めっつぁすたやさぁ~がっ 3
「さすが外国は違うなぁ~」
飛び交う飛行機を見ながらそうつぶやいてしまう。
日本ではそのような方法は許されないが、きっと南アメリカでは普通なんだろう。
「お国柄という奴だろう」
そう言って寒川さんも見上げている。
派遣された俺たちが行ったのは市街区近郊の群生地のみで、より森の奥地についてはクラスター爆弾による絨毯爆撃で討伐を行うという荒っぽさだった。
これが森と住宅地の距離が遠い国かと呆れかえるしかない。
日本においては一匹づつ確実に仕留めることが求められる。寸筒に自動装填機能が備わった1900年頃より後、日本ではガトリングの使用すら行われなくなる。
ガトリングは弾幕を張る事で群体を掃討するのだが、日本においては討伐地域が常に人里と隣接しており、当然のように流れ弾による被害が発生していたので、自然と狙撃による確実な掃討へと移行したが、外国では人口希薄地域では軍事作戦張りの行為が常識であり、市街区から追い立てた後はだいたいこんな状態だという。米国がチェーンガンを使っているのも、飛び回るバッタの群をその弾幕で撃ち落とすためだ。今の日本では許される方法ではないが、土地の広い海外では未だに一般的な手法だ。
市街区から追い払ってしまえば俺たちの仕事は終る。ただ、残余の蟲が市街区に迷い込まないとも限らないので、しばらくは警戒のために交代で警戒に当たることになっている。
そんな余暇に、持ち込んだ小型四脚騎で買い物に出かけることにした。
今や鉄脚は世界中に普及している。ただ、一般的かというと、そうではないが。
鉄脚の多くは蟲狩りに利用され、民間での使用はごく一部に留まっている。
これは鉄脚が発明された江戸時代後期からモータリゼーション以前を除いて、日本でも同様だ。
鉄脚、主に蟲狩りに特化した六脚型は不整地走破性を買われて戦車の出現以前の一時期、戦闘用に利用されたことを除いて、蟲狩り以外の利用が無いのは当然なのだが、牛馬と同程度の大きさになった四脚型が普及していないのは、自動車に対して積載力が足りず、速度も牛馬と変わらないという点にある。
なにより、鉄脚は特有の整備が必要で、それが安くない事もあっただろう。
現在ではバイク感覚で乗れる小型の鉄脚も開発されているが、これは近年単価が下がった炭素繊維やナノセルロースを使う事で軽量化が実現し、人を二人載せる程度の積載量に抑えたことで耐久性を上げる事が出来たからと言える。ただし、速度は時速50km程度が限界で、主には蟲狩りが山野でGやバッタを追うのに利用するのがもっぱらとなっている。
操縦に特殊な技術を要しないのは白石回路の優れた点ではあるが、そもそもの鉄脚という制約から逃れることは出来ていない。好んで乗るのは蟲狩りくらいのモノだろう。
だからと言って、鉄脚が蟲狩り専用かと言うと、そうでもない。
速度要求が低く、不整地での利用が要求される分野での利用は存在し、林業や農業、工事に伴う山岳地での輸送に利用されることはある。
特に山岳地での工事には蟲の脅威も存在するので蟲狩りが同伴し、それが鉄脚の利点を見せつける事にもなる。
そうして特殊用途での鉄脚の開発はいくつか行われている。
そうやって開発されたのが山岳作業騎や果樹園用作業騎の類だ。一般に見る機会がないので知名度が高い訳でもないが。
一時は山岳作業から災害救助用の鉄脚も開発されてはいたが、パワードスーツの実用化以後、より小回りが利いて汎用性が高いという事から、開発の重点がパワードスーツに移行してしまっているのは、個人的には残念と言わざるを得ない。
現在、開発の主流は小型の無人多脚ロボであり、有人の鉄脚は廃れた存在と見做され、鉄脚が利用されている分野が蟲狩りと一部産業に限られる原因は、やはりその耐久性にあると言えるだろう。
日露戦争で示されたように、重量物を積み、或いは装甲を施した騎体での長距離移動は負担が大きく、鉄牛の様な定期的な検査や規則的な運転ならばいざ知らず、軍用や個人用として利用するには不安要素が大きかった。その弱点は今も解決はしていない。やはり、長距離移動や長時間の使用での耐久性は自動車に劣り、当然ながら速度は出ない。
そのため、小型の開発が行われたのだが、それは搭載量を減らし、自重も削ったことからバイク程度の利用法しかなく、耐久性や安全性を考慮して時速50kmに抑えているため、一般利用はあまり見込めない。
一時は海外での販路が期待されたが、そもそも、外国では鉄脚の操縦を教える場所がないため、販売には教習施設がセットでなければならず、コスト面から諦めざるを得なかったらしい。
結果、日本でも海外でも鉄脚は蟲狩りや一部の趣味人しか乗る事は無くなっている。
しかし、コイツなら走る場所を選ばない。モトクロスの様なセンスが無くても悪路を走れるのは俺たち蟲狩りには大いに役立っている。
この小型騎の登場で良かった点として挙げられるのが、蟲狩り数の安定だろう。旧来、鉄脚を操る蟲狩隊はともかく、地域の自衛組織としての蟲狩り衆団は減少の一途だった。
手弁当で五分筒一本の徒歩が基本のため、都市化に伴い中山間地から人が減ると蟲狩り数も減少した。その後のベットタウンの展開においても忌避されることが多かったのだが、小型騎の登場でその傾向に歯止めがかかったと言える。
そうした蟲狩り衆団が主に対処するのは、生息数が多く頻繁に住宅地に現れるGだ。流石に蟲狩隊がGの対応までしていては人手が足りなすぎるので大いに活躍している。
最近は俺たちのご先祖をモデルにしたアニメの影響か、若者にもなり手が現れてくれた事は誤算でもあった。
その注目株と言えるのが、ご先祖譲りの童顔をした慶介だろう。本人は乗り気ではないが、これから注目されるのは間違いない。
蟲との戦いにおいて、ヒーローやヒロインは今のご時世必要な存在だろう。終わりない戦いを続けていくための物語の一ページ。そこを飾る華の存在がより物語を盛り上げてくれるのだから。




