11・いきなりの実戦って、そりゃあナイでしょう!
「集まって貰ったのは他でもない」
兵法訓練の数日後、鉄虫の麺手茄子というのを入念に終えた次の日の事だった。訓練に参加したあの大組が版画に衆参していた。
版画は鉄の骨で組み立てられるから結構簡単に組み上がってしまう。建てるのも繰錬とかいう演陣を使ったカラクリだ。ここは本当に外から隔絶した場所で、外から比べると何十年も進んでるんじゃないかとさえ思う時がある。
一度、栄左衛門さまに小さな演陣で小さな鉄牛を作れば牛の代わりに犂を曳いたりできるんじゃないかと聞いたことがあるが、当然だと胸を張っていた。何なら、田植えから収穫や脱穀も可能だという。しかし、おおばてくのろ痔とかいうモノはやり過ぎると自分の首を絞めるとかで手を出さないんだそうだ。じゃあ、鉄牛や鉄虫は何なのかと問いたいが、はぐらかされてしまった。
「お前ら!玉藻を攻めたいかー!!」
いきなり何か言いだした元能さま。場は白け切っていた。
「ノリ悪いな。お前らの戦力なら名東のお城攻めだってサクッと出来ちまうぞ?」
横を見ると慶が顔を青くしていた。まさか、そう言う事だったのか?
「が、そんな事はどうでも良い。俺っちや栄左衛門の俸禄は名東の殿様から貰ってるからな」
そう言って笑いだした。
そう、栄左衛門さまと言えば、江尻の塩田開発ってくらいの有名人だし、伊納勘解由って曼遊人の手伝いもしたらしい。
今では只野でおかしなカラクリを元能さまと作る変人でしかないが、昔はすごかったそうだ。
「まあ、ギャグはそんぐらいにしようか。本題だが、アオムシのデッカイ巣が見つかった。海ぃ渡って三原へ行ってもらう」
慶が戦おっぱじめることを危惧していたみたいだが、これは間違いなく戦だ。相手はアオムシだが、殺ることに違いは無いんだ。
三原というのは名東の東にある阿淡の国、まあ、島だな。そこで人を食い散らかして随分勢力を広げているらしい。
すでに蟲狩りや白石衆も入っているらしいが、あまりに酷いために御公儀は一切黙しているらしい。島の半分くらいは連中の巣なんだという。普通ならエサが無くなって滅んでしまいそうなもんだが、島と名東の海峡は一里も無いから渡って来られたら困る場所ではある。
三原までは西阿まで街道を行って、そこで渡しに乗るのだとばかり思ったら、只野の浦から直接大舟で向かうというのには驚いた。
陸を行けば四日の旅だが、海を行くので一晩そこらで着いてしまう。そもそも、考えて見れば鉄虫や鉄牛が峠を超えるの自体難しいから、大舟用意した方が早いんだろうとは、慶の談だ。
船に揺られて翌朝には島影が見えた。昼過ぎには間近に見えだしたのだが
「なあ、アレ何に見える?」
その時、遼が島を指して言う。
「アオムシじゃない?」
慶が何か諦めたようにそう言った。
まだ浜に上がってもないのに見えるってどういうこった?確かに、家ぐらいあるが、アイツは十五尺はあるんじゃないのか?鉄虫どころじゃねぇぞ。
どうやらすでに上陸している誰かが狩っている様で、筒の鳴る音がいくつも聞こえている。
そんなとんでもないモノを見てからの上陸だ。誰も軽口を叩く余裕がない。
大船に乗る前に指示されたように、俺たちは三組に分かれてそれぞれが言われた場所へと向かう。
「湊の縁って、あの旗があるとこだよな?陣所」
遼が確認して来るが、たぶんそれで間違いない。後ろの鉄虫や鉄牛にも”らいと”とかいうカラクリで知らせる。もお留守っての考えたやつスゲェな。南蛮には凄い奴が沢山居るらしい。
浜からこの一帯、たぶん浜の村一帯は確保できてるらしいが、絶対ではないらしい。
「あらぁ~、懐かしいわねぇ」
陣所では髭が生えた化け物が迎えてくれた。皆引いてるが、本人は意に介していない。
「よく来てくれた。今の戦況だけど、西の山に追い込んではいるわ。ただ、西浦の湊周辺はまだ奴らが徘徊してるの、冬までには西浦からも追い込んで、山ごと燃やしたいのよね」
なんとも壮大な火付けを公言する化け物。だが、確かに、冬は動きが鈍いからそれが一番かもしれない。ただ、その為には相当苦労しそうな気がするんだが。
翌日には俺たちの組が狩りへと前に出ることになった。相変わらずアオムシは草木と見分けがつきにくい。
「木を左に避けろ」
俺たちは鉄虫を谷間に進める。二号騎は斜面を進み、平地は鉄牛が援護にまわっている。鉄虫の脚はそこそこ速い上に筒を構える射手を視認できないので、筒持ち達は鉄虫から少し後方に控えてもらう。
人の足ほどの速度で下草の中を進んでいく。どうやら春からこの辺りはアオムシの縄張りだったらしく、草や笹が伸び放題になって見通しが悪い。三尺程度の小物なら完全に見逃してしまうな。
そんな事を思っていると、前方でユラッと動く気配がした。目を凝らすと十五尺の大物が居やがった。
「慶、正面、四町先」
慶からも「了解」と返事があり、小刻みに筒を操作している様だ。
ドン
さして間を置くことなく引き金が引かれた。
「おいおい、倒した奴に群がって来てるぞ・・・・・・」
さすがに状況がつかめなかった。