2・そんな事言って大丈夫なんだろうか?
「お前ら、次の的が決まった。アオムシだ」
頭も顔をこわばらせている。当然だが、俺たちなんかは血の気が引いてる。待ってほしい。何でよりにもよってそんな凶悪な奴に手を出すんだ。
アオムシはそのあたりの虫としてさえ凶暴な奴なのに、それが家ほどにも巨大化した蟲ともなれば嵐かなにかと考えた方が良い。
俺たちの村に出たやつだって相当だった。初めはなんで大木が動いてるのかと思ったくらいだ。
アオムシは化けるのが巧いから簡単に分かりはしない。姿を見た時にはお終いってのはよく聞く話だ。
しかも、クロムシなんかと違ってあまり出てはこないが、出て来た時の被害は比較にならない。肉食で熊すら狩って食うと言われている。熊を食ってるところは見たことないが、村で人が食われているのは見てしまった。
家なんてあの鎌で撫でればひとたまりもなく吹き飛ぶ。屋敷だって城だって飛ぶんじゃないか?とんでもない怪物だ。
「頭、マジでやるんすか?」
一人が俺たちを代表するようにそう切り出した。
頭が俺たちを見回す。
「確かに、蟲狩りにとっちゃあ難敵だ。普通なら蟲番所に届出て白石衆に頼むのが筋だがな。俺らだってクロムシやキイムシ相手にゃあいくらでもやってきた。今回出たのは一匹って話だ。なあ、ここらでデカイ手柄上げて、金子じゃねぇモン欲しいと思わねぇか?」
頭の言いたいことが分からない訳じゃない。蟲狩りが相手するのは大抵はクロムシやキイムシだ。
というのも、こいつらは雑食ではあってもわざわざ人を狙って食いに来たりはしない。稲だったり家畜の糞だったりと、山に食い物が少ない時に下りてきて漁るだけだ。
確かに、奴らは殻が堅くて槍や弓では通らない。普通のサムライ筒みたいなモノでも無理がある。白石衆が作り上げた蟲筒でなきゃ始末できないのは確かだ。
だからこそ、俺らに仕事がある。命を張るから禄も良い。
が、アオムシ、アレは別だ。アレと殺るのは戦だ。一匹でさえ、蟲狩りが束にならなきゃどうしようもない。
動きが素早いとか飛んで跳ねてだとか、そんなチャチな話じゃない。気が付いたら鎌の届くところまで迫ってやがるし、何なら、気が付いたら頚が飛んでることだってあり得る。アレ一匹で千の足軽に勝るとさえ言われてるんだ。実際そうだろう。気まぐれに襲われた俺たちの村は半刻もしないうちに瓦礫になった。人を食らい、牛や馬を食らって、気が済んだらどこかへ歩き去ったんだ。
頭が俺たちを見回す。確かに、白石衆ほどの技が無いとは思わない。慶の腕は白石でやっていけるんじゃないかと周りの蟲狩りにも言われるほどだ。
「辰、遼、慶。お前らなら白石衆くらいの事は出来るよな?慶のウデと辰の目があればアオムシだって狙えんだろ?」
頭は俺らに期待してるらしい。
「でも、頭。俺ら、本当に出来るのか?」
相手は一匹だという、確かに、蟲筒四丁の俺らでも、殺って殺れない訳じゃないハズだ。とは思う。が、それはあくまで、蟲筒が四丁あるから出来なくはないという予想でしかない。
「出来るさ。そうなる様に、弾も買い入れた」
そう言ってこれまでと違う弾を見せられた。
それはまるで鏃の様な頭をしていた。普通はドングリ型の鉛玉なのだが、その鉛の弾に鏃を突き刺したような状態だ。
「こいつはアオムシの殻を貫ける弾だ。これ一つで普通の弾なら十は買えるシロモンだ」
そう言って、射手に三発づつ手渡していく。ほぼ一月分の弾代がこの三発で消え失せるんだ。トンでもねえ。
だが、考えようによっては、アオムシを狩るのはそのくらいの金も気合も必要で、それだけの価値もあるという事だ。
そんなものを配られた以上、今更否応もない。
俺たちはアオムシの出るという村へと出立した。