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めっつぁすたやさぁ~がっ

「酷い。本当にあれ助けなきゃいけないんですか?」


 僕はその光景を見て呆れかえっていた。無線を聞けば英語で何か言ってるのは分かる。スラング多いしきっと放送では流せない罵詈雑言ばかりな気がするんだけど、それ以前にあきれ返るには十分な状況だった。


「そう言ってやるな。過信するからああなるんだよ。ここは合衆国じゃないから生態も違うのに、それすら考慮してないんだろう」


 多分そうだと思う。しかし、本当に酷い。


「個人的な感情では俺も助ける気などないが、これも仕事だ。それに、蟲が暴れて困るのは彼らではない、ここに住む住民たちだ」


 まあ、そんな事は分かってるんだけどね。


 僕は蟲狩り暦2年の新米だ。十河慶介、実は十河慶の子孫だったりする。でも、祖先の七光りではなく、実力でご先祖様と同じ射手を任されてる。それも、エリートグループの。


 目の前では見るからに最新鋭の戦闘騎モドキが機関砲を乱射している。しかし、容易にカマキリの接近を許して殴打されている。どうやればあんな素人みたいなことになるのかな?


「あの騎体って見たことないんですけど」


 目の前には蟲狩りのシンボルともいえる青い機体ではなく、まるで軍用みたいなサンド塗装の騎体が素人然とした乱射を繰り返している。


LM(ロッキー・マローダー)の騎体だな。軍用のセンサーとGPS連動データリンク積んでるはずだ」


 騎長の香西佳辰さんがそう言った。


「LMって、同士討ちした戦車のメーカーじゃないんですか?」


 そう、中東での戦争で出た米軍の犠牲の三割はあの戦車が同士討ちしたからだと言われている。


「戦車はG(グランド)D(ディフェンス)だ、LMが作っているのは主に戦闘機だな」


 訂正したのは操縦士の寒川遼一さんだ。


 そうだったんだ。でも、その飛行機メーカーの最新装備を搭載した戦闘騎が何故あんな醜態をさらしているのかよく分からなかった。


「そうだっけ?まあ、良いや。そもそもだ、米国内だとカマキリよりもバッタが多い。空を背景に飛び回るから赤外線カメラやレーダーでカンタンに照準が付くんだが、カマキリは『機械の目』すらなかなか見付けられない。アレを見付けるには今でもMk1アイボールが最高のセンサーなのさ」


 騎長はそう言って自慢した。それは射手の僕もそうなんだけどね?


「つまり、勢いスタンピードの救援に南米まで来たけど、『機械の目』に頼れないからパ二くってるんですかね?」


 騎長は「そう言う事」と言って、チームに指示を出し、米国の部隊にも呼び掛けていた。


「慶、アメちゃんが退いたら思う存分に撃て」


 何ともザックリな指示が出た。でも、それで十分だった。スタンピードだから適当に撃っても当たるもの。


 騎長の呼びかけから5分ほどで米国の部隊は後退してきた。寒川さんが騎を前進させる。


 米国部隊が退いたら良いという指示があったので、すぐに照準作業に入る。いくらでも居る。


 戦闘騎の基本構造は200年間変わりがないという。それでやっていけることに驚きだと思う。

 

 例えば、目の前を退いていくサンド色の騎体は最新のコンピュータを備えて、騎体だけで数十億円もするらしい。しかし、僕の乗るシライシ製の戦闘騎ならば、国産スポーツカー3台程度で完成品になる。コスパは歴然じゃない? 


 その分、最新式のコンピュータシステムはほとんど搭載してないし、200年前と違うのは視界を得るキューポラやペリスコープが硬化ナノセルロース製の窓に置き換えられ、エンジンがモータに替わり、筒の保持にパワーアシストが付けらえた程度ではないだろうか。あ、操縦席は自動車みたいな液晶ディスプレイだった。あ、あとエアコンが付いたのは、200年前との大きな違いかな?


 しかし、赤外線センサーやレーダーは備えていない。それは、未だに巨大昆虫の甲殻がほぼ自然の温度、色景に溶け込んでいて、コンピュータの目ではあまり抽出できないからだと言われている。現に、米国騎がその状態に陥ったし、日本でも先端技術を投入して開発した騎体が同様の欠陥機だった。騎体制御は先端電子機材より格段に安い白石回路という鉄部品の電子回路で十分行えている。相手がミサイルやヘリならそうも行かないのだろうけど、蟲相手にはこれほど柔軟に対処可能な制御機構はないと、常々寒川さんが口にしている。この人、シライシでテストパイロットもやっていて、先端欠陥機も担当していたらしい。


 筒に備えられた光学照準器は昔と違い広角で明度も高いため、外す方が難しいと僕は思っている。


「射撃、開始します」


 戦前の戦車同様に肩持ち式と呼ばれる架装方法の蟲筒は機械式アームで弾を込める自動装填式。一般的な機関砲とは違い、自動装填砲の構造が採用されている。その分、軍用機関砲みたいに1秒に8発も10発も撃てる訳じゃない。米国の騎体には軍用チェーンガンを国際法に沿って改正したモノらしいけど、あの乱射ならば毎秒3発は撃ってるよね。シライシの一寸蟲筒ST20は自動化された当初と同じく、毎秒2発、毎分120発でしかない。軍用としては使い物にならないと思う。ただ、命中精度は手動射撃を行う上では右に出る砲は存在しないと思う。

 ただ、実戦で引き金を引き続けるなんてしないから、連射性能なんか僕には関係ない。


 一匹のカマキリに狙いを定めて、一度だけ引き金を引く。700m()()離れていないので容易に頸を跳ね飛ばす。

 それを横目に見ながらその近傍に居る個体へ照準を合わせ引き金を引いた。


「さすが十河家、お前の伯父さんなんて目じゃないな。まあ、あの人は騎長の方が適正あるけど」


 騎長がそんな無駄話をするが、僕は適当に答えながらも射撃を止めなかった。


 他の騎は何発か外した様だが、米国騎が倒した死骸に群がるカマキリはほとんど無駄弾なく駆除することに成功した。


 明度の高い照準器にパワーアシスト、自動装填。これらが無い時代にハイスコアを叩き出していたご先祖様は本当に化け物だと思う。僕にはあそこまでの事はさすがに無理。


「君は本当に十河慶の生まれ変わりみたいな奴だな。その若さでそのウデ。白石御三家が組んでいるとはいえ、私や香西とは格が違い過ぎる」


 寒川さんがそう自嘲しているけど、そんな事は無いと思うんだ。三人の中でもっとも経験豊富なのは彼なんだしね。


「はいはい、前進。アメちゃんが狩り切れなかった残りを狩りに行きますよ」


それを遮るように騎長が前進を指示してきた。


 狩人の物語に終わりはない。今日も僕たちはひたすら蟲を狩り続ける。

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