7・行く当てが無いから拾われることになったよ
結局、行く当てのない俺たちは、すべての始末と弔いを終えた後、白石衆と共にすることを選んだ。
白石衆には大きな組織があって、俺たちが居るのはアオムシを専門にする集団だそうで、他にもキイムシを専門に狩る集団も居るそうだが、そちらは食料品確保が主目的だという。確かに普通のバッタは食うもんな。キイムシも食えなくはないんだろう。
知らんけど。
「今食べてるそれ、キイムシだけど?」
一瞬、手から零れ落ちそうになった。なかなかに旨いコレが・・・・・・
まじまじと見てしまったが、そうか、俺たちは今まで狩ることは考えても食う事まで頭は回ってなかったな。時折、村で倒したキイムシに人が群がって脚をもいでる姿は見たことあるが、そう言う事だったのか。
そんな事を想いながら香ばしく焼けたソレをボリボリ食い続けた。
鉄牛がこれだけ居る集団は数が少なく、大半は寸筒を担いで移動する五人組だという。さらに、がとりんぐという筒はこの組が初めて使うんだとか。
「寸筒でも、鉄牛に載せてるのは特別なのよ。普通の筒はこう、手で開け閉めするのよ」
なんか、その手つきは違うんじゃね?と思う様な事をやり、遼がそれを見ては震えている。
もちろん、その間、遼が何もしなかったわけではない。すでに付き従って二日ほど、遼は鉄牛の世話をする人たちに交じって何かやっていた。今日は鉄牛の手綱をもって動かしていたくらいだ。
「あら、遼ちゃんどうしたの?貴方ならすぐにも鉄牛を任せられるわよ?惜しいわねぇ~」
何が惜しいのか知らないが、完全に妙齢なアレのおもちゃにされているのは間違いなかった。
なぜかこの組は次の狩りへと赴こうとはしない。そのまま付き従って四日が過ぎた頃、名東の街を横切って只野という街へとやってきた。
そこは見たこともないカラクリや屋敷が立ち並び、煙突からはモクモクと煙が吐き出され、時折真っ白い煙を噴き上げる屋敷まであった。
「ここは何処なんだ?」
あたりはどこか浮世離れした世界と言えなくもない。城の石垣でもないのに石を積んで作られた屋敷らしきもの、木ではないナニカに朱が塗られた骨組みが見える屋根。そして、鉄牛が多く闊歩しているその光景。
「何って、只野よ?元能さまや栄左衛門さまがカラクリを創り出す都」
どうやら、この組が持つ筒は未だ他に売っているようなシロモノではなく、白石衆の中でさえ持って居る組が居ない希少なモノらしい。
「ホント、偶然ね。一番新しい筒の試し撃ちに出会った上に、只野に来れちゃうんだから」
確かに言われた通りだ。只野ってところはそう簡単に入れるところではないらしい。
「悪い言い方をすれば、あなた達は身寄りも無いからここで知ったカラクリを誰かに漏らす事もない。当然、漏らさないように白石衆から外に出す必要もない」
その笑みは背筋が凍るかと思った。
「おい、それって・・・・・・」
遼が怯えながらもそんな声を上げる。
「あっらっ~?その気になってくれたのかしら?」
ニッゴリという表現が似合いそうな不気味な笑い顔だった。
「ま、それも冗談じゃないけど。あなた達なら心配ないわよ。五町先の的を撃ちぬける腕を持つ慶ちゃん、化けたアオムシを容易に見つけ出す辰ちゃん、そして」
ニッゴリと視線が遼を向く。
「鉄牛をいとも簡単に操る遼ちゃん。あなた達にはすぐにでも白石衆で働いてもらいたいわね」
妙齢なアレの個人的な意見という訳ではなかった。あれ以来、一度も狩りをしないにも拘らず、なぜか筒や探索の鍛錬をし続け、遼は鉄牛を乗りこなしていた。
どうやら、付いて来ると言う俺たちは試されていたんだろうな。
「まずは、あの子たちに混ざって手習いとサンパチの修練からかしら?」
そう言って指さす先には老若問わない人たちがあの小筒を手に走っていた。つか、さんぱちって何?
手習いは面倒だったが、小筒の方はどうという事は無かった。小筒の事をサンパチというらしい。サンパチ筒って言うんだ。でも、二分だし、筒本体にしても三や八が掛かる重さや長さがあるとは思えん。なぜサンパチなのかは謎のままだった。
「なあ、俺、鉄牛乗りの修練やるんだぜ」
嬉しそうに遼がそんな事を言いだしたのは只野に来て何月達った頃だったろうか。慶も射撃の組へと進んで、あの時の寸筒で七町先の的を連続で射抜いたそうだ。俺はと言うと、特に年齢の高い組に放り込まれて、組の動かし方とかを習っている。手習いに苦労したが、ちゃんとやっておいて良かった。遼の奴は算術を寝て過ごしたおかげで今頃泣き言を言っているらしい。牛飼いに算術がどう関わるのか俺には見当がつかんが。
そんな平穏な日々がしばらく続いた。このままずっとこうなら良いのだが、俺たちは蟲狩りだ、習ったことをしっかり蟲を狩る事で示さないといけない。
そんなある日、俺たちは呼び出しを受けることになった。遼は何もやっていないというし、慶は迫られてはいないという。当然、俺は大人しくしていた。