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13・そして暴走は終った

 翌日も同じように蟲追いを行った。


 二号騎の面々も同様だが、昨日みたいな事は起こしていない。流石に懲りたんだろう。


 昨日の行動は基本的には間違ってはいない。俺たちの鉄虫が寸筒で狙い。数が多い場合には二号騎が前へ出てがとりんぐで薙ぎ払う。


 さすがに二日目は二号騎も暴走することなく、慶が倒したところにアオムシ(カマキリ)が程よく群がってから適度な距離から薙ぎ払うという事が行われた。


 二号騎はがとりんぐの弾の消費は早く、俺たちも常に演陣を吹かしているので酒の消費が早かった。


 そのたびに鉄牛と入れ替わって補給と休憩が行われる。


 そんな事を数日続けて何とか西浦へとたどり着いたが、まあ、案の定、そこはただの廃墟だった。きっと夏には蟲の襲撃を受けて人が居なくなったんだろう。どこもかしこも草だらけだった。


アオムシ(カマキリ)の奴ら、旺盛な食い気で喰らい過ぎてエサが無くなってるんじゃないのか?」


 遼がそう言う。その通りな気がしないでもない。きっと山の獣だって今頃食い尽くしてるんじゃないのか?


 そこからはしらみつぶしに平野部のアオムシ(カマキリ)狩りが行われ、山では襲い掛かってくるもの以外は追い立てるのみに留めるという日々が続いた。


 結局、それを延々二十日ほども行い、平野には小物や卵もないことを確認してから、寒くなるのを待つことになった。

 朝晩に露が降りるようになっても連中は昼間は元気なのでなかなか手が出せない。かといって、山に分け入ればただでさえあお()色に溶け込む奴が、更に見えなくなる。


「山ん中で熊でも猪でも貪ってる分には構わないのにねぇ、なんでこんな島で増えちゃったのかしら」


 ある程度落ち着いたことで身なりを整えた妙齢なアレがそんな事を言う。


 蟲というのはだいたいその年ごとに沸く数は決まっているが、時として大発生する。蝗害というのはそう言う時に使う言葉なのだそうだが、


「相手がイナゴならまだ良いけど、アオムシ(カマキリ)なんてとんでもないわ」


 と呆れたように山を眺めていた。


 そんな事を続け、ようやく霜が降りる頃になった。


「そろそろだね」


 妙齢なアレの指揮の下で風を読みながら山へと火付けが行われた。


 この夏から薪拾いに入る者もなく、何なら、ほぼ春から手入れがされていない山は荒れ放題で、秋ともなれば枯葉や枯草、そもそも燃えやすい笹など、火の手が広がる要素は十分にある。

 幸いかな、この十日ほど雨もなく程よく草木も乾いている様だったので、火の回りも早かった。


「俺たちって何やってんだろうな」


 ふと、焼けた山に分け入り、残ったアオムシ(カマキリ)を狩っているときに、遼がつぶやいた。


「何って、蟲狩りでしょう。蟲が居るんだから仕方ないじゃない」


 筒をもって外を睨みながら慶がそう返していた。その通りだとは思うが、遼の気持ちも分からないではない。ここまで狩りつくすことの意味ってのは、俺の頭ではどうやら答えは出ないようだ。かといって、狩らない理由もなかった。


 山を丸焼きにしてそこに焼け残った蟲を追った。それも二日もだ。


 それから程なくして俺たちは只野へと帰り、鉄虫は版画へと預けられ、鍛冶師たちが群がっている。


「今回は良いデータが取れたよ。いきなりのスタンピードで不安もあったけど、いやぁ~、皆も鉄脚も無事で良かった」


 元能さまがそう言って俺たちを労ってくれた。

 

 それからまた異国語だらけの話をしばらく聞かされたが、正直まるで分らなかった。


「あの、ぱわどすーって、何ですか?」


 話に出てきたモノについて誰かが聞いている。やめとけ、理解の範疇外なんだから。


「あ?パワードスーツか?まあ、そうだな、カラクリ鎧っていえば分かるか?鎧にアクチュエータやモーターを付けて、人間の力以上の事をやるもんだ。そのうちそんなのがメインになる」


 鎧に鉄牛や鉄虫みたいな筒付けて人以上の力で動かすのか。そのうち出来るのかもしれんが、どうやって動かすんだろうな、乗って棒や踏板で動かすんじゃなく、着るんだよな?考えるだけ無駄そうな話だ。


「だが、それ以前に、鉄脚は無くなるだろうな。ゴマ(車輪)で動くモンがわんさと出て来るだろうよ」




 


 あれからも俺たちは蟲を狩っている。気が付いたら蟲狩り衆の差配をやるようになっていた。


 元能さまが逝って四十年か、栄左衛門さまも既に亡い。後を継いだ弟子たちが鉄牛や鉄虫を改良し、世間が開国だ攘夷だと騒いだのにも邪魔はされなかった。


 いや、俺たちが抑え込んだと言って良いかもしれんな。御公儀も大名たちも俺たちの筒や鉄牛、鉄虫に対抗可能な武力は持って居なかった。大半のサムライが筒や鉄牛に興味を持たなかったのだから当然と言えば当然だが。


 結局、御公儀の家筋だった玉藻の殿様の計らいで上様から天子様へと何かが返上されたらしく、御公儀が政府という名前に替わった。

 その頃から南蛮人も入ってきたが、俺たちと似たようなものか劣る物しか持ってはいなかった。鉄牛や鉄虫なんか持っていなかった。ただ、陸蒸気とかいう車を持って居たのは元能さまの言う通りだった。

 今ではアレの鉄路が全国に敷かれようとしている。

 だが、鉄牛がアレに負けると言った話は未だ聞かない。なんならうまく住み分けしている具合なんだが、まさか、元能さまはそこまでは予想できなかったんだろうか?


 鉄虫に至っては今や我が国軍隊では騎兵より優先されるほどの兵科になっている。寸筒どころか、二寸はあるような筒を備えた鉄虫が軍隊では使われている。軍隊用は昔、栄左衛門さまが言っていた短い筒先で炸裂弾を撃ち出すように出来ている。蟲狩りは弾の速さが必要だが、軍隊には必要ないらしいので、まるで方向性が違う仕様になった。

 

 今では昔は想像出来なかったような鉄牛が街でも田舎でも闊歩している。今の姿を元能さまや栄左衛門さまが見たらどういうだろうな。

 

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