最後は水の泡になってしまった。

 こうなるんだったら、ハニートラップを承知で童貞を卒業しておくんだった。

 無念だ。

 ほんとに無念だ。









 “こいつらを殺すことに無念でしかない”。






 ――ガッシ!


 振り下ろされた刀身を左手で掴んで止める。


「なっ!?」

「――どうして動けるんだ、って思ってるんだろうおまえ」


 宝剣を離さず、俺はゆっくりと立ち上がり、ハーレム王子を正面から至近距離で見据える。

 ハーレム王子は困惑し、身体が震えていた。


「バカな!? なぜそんな怪我で動ける!? 僕たちの攻撃で君は致命傷になっているはずだ!?」

「たしかに。おまえらの連携プレーはやっかいだったよ」


 アスタロットとミーシャの魔法による奇襲。

 エルルの麻痺や毒が付加された矢で身体を硬直化および弱体化。

 テオドラの魔槍で魔法を無効化し、とどめにケインの宝剣による防御無攻撃。

 オーバーキルとばかりの見事な連携攻撃だった。

 が、即死ではなければその攻撃は無意味だ。


「ぬるいんだよ、おまえらは。せっかくのチート武器なのに、とどめを刺さずのんきにペラペラぺらしゃべって。その間に回復しろって言ってるようなもんだぞ」


 刺さっている矢を順番に空いた片手で抜く。

 抜いた瞬間、痛みが走るが同時に傷が塞がっていくのがわかる。


「そ、それこそありえん!? テオドラの魔槍は魔法を無効化し、一定時間治療不可にするものだ! たとえ回復魔法が使用できたとしても、治療行為などできない!」

「はんっ! 歴代最強の勇者の身体を舐めるな。この程度の怪我、自慢の高速回復力でどうとでもなるわ」


 あくまで外部からの治療”行為”が不可能なだけで、生物が持つ内部からの自然治癒力は健在だ。

 肉体に闘気(オーラ)を巡回させて治癒力を促進すれば、この程度の怪我なんて数分で塞ぐことはできる。


「ちなみにエルルの毒薬も俺のバカげた免疫効果のおかげではじっめから効かないから。アスタロットとミーシャの魔法は最初驚いて抵抗(レジスト)するの忘れたけど、今ならレジストは可能だ。――だから、もうお前らの攻撃は俺に通じない」

「ひっ!?」


 睨むと、ハーレム王子が怯えて宝剣を離す。

 剣を離したことで尻餅をついて、腰を抜かしながら後方へ逃げる。

 その代わりに彼のハーレムたちが彼を守る形で俺の前に出てきた。


「勇者が相手でも彼氏を守るか。俺よりも勇敢なことで」

「「「「………」」」」


 ケインのハーレムたちは無言で槍と弓と杖を構える。

 俺も、彼が手放した宝剣を持ち直し、剣先を彼女たちに向ける。

 彼女たちは武器を持つ手は震えているが、全員の目が命を捨てる覚悟をしていた。

 はぁ、やれやれ。

 やっぱり女にとって男は顔と権力っか。

 リア充に嫉妬す人種じゃないんだが、リアルで直視するとちょっとイラっとくるな。


 …………王子殺して、こいつらNTRろうかな?



『ピン、ポン、パン、ポーン。城内にいる者たちに連絡です』


 ん?

 なにこのアナウンス?

 俺が不謹慎なことを考えていると魔王城の城内からアナウンスらしきものが響いた。


『魔王様が死亡したため、魔王城はこれより魔王様の遺言の元、敵による魔王城の奪取を防止するため禁術《奈落》を発動します』


「「…………は?」」


 俺とケインがハマる。

 禁術ってたしか魔法の中で特別危険なレベルの術だったよな?

 種類によっては核弾頭みたいに大都市ひとつを消滅させることができたりする究極の魔法。

 そんな危険極まりない禁術が発動しただと……!?


 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 魔王城が激しく揺れる。

 突然に揺れにケインたちは何が起きたのかわからず混乱する。

 いや、揺れだけじゃない。地下から城全体に巡ってとてつもない魔力が濁流のごとくあふれ出ているのだ。

 い、一体この城になにが起きて……!?


『警告! 警告! 禁術《奈落》が発動! 《奈落》が発動! この禁術が発動した場合、魔王城はこれより異次元空間《奈落》へ永久隔離されます。異次元空間に閉じ込められないよう、城内に残っている者は速やかに退却をしてください」


 えぇぇえええええええええ!?

 ちょっ、まさかの自爆的展開っ!?

 このバカでかい城を異次元に飛ばして永久封印とか、あの魔王とんでもない置き土産を残してやがった!?


『奈落への転送まであと60秒』


 しかも短かッ!?

 一分で北海道並みの敷地面積がある魔王城から脱出するとか、さすがの俺も無理だぞ!?


「冗談じゃないぞ!? 僕はここで死んでいい人間じゃないんだ!?  ミーシャ!」

座標転移(テレポート)!」


 あっ、しまった!?

 俺がアナウンスに夢中になっている間に、ミーシャが唱えた瞬間移動の魔法でケインたちは俺の前から消えた。

 おそらくもう、魔王城から遠く離れた場所まで転移したのだろう。

 くっそ、俺その魔法使えないのに!

 ただえさえ、空間移動できるアイテムをうっかり宿屋に置き忘れてきてから一瞬で魔王城から脱出することができない。

 こうなったら、自力で脱出するしか――



『4……3……2……1、0。――《奈落》に転送します」


 やべっ――。


 瞬間、魔王城の内部が閃光に包まれる。

 それ同時に、俺の意識が途切れ、視界が黒く染まる。


 くそったれ……。

 こんな結末になるんなら童貞を卒業してから魔王倒せば、よ、かっ、た……。


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